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叢雲
2025-02-24 17:51:12
51220文字
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ラルス×リース(DA)
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界王ラルスの記憶
DDON→DA→DD2という流れの世界線。
DD世界のとある界王の記憶。狭間の世界の物語。
連載中…
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キナがリースを連れて来たのは教会の横手にある墓石の前だった。夜の墓地とはなかなかいい雰囲気とは言い難い。それでも彼女は墓の脇に咲く花に少しばかり水やりをしてやる。確かキナの本日の勤めはなかったはず。であれば、これは彼女個人の日課なのだろう。キナが柔らかく笑う。
「こんな寂しい場所でも花は咲く。
…
私ね、いつもこの花に元気を分けてもらってるの」
そしてリースを振り返ると今度はニカリと笑った。
「村でリースがドラゴンを追っ払って助けてくれたでしょ? そして呪い師の森でも、霧ので見えない森を一緒に散策してくれた。狼だって返り討ちにしてもくれた。だから私も決めたの。私は貴方の力になろうって。
呪い師のお孫さんが言ってたでしょ。教会がドラゴンの本当の事を隠してるって。貴方の胸にあるのは竜の傷だもの。教会に来たら何か分かると思った。だからこうして修道院にも入った。村を出る事になったのは父には悪い事をしちゃったけど、私もリースと一緒で思い立ったらじっとしてられないから」
キナは一方的に何故自分がここにいるのかを話し始めた。確かにこの娘は少々先走る事はあるものの、ここまでリースの現状を聞いてこないというのはわざとなのだろう。
彼女には分かるのだ。リースが傷ついて落ち込んでいるのが。だから彼に話させるのではなく、自分が先に話をしている。キナのそんな気遣いが伝わってくる。
「教会で沢山勉強すれば、きっと何かわかると思うの。リース、貴方の体は絶対にお姉ちゃんが治してあげるから。だから安心して待ってて。ね?」
きっと彼女は幼いリースが落ち込んでいる時はこうして彼を元気づけて来たのだろう。実際の事を言ってしまえば、教会の人間が束になった所で竜に奪われた心臓をリースに返す事など出来ない。それでも頼ってもいいのだと彼に語りかける彼女は、確かにリースの大好きな姉の姿だった。
「
……
っ
………
キナ姉ぇ
…
俺が、待ってるの
……
苦手だって。知ってるくせに
…
」
「
……
うん。それでも言うよ。だって、私は貴方のお姉ちゃんだもの」
泣き出したいのをグッと堪えるリースはキナに悪態をつく。それがリースの甘え方だった。
「
……
狼なんかに、ビビってたくせに
…
。よく言うよ」
「いくつになってもリースは素直じゃないわね。そういう子には、こうよ!」
キナは両手を伸ばすとリースのほっぺを摘んで両サイドに引っ張る。リースの白いもちもちとした頬はよく伸びた。
「ひらぃ! ひらぃ! ひなえぇひらぃ! ほえんっへば‼︎」
まともに喋れないリースは、それでもどうやら謝罪をしたらしい。キナは漸く「よろしい」と手を離った。リースはブーたれながら自分の頬を撫で摩る。
そんなやり取りを経て、キナはリースに向き直った。
「あのね
…
。私には癒し手の素質があるんだって。ちゃんと修行すればリースやみんなを救えるようになるって。ドラゴンの事を探りながら、私はそういう、みんなの助けになれる人になりたいの
…
。それでね
……
」
キナが胸の辺りに魔力を集中したいるのがわかった。確かに魔法の杖という物は魔力の増幅機に過ぎないが、ただ魔法を扱えるからといって誰もが杖無しで魔力を操れる訳ではない。キナの言う通り、確かに彼女には才能があったようだ。
集まった魔力は彼女の胸の前で形になっていく。それは一輪の綺麗な白い花になった。そして形の生成が落ち着くと魔力の花は質量を持ってキナの手の中に落ちた。
「これ、祝福の花って言うんだって。私の力じゃあ数日で消えてしまうんだけど
…
。でも悪い事も吸ってくれるんだって。リースにあげる。この花が、貴方に元気を分けてあげられるように」
そう言ってキナは祝福の花をリースに手渡した。きっと普段のリースなら「花なんか似合わない」とキナに突っ返してしまうのだろうが、そうしなかったのはキナの優しさが彼の心に届いたからなのだろう。
リースは消えそうな声で「ありがとう」と返した。
界王の間に戻って来るとアルベルトが玉座の側にいた。リースと似た姿の俺の従者。彼は俺に気がつくと首を垂れる。
「お帰りなさいませ。もうよろしいのですか?」
「ああ、きっとリースは大丈夫だろう。あいつの強さはよく知ってる。それに、早く戻るとお前と約束したからな」
「
…
私はただ、マスターの力の温存になればと」
温存と聞いて嫌でも試練の事を思い出す。覚者に与えられる試練。リースが立ち直れたのならば、当然この先にはそれが降りかかる。
忘れていたわけではないが、なるべくは
…
そう、考えたくなかった。考えないでいたかった。
「
…
もう幾許もない力だ。確かに出来る限り温存すべきだろうな
…
」
「
…………
」
「アル。残りの、界王の力の管理はお前に任せる。俺がムダ撃ちしそうになったら止めてくれ」
「しかしラルス様。
…
よろしいのですか?」
「良い。先日のように日を跨いで下界に留まれば、直ぐに力が尽きるくらい俺にも分かる。さっきだって長過ぎるくらいだ。違うか?」
「相違ございません」
「死に損ないはここで大人しくしておくさ。ここからならば、遠見の術でリースを見ていたとて然程の消耗にもならん」
玉座に腰掛けると急に体が重くなり溜息が溢れる。自分でも、よくもまぁこんなボロボロの状態で生きているものだと肝心する。次代の界王がここに辿り着くまで待たせねばならないと言うのに感情がそれを邪魔するのだ。リースをほっとけない。それでもここで見切りをつけるべきなのだろう。俺はもう、そういう段階まで来てしまっている。
もう一度溜息を吐くと床に術をかけた。ここにいると時間の進む感覚がズレやすい。キナに元気付けられたリースはもう夜を過ごしただろうか。
立ち枯れの森の修道院を映すと、もう日が昇って彼らが旅立つ所だった。リースの表情が昨日より明るくなっていてほっとする。彼らを見送りに門まで出てきているのはやはりキナだった。
「それじゃあリース。あんまり無茶ばかりしないで。
…
あ、それと。もしカサディスに寄る事があれば、アダロに謝っておいて欲しいの。口には出さないけど、父さん
…
息子も娘も村を出ちゃって寂しがっていると思うから」
「ん。分かった。キナ姉ぇの事は心配いらないって言っとくよ」
「ありがとう。よろしくね」
リースは姉に手を振るとそこからは振り返らず街道を目指して歩き出した。そしてキナは、リースの姿が見えなくなっても暫くそこを動こうとはしなかった。そんな二人が対照的に見える。
キナのどこか諦めたような悲しい眼差しに気が付いたアルはポツリと言葉を溢す。
「
…
この女性は
………
あ、いえ。
…
なんでも無いです」
彼が何を言いかけたのか察しがついて、こちらも僅かばかりに眉間に皺を寄せた。アルベルトには、もうそういった感情がわかってしまうのかと。
「キナの事か
…
。恐らく彼女のリースに対する感情は、親愛だけでは無いだろうな。それでも彼女はリースの“姉”である事を選んだ。正直な所、領都でリースが受けた仕打ちを考えればそうしてくれなければリースはキナに心を許さなかっただろう。彼女は知らぬまま正解を選んだと言える」
人の隠した恋心。俺がリースに向けるように、キナもリースを見ているのがわかった。わかってしまった故に、彼女がリースとどうありたいのか、あの場で見定めたかったのだ。そして彼女は自分の気持ちよりもリースを元気付ける回答を選択した。リースを誰かに取られる心配よりもここで彼が更に傷付かなかった事実にどれほど胸を撫で下ろしただろう。
しかしアルベルトは何か気になったらしい。歯切れの悪い質問をしてきた。
「
…
愚かな選択だと、思いますか?」
「ん?」
「結果はどうあれ、この人はリース様の為を思って己の気持ちを偽り、姉という立場を選んだのでしょう。その選択は愚かだと思いますか?」
「
………
いや。相手を思っての嘘というのは、結果を背負う覚悟と優しさが無くてはつけないものだ。その覚悟を愚かと笑うような恥知らずに、俺はなりたくないな」
「
……
そうですか」
アルベルトが悩むような表情を見せたのは一瞬だった。しかし直ぐにいつもの澄ました顔付きに戻ってしまったので、彼が一体何に気を取られて発言した質問だったのか見抜いてやる事は出来なかった。いや、そもそもそれほど大きな理由は無かったのかもしれない。ポーンは度々人の感情を反復する。これもその一端だったのかもしれない。
また溜息を吐く。
…
ダメだな。これだけ長い付き合いのアルベルトの事さえ読めなくなっているとは。思った以上に疲れているのだろう。椅子に座ったまま、少しばかり瞼を閉じた。
14
立ち枯れの森を抜け出したリース達は領都には立ち寄らず、そのままキナの無事を報告するためにカサディスへと帰郷した。懐かしい顔ぶれへの挨拶もそこそこに、迷わず村長の元へと向かったリースは育ての父親に姉の事を告げた。
話を聞いた村長のアダロは一言「そうか
…
」と溢すとどこか諦めた表情を浮かべていたのが印象的だった。アダロにはリースもキナも村から出ていくのが予めわかっていたのだろう。
「まったく
…
。一体誰に似たんだろうな」
やれやれと呟かれた言葉に、父親としての優しさが滲んでいた。
それからリースは数日村に滞在した。のんびり海を眺め、潮風に当たり、時には猟の手伝いもした。ドラゴンが飛来する前の日常に戻り、なんでも無いように笑う。本来彼が送るはずの日々がそこにあった。
俺はそんな彼を遠く界王の間で、ただ静かに見つめた。
その日の夕方。朱に染まる光の中で、リースはキナに貰った花を取り出す。まるでリースを思わせるような純白はすっかり色褪せ、向こうが透けて見えるほどに花は薄くなってしまった。だが、今は逆に夕日の色が滲んで綺麗に見える。リースはあれから度々こうして花を眺めて過ごしている。キナの願い通り元気を分けてもらっているかのようだった。
今にも消えてしまいそうなそれを光に透かしていると、村の司祭であるクレメントが通りかかり際に驚いたように声を上げた。
「リースさん! そ、それは祝福の花ではないですか⁉︎」
「
…
え。う、うん。確か
…
そういう名前だって聞いたけど
…
」
顔色を変えたクレメントはグイグイとリースに迫って質問をしてきた。そして崩れそう祝福の花を繁々と眺める。
「いつ頃! どこで! どなたから譲り受けたのですか⁉︎ 是非教えて下さい! この花はもう消えてしまいそうですね。ですが祈りの純度が高いのは一目でわかる。一体誰の祈りなのでしょうか⁉︎」
「ええと
…
。き、キナ姉ぇだよ。三日くらい前に枯れ木の森の修道院でもったんだ」
「キナさんですって⁉︎ ああ、確かに癒しの魔法が使えたのは覚えていますが
…
。まさか彼女にこんな才能があったとは。これは
…
こうしていられません。これほど喜ばしい事を報告しない訳にはいきませんね。リースさん、教えて頂き感謝いたします」
未だ祈りの言葉を正確に唱えきれない未熟者の彼にも、キナの花の良さはわかるらしい。聞きたい事を聞いてしまえば後はもう良いとクレメントは大急ぎで教会に帰って行ってしまった。まるで急に去っていく突風のようだ。いきなりの事で呆気に取られていると、祝福の花はリースの手の中でガラス細工が壊れるように崩れて消えてしまった。魔力の欠片は風に乗って舞い上がり、空気の中に霧散していく。消える直前、花の欠片が夕日を反射してキラキラと光って綺麗だった。
「
…
祝福の花とは、消える時まで綺麗なものなのですね」
リースが声のした方を振り返ると、オルグがそこに立っていた。彼を迎えに来たのだろう。そしてオルグの後ろにはスアが控えていた。スアは魔力の破片が舞うのを見て、右手をグーパーグーパーと握ったり開いたりしている。何をしているのかと不思議に思ったが、確かキナがあの花を生成するのに素手で行っていた事を思い出して合点がいった。
キナもスアと同じメイジ職だった。おそらくあの亡霊は自分でも花を生み出す方法を模索してるのだろう。キナの力で三日保つのだからスアが作ればそれこそ永久に消えない花を作ってしまうのではないかと思い至り、俺は考えるのを放棄した。
二人のポーンと合流したリースは共に自分の家へと帰っていく。斜陽の空と波の音。海鳥の声が夜の近づきを告げた。それは酷く、穏やかな時間だった。
「
…
リース様は、このまま戦う事を止めてしまわれるのでしょうか?」
そんな疑問を口にしたのは、俺の横でリース達を見ていたアルベルトだった。アルベルトは俺の力の管理を申しつかってからというもの、こうして出来る限り俺の傍にいるようになった。
それは俺を監視するというよりは、おそらく俺が思い詰めぬよう気を紛らわせたいのだろう。こうしてポツポツと思った事を俺に質問してくるのだ。若しくは、俺がリースの事を思い出す前のような、生気の抜けた状態にならないよう診ているつもりなのかもしれない。確かにこの空間に長居すると、様々な感覚から遠のき易いのだ。自分の手に視線を落とすと、ゆっくりと握ってみる。そして指先の感覚を確かめた。
「リースはきっと
………
いや。俺が言うより、あいつの行動を見ていた方が良いだろう。多分、あいつの答えはとっくに決まってる」
「
…
信じて疑わないのですね。彼が、いま一度覚者として立ち上がる事を」
「
……
そうだな。アイツは、一度そうと決めた事をなかなか曲げてくれないんだ。ワガママだし、諦めも悪い」
何度だって思ったさ。リースが覚者としての運命を諦めてくれるなら
…
と。領王との謁見以降の出来事の事もあるが、その前からだって本当はリースに命懸けの戦いに身を置いて欲しくない。可能であるならばカサディスでの覚者選定からやり直して欲しい。だが、同時にこうも思う。きっと何度選定をやり直した所で、リースは剣を手にしてしまうだろうと。
この世界に生まれ落ちる前から、君はずっとそうだった。俺の心配なんてお構いなしだ。
アルベルトとの問答は淡々と続く。
「それでも
…
彼はまだ齢20を超えたばかりの青年です」
「そうだな」
「先代の覚者でさえ心折れ、覚者でいる事を放棄した。覚者として戦うとは、そういう事です」
「ああ、そうだ」
「正直私は
…
リース様にはこのまま、この地で静かに暮らしていて欲しいと思うのです」
アルベルトが映像の中のリースを見たまま、落ち着いた声でそう告げた。彼が自分の望みを素直に口にするのは珍しい。言わずにはいられないほどそう願ってしまっているんだろう。自分自身にどうこう出来る類の望みではない事も知りながら。アルからどこか諦めめいたものを感じる。そんな彼に、少しばかり申し訳ない気持ちになった。
「あの方には、これ以上ラルス様に近付いて欲しくない」
「
…
こちら側がどう思おうと、次にこの界王の間に足を踏み入れる覚者がいるとするならば、それはおそらくリースだ」
「
……………
」
アルは何か言いたげにこちらを見てきたが、それ以上は口にしなかった。言われずともわかっているさ。この地に界王と覚者が揃えば、待っているのはどちらかが破れるまでの死闘なのだから。
だがリースの意思は強い。眩いほどに。理に縛られるこの世界が、そんな彼をほっとくはずがない。
定めとは
…
どうしてこうも割に合わないのだろうか
…
──────嗚呼、本当に
それから数日の内にリースたちは再び領都グランソレンへと旅立って行った。リースは故郷の地で自分の大切なものをあたらめて確かめていたのだろう。
何のために刃を握るのか、覚者として立つその意味を。
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