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racmon
2025-04-19 21:33:36
49793文字
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【web再録】煙に巻いてくれるな お前
pixivから再掲移しました。
昭和中期パロです。
⚠️地の文も関西弁です。
⚠️モブ→盧笙描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
⚠️名があるモブがいっぱいでます。
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◇ ◇ ◇
吸い込んだ空気に身体の芯がキンと冷える。ばあさまから戴いたカーディガンの袖を伸ばして、脇の下に両手を突っ込んだ。右手に握った十円玉は、俺の体温であたたまっている。
簓が新しく借りたアパートには共同の固定電話が備え付けられていた。あのストリップ劇場もなくなってもうたし、簓の出勤時間に合わせて鳴らす必要もなくなった。別に公衆電話にこだわらんと家のを使えばええんやけど、俺はわりとこの時間が気に入っている。ばあさまから隠れて静かに玄関扉を閉めて、街灯がない道を目を凝らしながら歩く。潮風を感じながら簓と言葉を交わす三分間はちょうどいい長さで、ほどよく焦れるのがええ。次に会う時になにを話そうかと考えるのも、楽しみとして取っておきたかった。ただ、今週末は簓と会えそうにない。街へは出るけど今回は別件や。俺は、生徒からおつかいを頼まれていた。
堤防に一人で座る彼女を見たのは、ちょうど今と同じくらいの時間やった。夜の海辺に見える制服姿を見過ごすわけにはいかん。せやけど普段は特に素行が目立つ子ではなかった。なんか事情があるんかもわからへんし、急に声をかけて驚かせてしもても可哀想やから、俺は遠くから「おおい」と軽く呼んでみた。俺に気づいた瞬間でこそ彼女は顔を歪めたけど、俺があえて教師然とせず話しかけると徐々に緊張を解いてくれた。
彼女が家を飛び出したのは父親との喧嘩が原因やった。きっかけは憧れの存在と彼女自身の夢を否定されたこと。『お父ちゃんはなんも分かってへん』と声を震わしてからは堰を切ったように話しはじめた。
『お父ちゃん、私の顔しか褒めへんねん。私のこと、アホでなんもできひんて思ってんねん。私がなにが好きでなにが嫌いで、得意なこととか、どんな夢持ってるかも知らんかったくせに』
それから彼女は歌手になりたいと言うた。目指す存在がいることも教えてくれて、生徒手帳に挟んで仕舞っていた写真を俺に見せた。そこに写っていたのは、綺麗な顔立ちに化粧を施した青年。独特の世界観を持った人物やということが、その一枚からもはっきり分かった。マイクをしっかりと握り歌う姿は、切実な想いが込められているように感じられた。父親の反対を押し切ってでも夢を追いたい彼女の次の壁は、目当てのギターの調達。全部を話しきった彼女はハッと顔を上げ、期待の眼差しを俺に向けた。
『先生、おつかいお願いできますか?』
疑問系で投げかけたくせに、次の瞬間には俺にお年玉袋を握らせて『よろしくね!』と去っていった。元々そのつもりで俺に打ち明けたんちゃうかと思うくらいの立ち直りの早さや。生徒に頼ってもらえるのは嬉しい。ただ買い物代行というても、現金を預かることには抵抗がある。俺は早いところ物に換えて渡してしまおうと思った。
一枚の十円玉で簓にすべての事情を説明するには時間が足らんと思い、今週末は予定があることと、それでも早く会いたいという気持ちだけ伝えた。通話が切れる直前に「玄関の鍵締めや」としつこく言われて、俺は少し荒めに受話器を置いた。
渡された金額より一桁多い値札を見て、俺は肩を落とした。白い息がショーウインドを曇らせる。女生徒に指定されたギターには希少価値がついていた。少しの差額やったら黙って出してあげてもよかったけど、今の俺の財布をどんだけひっくり返してもそんな粋なことはできそうにもない。どうしたもんかと預かったお年玉袋を見つめていると、背後に気配を感じた。明らかに俺よりも大きいその影に、身を硬くして振り返る。
「よう。そこのキレーなおニイさん。手持ちが足りねえようだなあ」
「はい?」
防寒に良さそうなごっつい毛皮をまとった男が、俺を見下ろして笑っている。アホほど目立つその風貌に、通り過ぎていく人たちはみんな注目していた。
「随分とお困りのようだ。俺でよけりゃ、力になるぜ?」
急になにを言うとんねんこのおっさん、とは思ったけど、俺は一応話だけ聞いてみることにした。生徒のためにも、できることはしてやりたい。その男はちょうど喫茶店に行く途中やったらしく、俺はその後ろをついて行った。
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