akinoshiroihana
2025-04-14 21:23:10
22255文字
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名刺置き場7




ありゃあ外したかな
言って武蔵がリュックの保冷材の間から出した果実を手の中転がす。
「よお隼人ナイフ持ってないか、指でつるっと剝けねえモモだったよ」
「持ってねえよ。何だい人を野蛮人かバイキングみたいに」
「俺が持ってる」
「へっ」 
少しだけ、山の上までの走り込み。日差しは苛烈だが風は気持ちよくなってきた頃。

ほらちょっと貸せ、親父が16の誕生日に送ってくれたからお守りに持ち歩いてるんだ、
ふうんスイスナイフか、旅客機に持ち込んでも怒られないやつだな
「ああ、そうだよ」
そう言いつつ竜馬が柔毛の生えた果実をついと指で撫で、銀色の刃をそこに沈めれば、果たして熟れ切っていないさくりという音がした
「あ」
竜馬の表情がぱあっと明るくなる。
「なんだい」
「美味そうな音がした、俺基準だけど。なあ武蔵、切ってやる分一切れずつくれ」
「へ?あ、おお。」
切る端から果汁がじわりと滲む。武蔵好みではなかったようだが、いくらか固そうな刃音を竜馬は嬉しそうに響かせる。太陽を受けて銀色の濡れた刃がその純朴で温厚にも闊達そうな、つまり生物的に若々しいがゆえに美しく強そうである面の上にちらちらと光を投げた。
「ほら、この熟しすぎてなくて、包丁やナイフの刃が当たると繊維がぶちぶち音を立てて切れる音がする時期が好きなんだ。咬むとしっかり歯応えがあって、かみちぎるような歯応えが気持ちいい。口の中、押して噛んで潰れてようやく千切れた果肉から汁が溢れて来るのが本当に純粋な甘い血肉か何かみたいに―――
「ストップ、なんだか猟奇的な趣味に聞こえるぜリョウさんよ」
そう言う隼人の唇の先に、櫛形に切った一片が押し付けられる、毛の生えた桃色の皮の付いたままで。隼人の澄んだ流れみたいな静かな光を宿した目が軽く見開かれ、竜馬が果実片もろとも手挟んだままのナイフの光がその黒目を射る。いっしゅん琥珀色に透けた光彩の中、瞳孔が真っ黒く立ち枯れた花の最期かなにかのようにぶるりとふるえるのが見えた
「ほら。皮のすぐ下が一番美味いと思う、野蛮そうかもしれないけれど。」
この辺から俺の故郷までトラックで売りに来る業者のおじさん達は、よくこうやって切って試食させてくれた、あれはひそかな楽しみだったな
「だから口、開けろよ」
「ン……
したたる雫、唇まで伝ったそれを吸うようにそろりと口内に受け入れて咀嚼する気配、吐き出される甘い匂い。ふ、とため息をつき、居心地悪そうに顔を上げ、見返したあと、美味いや、ちぇっ、と隼人はぼやいた。いつも冷静でいる彼がなにか恥じ入るように、こっそり甘ったれでもするみたいに。
「だろう?」
そう自慢げな笑みが、もはやぴかぴかな竜馬はおい武蔵、悪いもう一切れいいかともう一人の仲間に呼びかけたが

「もう全部食っちゃってるよぉ!」

怒ってかそれ以外の理由でか、顔中真っ赤な武蔵はとても甘い吐息を吐きつつ、明るい風の中、ぷいと顔をそむけた。

くちびるにふれる剛い毛、肉感、したたり、それは。
「彼は」知らない接触にも似て。