akinoshiroihana
2025-04-14 21:25:42
19808文字
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名刺置き場6




●母の日
そういえばそんな季節だったかと。

デパートのショーウィンドウを賑わす五月の第二日曜、そんな少しゆるやかなルールで数える記念日は、浅間山の小高い丘の上まではなかなか届かない。

たまたま先夜、寮生の何某が実家からの仕送りの礼を言いに一階の電話を借りたついでに、殊勝にも母親の誕生日を祝い、さらに同月の記念日についてもうれしげに話していたのだった。薔薇のジャムというのを見つけたからアルバイト代で買ったんだ送るよ、と。
夕食を断り遅くに帰った隼人の姿に彼が、思いがけないところをみられたと言う風にぎょっと身をすくめ、笑顔のまま固まったのを、涼しい顔してすり抜けた隼人だったが、そういえばそんな季節だった。
あれは色が褪せない崩れない品種えらびで苦労したのだったか、じゃあまだ送る花の色は選べないか、と隼人は思い返した。彼はまた別の理由で色を選べなくなって久しいが。
赤は魅惑でピンクなら感謝
黄色は……軽蔑、ならオレンジで純粋な愛、あの連中にはまあその辺か、と。

三人部屋の風情も何もないはずの窓辺に活けられた白いカーネーションに、その向こうの隼人に、流竜馬は先日來の戦友は、明るい窓のそと、庭先からにこりと笑って寄越した。
「なんだい」
「いいや、なんだかお前にとてもよく似合うなと思って」
その声はとても優しい。
仲良く、しようと、友達に、なろうと

「亡き母を偲ぶ」白
それ以外に意味があるとすればそれは―――

竜馬はまだ彼の事をなにも知らない



●核落とせ発言は作秋もう言ってたと思いますが、改めて言っちゃったので(20245月第二週)、
ゲッペラ。stop genocide 5.15

何が欲しい?―――わかんない!
奪われすぎたから、「パパ」も「母さん」も出てこなくて隊員を困らせない子供
こんにちは、何をしてるの―――遊んでるのかい?
瓦礫の中髪も服も青黒くして何度も汚れたつちくれを掬っては落とす幼児
何が悲しいの?―――今日はミチューが、今日は友達の猫が死んじゃった
今日は。こんな世界で失ってきたものがそれより小さいわけがない

それでも涙は流れる
誰かの涙が流れ続けている

「なあなんだ、どこだこの国?街?」
七六年前足止めを食らった宇宙開拓、植民地
「星?」
七六年間の屈辱からの奇跡、嘗て我々が見た素晴らしい巨大なあの光
輝ける、勝利への、破壊

子供たちが融ける 涙が沸騰し燃え上がる
あの日の友の形をしたあの日の自分の形をした戦鬼が
あの日の光が海岸に並べられた「もういない」子供達の服を焼き払う

『この星の第一の年バッグシに……
 今の一発で一億三千万の虫ケラが死滅した』
半年で一万二千人分の子供が殺された

「むさし」


●ボイン話の余韻

「今日学校で、〇〇くん達が廊下に立たされて泣いててさあ」
戦前から小等部からの一貫教育クラスも存在していた浅間学園にしては珍しいのか、それとも懐かしいのか。
「へえ、両手にバケツ持たされたり、正座させられたりのあれかい、懐かし―――
「何をやらかしたってんだい、その上級生たちは」
水曜日、一番時間割が短い日、早くに帰って来た元気少年はリビングで、パイロットスーツのまま待機している竜馬たちに報告する。
「うーんなんかね、初めてブラジャーつけた女子をからかったんだって」
「えっ」
「あ~~~」
「ぶっ」
グローブのまま掴んだティーカップががちゃがちゃと鳴り三者三様の声が漏れ、武蔵がみるみる赤くなる前で、子供はビスケットを頬張る。チョコレートの下にアプリコットジャムが敷いてあるお客様用の一枚を。

「しょ、小学校からぶ、ブラジャァ……?」
やだなあ、マセてやがる、と、気恥ずかしさをそのつもりのない他罰表現でごまかしてしまおうとする武蔵を、ばか、と小さな声で嗜めたのは隼人で、「えっおねえちゃんは4年生からしてたけど」の子供の後追いがあった
なななんでそんなこと知っ、との問いに、姉さんってものはそういう話に結構参加してくるもんなんだよ、マセてるとかスケベないやらしい子だからと言われちゃ、気の強い子は黙ってらんねえだろと隼人がテーブルの下、長い脚をぶつけに行く。どうやら彼にも似たような何かしらの思い出があるらしい。
極めて古風な父を持ち、男尊女卑の強めな九州そだちの竜馬は、「女は汚いのだから先に風呂に入れ」など言われていたのをおくびにも出さず、しかしそういえば話のどこかで口から噴き出していた紅茶を拭い、咳払いする。やはり初めの頃思った通り、この手の話を隼人が好むかといえば、むしろひいやりとしたきれいな薄い笑みが返ってきて芯から冷やされそうだと。

「ま、まあ着替えの覗きとか本当に酷いバカをやってしまう前に教えてもらえてよかったんだろう!たぶん!」
良い話だったように総括しようと力強く笑う竜馬がいて
「だよねえ、お姉ちゃんも哨戒から帰ってくると言うよ、『ひょっとしたら無事生きて戻れたより、一人に返って耐衝撃ブラを外せる瞬間が一番ほっとするのよ、女の子ってそういうものよって』って。邪魔しちゃだめだよね、たぶん」
おそらくも何も穢れを知らぬ乙女に違いない少女の口から出たというそんな台詞は思いがけない剛速球で
一人でブラを外すのが一番気持ちいいのよ、貴方たちは永遠にわかんないでしょうけど
とかなんとか変質して高校生男子たちの脳裏を駆け抜けて

今度こそ紅茶を噴き出す隼人がいた
(やはり似たことを聞いた過去があるのだろう、たぶん。)