あいつらは一体何なんだい
それが早い内に弁慶が音を上げて、あと二人のメンバーについて、ミチルに聞いたことだった
あの二人だってよくない雰囲気だったのよ、最初のころからかなりの間。今はムサシ君のことで何かあったら今度はっていう勇ましさと恐ろしさで離れられなくなってるのかもしれない、でもそれはじきに落ち着くと思うの、私がそうだもの。
あの二人はそうね、分かり合えたらようやく見つけた相棒みたいな、ずっと探していたのが相手だったみたいな確信で
―――自信かしら安心かもしれない
―――で、もうどれだけ離れても繋がってるみたいになったの
そうなった日、隼人はいつもの鮮やかな色のシャツではなく、枯葉色に装って森に消えたという
それはほんの僅かだが、宿命のように惹き付ける香りを振りまいて、それきり涼しい森の奥に身を休めて待つ蟲のようではなかったか。追って行く色鮮やかな雄を、迎え選ぶのは雌だ、だが彼らは蟲ならぬ身で、結ばれるべき身でもなかったはずだが。
それならその時何があったのか
わからないまま弁慶は見上げた。夏の薄青い木陰に、白い物がもつれるように舞っている。それが雄同士の交歓であることを、さして珍しくもないことを、弁慶の観察眼と知識は見抜いていた。生物としては不毛で限られたはかない命の無駄だ、だがそれが自分にとってなんだというのだろう、彼らが今ああしていることに俺が何だというのだろう。少し遠く、美しいかもしれない彼らが、逃げも隠れもしないのを見届け彼は呟く。
「チョウチョかよ」
はやと!という明るい呼び声が屋敷の方から青空に抜けた。

ああ、おまえは柔らかいな
不意打ちへのそんな言葉はなかなかに心外だった
体脂肪率のせいかな、力を抜いてくれていれば問題ないが、
飛び付いてくる瞬間はまさに鈍器かいっそ飛んできた瓦礫か岩な奴がいたんだよ、二号機乗りでもないくせに
そうかお前の場合、「殴られる」のもショーでの大事な見世物だったから、適度な脂肪のクッションが必要だったな。
多分そもそもが「当たらない」大前提の二号機パイロットだった、いろいろ削ぎ落し失ってもう飛べなくなった彼が腕の中でつぶやく。
大人の声で笑うが恐らく、彼は「友」との出会いの時を思い出し、戦闘後の、雨間の鈍色の空を見上げた。雨にも静まり切らなかった粉塵と破壊されたばかりの建造物と炎が臭う中で今彼の背を抱いたから。
でもだから言う、多分その時はそれどころじゃなかっただろう台詞を
「終わったよ、ケガしてねえ?神さん
―――はやと」
男の背中がびくりと震えた
(校舎の頃の竜馬ならまだそんなゴリゴリじゃないと思いますが、サーガ號での彼イメージ優先で)
おうぃシャンプー回してくれとの声が上がったのは、曲がりなりにもリーゼントにしているがどこでも何かしら忘れ物の多い武蔵のシャワーブース
悪いやっぱ石鹸に戻しちまってさとはその隣
ん、と言葉少なにシャンプーボトルが出て来たのはさらにその隣。
「はいよどうも、あれリョウ、お前顔にゴミ残ってるぜ」
隣からシャンプーをリレーしてきた竜馬に武蔵が「ここ」と自分の顔でだけ示してすぐ泡だらけになっていったので、竜馬はえっどこだと曇ったままだった自分のブースの鏡にシャワーを向けようとぎこぎこ変な音を立てているようだ。
以下音声。
「よせよせちょっと見せなってリョウ、ああなんだ睫毛だよ、おまえ剛毛だから」
「剛も
……っておま」
「おまじない、するかい?Make Wish」
「する。
――ってちょっと待て、こんなまっすぐ長い毛、俺のじゃないぞ
お前のケだお前の!」
「そんなもの頬っぺたに付けっぱなしでメカザウルスと戦ってたのかいおまえさん、どこでだったか
――ああ、
キングの『クリープショー』観ながら寝ちまう奴なんざ聞いたことがねえや」
なんだ、怖かったのかい
いやそりゃちょうどいいとこに枕が来やがったから、とか、その後なにやらもにょもにょ言っている間隣の2つのブースのシャワーはむなしくタイルを直接叩く音だけしていて
寄ると触るとすぐこれだ、と泡の白鬼になったまま武蔵は自分の頭をこね回してその進行を待つ
いったいいつから、どこから、
おそらく、だいたい、三十三話、掴み合いの大喧嘩のあと。

「白丁花かい」
なんだ、飲み食い直後のこういう真似はやめてほしいもんだと退こうとするのにぐいぐい絡んで押し付けてくると思ったら
さらりと甘いその正体は、初夏の生け垣に星のように散る白い小花。丸っこく剪定され整えられた生垣に押し付けられぱきぱきとまずい音が幾つかしたのにああいけねえと二人して素にもどり、彼は相手の首周りに素直にしがみつき返したし、相手は花の中に追い詰める格好になっていた彼の背に腕を回してよいこらしょと救い出す。
「ハクチョウ。じゃあお前に合
―――」
「お前さんの考える漢字の方じゃねえなあ多分」
ぱっと嬉し気に輝いたか明りが点いたような顔の竜馬は捨て置き、隼人は白い花の垣根を撫で、やれやれと見分する。
子供が蜜吸って遊ぶ木だったなそういえば、いくつだよ竜馬さんは
いやあガキの頃口寂しくなると、もらえやしないおやつ代わりによ。立派な花でもねえからそうそう怒られるもんでもなかったって、ヒョイと思い出してたとこだよ暇すぎて
「お前は花なんぞ毟れねえだろうからお裾分けってか」
「
―――カレンダー見て変な知恵でも付けたのかと思っちまって悪かったよ」
「?見てるぜ?先勝だろ?グイグイ行っていい日だから」
「本当に悪かったよ
……」
五月二三日 国産小ねぎ消費拡大の日リボンナポリンの日乳酸菌の日亀の日『キスの日』

●ボイン話の余韻
「今日学校で、〇〇くん達が廊下に立たされて泣いててさあ」
戦前から小等部からの一貫教育クラスも存在していた浅間学園にしては珍しいのか、それとも懐かしいのか。
「へえ、両手にバケツ持たされたり、正座させられたりのあれかい、懐かし
―――」
「何をやらかしたってんだい、その上級生たちは」
水曜日、一番時間割が短い日、早くに帰って来た元気少年はリビングで、パイロットスーツのまま待機している竜馬たちに報告する。
「うーんなんかね、初めてブラジャーつけた女子をからかったんだって」
「えっ」
「あ~~~」
「ぶっ」
グローブのまま掴んだティーカップががちゃがちゃと鳴り三者三様の声が漏れ、武蔵がみるみる赤くなる前で、子供はビスケットを頬張る。チョコレートの下にアプリコットジャムが敷いてあるお客様用の一枚を。
「しょ、小学校からぶ、ブラジャァ
……?」
やだなあ、マセてやがる、と、気恥ずかしさをそのつもりのない他罰表現でごまかしてしまおうとする武蔵を、ばか、と小さな声で嗜めたのは隼人で、「えっおねえちゃんは4年生からしてたけど」の子供の後追いがあった
なななんでそんなこと知っ、との問いに、姉さんってものはそういう話に結構参加してくるもんなんだよ、マセてるとかスケベないやらしい子だからと言われちゃ、気の強い子は黙ってらんねえだろと隼人がテーブルの下、長い脚をぶつけに行く。どうやら彼にも似たような何かしらの思い出があるらしい。極めて古風な父を持ち、男尊女卑の強めな九州そだちの竜馬は、「女は汚いのだから先に風呂に入れ」など言われていたのをおくびにも出さず、しかしそういえば話のどこかで口から噴き出していた紅茶を拭い、咳払いした。
「ま、まあ着替えの覗きとか本当に酷いバカをやってしまう前に教えてもらえてよかったんだろう!たぶん!」
良い話だったように総括しようと力強く笑う竜馬がいて
「だよねえ、お姉ちゃんも哨戒から帰ってくると言うよ、『ひょっとしたら無事生きて戻れたより、一人に返って耐衝撃ブラを外せる瞬間が一番ほっとするのよ』って。邪魔しちゃだめだよね」
今度こそ紅茶を噴き出す隼人がいた
(やはり似たことを聞いた過去があるのだろう、たぶん)

そういえばそんな季節だったかと。
デパートのショーウィンドウを賑わす五月の第二日曜、そんな少しゆるやかなルールで数える記念日は、浅間山の小高い丘の上まではなかなか届かない。
たまたま先夜、寮生の何某が実家からの仕送りの礼を言いに一階の電話を借りたついでに、殊勝にも母親の誕生日を祝い、さらに同月の記念日についてもうれしげに話していたのだった。薔薇のジャムというのを見つけたからアルバイト代で買ったんだ送るよ、と。
夕食を断り遅くに帰った隼人の姿に彼が、思いがけないところをみられたと言う風にぎょっと身をすくめ、笑顔のまま固まったのを、涼しい顔してすり抜けた隼人だったが、そういえばそんな季節だった。
あれは色が褪せない崩れない品種えらびで苦労したのだったか、じゃあまだ送る花の色は選べないか、と隼人は思い返した。彼はまた別の理由で色を選べなくなって久しいが。
赤は魅惑でピンクなら感謝
黄色は
……軽蔑、ならオレンジで純粋な愛、あの連中にはまあその辺か、と。
三人部屋の風情も何もないはずの窓辺に活けられた白いカーネーションに、その向こうの隼人に、流竜馬は先日來の戦友は、明るい窓のそと、庭先からにこりと笑って寄越した。
「なんだい」
「いいや、なんだかお前にとてもよく似合うなと思って」
その声はとても優しい。
仲良く、しようと、友達に、なろうと
「亡き母を偲ぶ」白
それ以外に意味があるとすればそれは
―――
竜馬はまだ彼の事をなにも知らない
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