akinoshiroihana
2025-04-14 21:35:33
12874文字
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名刺置き場2

2022入院中ゲッター



(訪問歯科医の足踏みミシン式ドリルにびびった記念です((´∀`;)))


わたしの名はカムイである。種族は聞くな、その目を抉る。

どうしてこうなったかはとんとわからぬ、何故かわたしは廃嫡を辛うじて逃れた帝国の第二王子の身ではなく、浅間山の麓の学園の一学生にすぎぬ。まるでつい今しがたそういう書き割りの前に押し出されたかのようで腰の銃の有無を今一度あらためたところでもある。
いつぞや彼の人の書棚で手にしたあの人らしからぬ空想娯楽読み物にもそのような不思議が描かれてなかったか。ある日帰宅の途上に出会った自分とはなにもかも違う見知らぬ奴が旧来の親友だったなどということになり、作中の人物はそれに違和感を覚える暇もなく
「よう、聞いてくれよカムイ、ひどいんだ」
「聞いてはやるがおまえが悪い」
「ひでえ」
そ奴にやすやすと応えてしまうのである。
「どうした御山の病院はそうそう外出許可もくれんだろうに」
「その通り!だからきっちり外出許可をもらうため、お前の力が必要だからこそ、こうやって会いに来た!」
本末転倒である。そもそも俺はこいつの病名もいつから入院しているのかも知らない気がするのだが、考えようとすると頭がーーー否、一拍遅れて胸がずきりと傷んだ、とおい故郷を思うときのように。(『いけねえいけねえ、まちがえた』との声がまぼろしのようにしたかもしれない)

「とにかく出張診療に来てる歯医者がよ、やべえんだ」
病院用シートではなくパイプ椅子に腰掛けさせられて、撮り鉄のバズーカみたいなでかい携帯レントゲンで顔を接写されて
「神経まで行っているな」
などとてもいい声で言われた後、そこは応急措置でさておいて、黒髪ロングの先生が手前のC2とやらを削りにかかったドリルは『母ちゃんの古い分騒々しかったミシン』と同じ足踏みペダルで動くなんて代物で
「ありゃ令和じゃねえどころか平成すっ飛ばして昭和のドリルの音と匂いと震動と味って感じでさ、こええよまじで」
「あじ」
ドリルの。音と匂いと震動と
舌でさえ、感じたと
「だからよ、外出許可取って町医者行けばもっとマシなんじゃねえかと、」
許せん。
「家族同伴だったら外出許可降りるから、お前に来てもらえばいいやと思って抜けてきた!」
「いま目下尋ねたいことは正直それではない上で聞く、なぜ俺がお前の家族か」
との問いには、ええだってよ俺たち、以下ごにょごにょと、彼らしからぬ歯切れの悪さがあった。

「とにかくそれは僥倖だ、そして必要とし欲するのはむしろ俺だ」
「え。」
戻るぞと首根っこを掴まれた相手からは哀れな声が上がった。


「病棟を抜け出していたそうだな、」
まあ私の時代でも子供の頃はそんな悪い誘いをかけてくれる友達がいたものさ
そんなことを言いつつタッチパネルに触れ、針のように細くて長い銀色の「ドリル」刃先を選んでいる、自身も同じく銀髪なのか白髪なのかがインパクトな「せんせい」に拓磨はあれっと首を捻り、わたしは最早会うことの叶わなくなったらしい、目の前のこの人だがこの人ではない遠い影を探してみる(いやぁ観測者が変わるとこうなるかね、との声が、どこかから、かすかに聞こえたようだった)

*

「大丈夫だったか、隼人!」
……ねえよ、野戦病院かい、ここは」
大砲みたいな携帯レントゲンだなんだお持ちでさ。
麻痺が顔面右にも緩く及んでいたという彼が、幼稚園以来だという歯痛に専門医を呼んでもらい、しかし途中でがんぜない子供のように一度青い顔で出てきてしまっての開口一番がこれだった。
「まったく、せめて同じ目に遭……同じ治療を受けてる奴もいれば納得しそうなんだが、竜馬、お前は」
「あいにく医者も匙を投げるぐらいの健康優良児だよ昔から」
だから、ごめんな、といささか筋違いな詫びと慰撫が発生したのを多元宇宙のどこかの誰かが拾ったのかもしれない、そんな茶番。
カムイは2.67秒後に本来の座標に帰還予定である