akinoshiroihana
2025-04-14 21:35:33
12874文字
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名刺置き場2

2022入院中ゲッター


名刺サイズryリョハry
芍薬甘草湯的なのです。



白猫が、枯れた花を齧っている。

「痛み止めとしちゃ、そんなに効いてもねえが」
先日来の負傷部位への就寝中の痛みで目が醒めてしまっても、そのままもう一回眠りに落としてくれる感じなのだという。「痛いけど不思議と、目覚めなくても大丈夫」って、安心感があってさらにねむたくなって溶かされる感じ、楽でいいよ、という隼人の解説に
「何だかいかがわしくないか」
などとついつい眉根を寄せる
「い、いや『いやらしい』って意味じゃなくて『うさんくさい』のほうで!」
誰がそんな頓珍漢な間違いするもんかい、と、武蔵が突っ込み、我慢するしないじゃなくって夜中に痛みに叩き起こされての安眠妨害だったからこれでいいんだよ、それに俺は錠剤の飲みすぎと注射で腎臓ボロボロにしたかねえやと隼人が言う。その実、日中もその疼きにときおり色を失い、不自然なため息で誤魔化そうとしていたのがばれてしまっての先程の遣り取りに至るのだが

「しかしいまどき漢方頼みなんて!」
「東洋医術をナメるのはいけねえぜ、リョウさんよ」
三人部屋の自分のベッドにすべりこんでしまった隼人の声のあと、シーツだけが白くうねってかすかな彼の匂いをさせる。
ふと思い出す、日本の外まで飛ぶ羽目になったいつかの折のどこかの街角、もしもの際にと持たされていた外貨を両替して傷薬と食料だけを購入したあとは、肌に貼り付くパイロットスーツをフライトジャケットで申し訳程度隠して歩いた連絡待ちの夕刻。(褌をちらつかせる格好の武蔵はそれさえ叶わず留守番となった)

電灯のしらじらとした明るさにふと見たショーウインドウで真っ白い猫が枯れた花を齧っていた。「白豹子」とよく通るが穏やかな声に呼ばれたそれが首をめぐらせた先には昔ながらの薬局らしい店の主人とおぼしき老人、銀色の分銅秤とピンセットに柄の長い匙、さりさりと静かな音と共に何かが砕かれ混ぜ合わされている白い乳鉢
ああ、大丈夫、この子がおやつとじゃらしにしているのは、店にも出す芍薬と甘草さ。だからこの子は病気もしないしいい匂いがするよ。そういって老人が抱き上げた猫の首には赤いリボンが巻かれており、金より山吹色のような鈴がさがっていた。そこに夜の街の青黒い光が差し入り、白いからだの上を這う。どこかで見慣れた色合わせ。
「この子とのご挨拶のキスはどんなだと思うね?」
くすくすと笑いながらそう言われたのはあの日の出来事に勝手に書き足した記憶かもしれない、いま微笑みこちらを見る老人の目が、髪が、年月を重ねつつ自分と同じ色をしているのも
戦闘中、操縦席で強く打ち付けた肋は折れてはいないがじくじくと痛んでいた。息をするだけで、大きくため息をつくだけでつらいなんてと思えば、まるで恋をしているときじゃないか、と音もなく笑い声で答えたのも、老人だろうか

『痛いけれど不思議と大丈夫だって』

どこかで、鈴の音がしている。
闇の中、微かな呻き声で眼を開く

「なあ隼人、芍薬と甘草を齧ってキスするとしたら、何味になると思う」
「なんて言って欲しいんだろうね、うちのリーダーさんは」

白いシーツの向こう、ベッドのすぐ上の段で、あきれた!との小さな声があがった。