akinoshiroihana
2025-04-14 21:23:10
22255文字
Public
 

名刺置き場7




●食玩


待機だ、今のうち食べときなさい、
そう通信で言われ風防を開けて、離れ離れの彼らが差し出されたバッグからめいめい選んだのは
「一粒三百メートル」
「あ、隼人もキャラメルか」
通信機の向こうの竜馬の声は少し楽しそうだった。
映画館の売り子が、上映の休憩時間に通った時みたいで、ちょっとだけわくわくしないか、という竜馬の声とは別に、オープンになっているらしい武蔵の通信からはぱりぱりぽりぽりいう音がした
「ははっ『おせんにキャラメル、ラムネに落花生』、かい?」
言えば向こうから「ゆで卵もあった!」と聞こえ、「新幹線か!」と竜馬が笑った
「ああ、だけど、このキャラメル女の子用だな、オマケが」
何時から分かれたんだっけ、俺達が小学校に入るぐらい?
人形が「バービー」だけじゃなく「リカちゃん」も増えたのとだいたい同じじゃねえかな、姉さ……姉貴がさ。
言えば、「隼人は明日香さんで覚えてるから目安になるものが時々女々し……面白れえや」との茶々が入って、悪いかよ、と彼はむすりと黙り込む。

しかし一つ間違えれば死出の旅、「間違えた」菓子だったと知れれば職員はさぞかし居心地悪いだろう。竜馬とおそらくマイク向こうの隼人は「女の子用オマケ」の付いたキャラメル箱が、ゲットマシンの錐揉みに耐えてくれるようシートの隙間に無理矢理埋める。
「オマケ、なんだった?」
俺達のはクルマばっかりだが、女の子のは家具のミニチュアっぽくて芸がこまかいんだぜとは隼人、どうやらそれほど機嫌を悪くしたのではなかったらしい
「おおそうそう!俺っちのは透明なプラスチック使ったレコードプレーヤーでよう!」
「おまえキャラメルも食ってたのか」
食いすぎ、えへへえとの遣り取りの合間に隼人は白い木馬の揺り篭が出たと言い、日々ミチルとの結婚を夢見る武蔵は案の定なにやら羨ましそうな声を出した。ちょっと仲間外れになったようで竜馬が静かになっていれば「お前は?」との問いがようよう掛かる。
「うーん、俺向けじゃないけど悪くないのが」
あくまでお飾りの、ゆるい紐による髪ゴム、この時期だからかヒマワリの。
「なんならこれが終わったら隼人にやるよ」
「ふうん?」
出撃のサイレンが響きわたり、風防が閉じて、以下私語はしばし禁止。
加山雄三もそんな歌うたってたな、なんだっけと竜馬は考えつつ操縦桿を握り直す。

 船が見えたらみえたなら ぬれたからだでかけてこい 
 サンゴでこさえた あかいゆびわあげよう 

っていうあれ。タイトルを思い出せないまま、竜馬は無邪気にくすりと笑った。