黒綺
2025-03-14 19:45:42
14093文字
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クロ指 SSまとめ

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5.2024.10.31 ハロウィン/クロ指

 エデン内でのハロウィーンイベントも無事終わり、指揮官とクロムは自室への帰路についていた。疲れただろうから、私の部屋に寄って休んでいくといい。そんな指揮官の誘いにクロムの胸は高鳴った。補佐役として顔を合わせることは数あれど、オフで二人きりの時間は久しぶりである。
 清浄地の問題や、庭園内のトラブルなどが続き、指揮官がずっと休んでいないのを出撃記録のログを見てクロムは知っていた。少しでも自分に出来ることを、と考えていたクロムだったが、指揮官の自室に足を踏み入れ、着ている隊服の上着を預かろうと向き直った瞬間、正面から強く抱き締められ、クロムは動きを封じられた。
「指揮、官?」
……、」
 クロムの胸に額を押し付け、背中に回される指揮官の腕に力が籠る。執行部隊所属の指揮官といえど、生身の身体の力など高が知れている。それでも、出せる力の全てを出して、目の前の自分を抱きしめているのだと思うと、クロムの機体の表面温度は僅かに上昇した。 しかし、愛しい指揮官の体を抱き締め返そうとした時、機体が捉えた小刻みな震えが、浮き足立っている場合ではないとクロムに突きつけてくる。胸に伏せている顔を覗き込むと、クロムと目があった途端に指揮官の視線が惑う。
「どう、されましたか」
……すまない、なんでもないんだ。少し……
 言葉に詰まる指揮官の背に触れる。僅かに跳ねた体を、安心させるようにクロムも自分より少し小さい体を抱く。背に当たるクロムの手に、指揮官は少しずつ落ち着きを取り戻したのか、大きく息を吐き出してクロムの蒼い双眸を見上げた。
——ずっと、確かめたくて仕方なかった。今、見ているものが本当に現実なのかと」
 あまりにも、今日が楽しかったからと指揮官は目を伏せ、隊服の膨らんだポケットに目線を落とした。灰鴉隊の隊員や、他の小隊の構造体がイベント会場で贈ってくれた菓子を、指揮官はポケットから取り出す。包み紙を開こうとするが、震える指先では上手くいかず、困ったように笑みを浮かべクロムに助けを求めてきた。
「指揮官、」
「ん、」
 クロムは指揮官から菓子を受け取り、指先で摘み上げる。アイシングでお化けの飾りがされたチョコレートクッキーを、指揮官の口に運んだ。
……うまい」
 口の中に広がる甘味が、指揮官に纏わり付いていた不安を拭っていく。咀嚼をし終わる頃には、怯えが宿っていた銀の瞳は普段の穏やかな目に戻っていた。
「お菓子に合う紅茶を……いえ、この時間ですから、デカフェのハーブティーをお持ちします。少しお待ちいただけますか?」
「私も手伝うよ、いや、手伝わせてくれ。せっかく来てくれたのに、離れていることもないだろ」
 隊服の上着を脱ぎ、ポケットにしまっていた色とりどりの菓子取り出して、指揮官は一つ包装を剥がすと、クロムの唇へと近付けた。
……ありがとう、クロム」
「いえ……君の役に立てることが、私の何よりの幸せですので」
 立ったまま失礼します、と口を開けば「クロムは真面目だな」と指揮官の笑顔が溢れた。
 暗く、見通せない時でも、お互いがいれば決して留まることはない。