叢雲
2025-02-24 17:51:12
51220文字
Public ラルス×リース(DA)
 

界王ラルスの記憶

DDON→DA→DD2という流れの世界線。
DD世界のとある界王の記憶。狭間の世界の物語。

連載中…





 





 ハイドラの撃退に始まり、失せ物探しや貴重な魔物素材の納品。それどころか死人さえも蘇らせる奇跡を起こした覚者は領王の名が入った竜征の任務を授かるに至ったが、彼の快進撃は止まりはしなかった。

 魔物に奪われた砦の奪還作戦で先陣を切り、これを撃破。近年領都に巣食う謎の組織の活動実態を明らかとし、更には教会に協力して遺跡の調査と貴重資料の発掘や解読まで見事成功させてしまうという華々しい実績の数々は、今や都中の誰もが知る所となった。

 そんな今をときめく覚者に、謁見の許しが出たのはつい先日の事だ。竜征の任を取り仕切るアイゼンシュタット卿より、領王自らその功績を讃えるべく覚者の王城召喚の命が下ったと報告があったのだ。そして本日、その誉ある登城の日となったのだった。

 今朝ほど酒場で笑い声を響かせていたリースは、二人の従者を伴って城門前へとやってきた。彼らが身を包むのはやや簡素ながら身動きの邪魔にならない防具だ。きちんと清潔に整えられているものの礼服とはとても言い難かった。

 とは言え、覚者のリースを初め、残るポーンの二人も方向性の違う美形ぞろい。富裕区のご婦人方が先ほどからソワソワしている。これで三人で礼服など着ようものなら、それこそ誰か倒れかねないというものだ。ここは防具で良かったと言わざるを得ない。例えそれがリースが意図してやったわけでは無いとしても。

 見る者から見ればリースの容姿は所謂「勝ち組」というやつなのだが、困った事に当のリースがその方面にはからっきし疎かった。以前の世界でも確かにそうだったが、この美貌を持ってして中々に勿体無い事をしていると思う。この青年に惚れて、あまつさえ可能ならリースの子さえ見たいと考えていた俺からすると、なんとも言えず微妙な気持ちになるのだ。他人に渡したくないという気持ちも当然あるが、せめて恋人の一人くらい作っても良かったのではないだろうかと。いくら若いと言えど、リースの年齢なら結婚してたとしてもおかしくはない。

 俺の心配を他所に、リースは門前に佇む緋色のサーコートを身に纏った小柄な騎士に話しかけた。彼がサー アイゼンシュタットだ。

「マクシミリアンさん。城に入るのに、こういう装備でも大丈夫かな? 俺、あんまり高価な服って持ってなくて
「覚者殿なら問題ないでしょう。領王様は貴殿の武勇を認められたのです。戦士の出立ちで行かれるがよろしい。胸を張られよ」

 騎士は爽やかに微笑んだ。彼はリースの事を田舎者と蔑まず、覚者というものを以前領王もそうであった英雄として敬意を払って接してくれる実直な男だった。正直な所、生まれの身分でしか人の価値を判断出来ない貴族が多い中で、リースが最初に関わる騎士がこの男で良かったとつくづく思う。

 マクシミリアンの後押しでやっと踏ん切りがついたらしいリースは門へと足を進める。門の敷石に差し掛かった時にオルグが口を開いた。

「覚者様。我々ポーンはこれより先に入れません」
「あ。そういえばそうだっけ」

 事前にオルグに教えられていた事を思い出したらしいリースが足を止めた。

 ポーンに登城が許されないのはいつの世も同じだ。世間一般からのポーンの認識は自発的に動く戦人形。金額を釣り上げれば掌握出来る傭兵とも違って、何を良しとして戦うのかわからない故に扱いが難しい。確かに指揮する覚者さえ懐柔出来れば問題ないが、逆に言えば御し得なかった時は後がない。百々のつまり、覚者がポーンを伴って登城するのは、いつ発射されるか分からぬ大砲を引っ提げて来るのと同義なのだ。そんな気味の悪い厄介兵器と思われている彼らポーンに、要人の巣窟である重要機関への入行が叶う道理はなかった。

 そんな評価にポーンを家族のように思っているリースはどう思うだろうか。オルグからポーン同行不可という話を聞かされた時にリースが不快な思いをするのではと不安だったが、結果は「入れない」の一言に二つ返事であっさり納得してしまったのは記憶に新しい。

 まぁこれについては難しく考える方が馬鹿馬鹿しい話で、リースのような小規模村落の村人からすれば、元から人もポーンも等しく王城など入れる筈もない場所なのだ。なので今回の謁見については「褒めてあげるからリーダーだけいらっしゃい」と解釈したらしい。全くこちらの取越苦労というやつで笑ってしまう。しかしリースが事実に悲しむ事がなかったのはいいが、俺と同じく心配していたらしいオルグからすればそんな主の能天気さに些か不安を覚えた様子だった。

 兎にも角にもリースは二人の従者に待機を命ずる。

「オルグ。俺が戻って来るまでスアの事よろしく。あと、スアはオルグに虐められたら、直ぐに俺に言うんだぞ」
「りょ、了解しました」
「私がスアを虐める可能性よりも、覚者様が城内で粗相をされる確率の方が高いのでは?」
「むーっ、大丈夫だっての」
「では、私も問題ありません」
「やっぱ意地悪じゃん」

 しれっと言ってのけるオルグとスアを残し、誉ある覚者は城門を潜った。



 門を潜ったその先には堂々と正面に城の入口が待ち構えている。目指す謁見の間は入口入って直ぐ、控えの間の扉を開ければそこにある。いくら来た事が無いと言えど拝謁するに迷う者はそういないのだが、リースは控えの間で足止めを食らった。道化師だ。

 城に道化はつきものだが、コイツに捕まってしまうとは運が悪い。この道化師というのは城で唯一全ての無礼が許される存在だ。確かに元覚者である領王の機嫌を取るなら、名うての現覚者をネタに笑いを取るのが確実だった。折角のリースの晴れ舞台だというのに忌々しい。

 チビのピエロは無理やりリースに三角帽を被せると、何をされたかわかっていない彼をそのまま謁見の間に押し出した。重たい扉の音に先程までガヤついていた場内がピタリと静まり、唐突な来訪者へと視線が注がれる。直後、どっと笑い声が溢れ出す。朝の酒場でのような愉快な笑い声なら良かったが、間違いなくそれは嘲笑の声が含まれていた。

 本来それは厳格な式典であり、賛辞を述べる場だというのに、リースの頭に乗せられた戯けた帽子のせいで、道化覚者がここにまかり越しましたと名乗り出たような体になってしまったのだ。

 全くしてやられた。そんなリースの醜態は覚者を疎ましく思う者やその存在を疑う者からも笑いを引き出したのだ。やり方としては卑怯だが、結果としてこの場においてリースへ向けられる敵意が和らいだのは事実だった。加えて、ピエロ帽のおかげでリースが礼服で無い事を咎める者もいなくなる。あの道化はどうやら物の見える男らしい。リースの敵では無いのは窺える。かと言って味方かと問えば違うだろう。おそらくは誰の味方でも無いと言った所か。全く小賢しい道化師だ。


 領王が皆の笑いを止めると覚者を跪かせた。打って変わって厳かな空気の中、王は剣の腹を覚者の肩に二回と一回、左右合わせて三度軽く当てる。誉ある騎士叙任の儀。この日、この時。小さな漁村で育ったリースは、正式に騎士の称号を受けたのだ。

 その後領王の祝辞を持って儀式は終了し、リースも謁見の間を後にする。しかし俺は彼の後を直ぐには追わず、一人佇む。玉座にのうのうと座する男を見下ろして。

 領王エドマン。今代のこの地の王。先代の覚者。その男に語りかける。この声が届かないと知っていながら。自分の口から出た声は俺が思うそれより、酷く低かった。

何を笑っているのだエドマン。何をそんなに誇っている? それほどその座が誇らしいのか? 権威の象徴たる冠がそれほど誇らしいか? 愛しい者を代償に手にした地位は、余程心地良いと見える。
 お前は今尚、竜と逢い対した恐怖と贄への罪悪感で悪夢に魘されているというのにな。心弱き愚かな男よ。竜の試練で臆病風に吹かれるならば、最初から竜に歯向かわなければ良かったのだ。村が焼かれようと、刃を向けず皆と共に逃げておれば良かったのだ。そうすればただの臆病者で済んだものを。何故、覚者になったりしたのだ」

 この男が王という地位に甘んじず竜に立ち向かったのならば、あの時リースの親は死なずに済んだかもしれない。界王の間へと辿り着かずとも、あの時あの瞬間、覚者不在の期間とはならず魔物の進行は抑えられていたかもしれない。勿論覚者一人で出来る事には限りがあるだろう。それでも、リースに悲しい思いをさせずに済んだかもしれないのだ。

「リースが魔物に殺されそうになった時、お前は何をしていた? ここで笑っていたのだろう? 皆から竜を退けた竜王として賛辞を贈られていたのだろう? 覚者でいる事も出来なかった臆病者が……恨むぞ。恨むぞエドマン」

 そこまで言葉を投げて、俺は漸くリースの後を追うべく振り返った。

 人が皆強く生きられる訳ではない。寧ろ強く在れるのはほんの一握りの者だけで、そこにいる男は違ったというだけの事。わかっている。これは俺の勝手な八つ当たりに過ぎない。わかっていても恨み言を言わずにはいられなかったのだ。もうこの城に長居はしたくなかった。


 城を出てリースの姿を探す。するとその姿はポーンたちの元ではなく、城内の庭園にて女性と共にあった。楽しげに談笑しているらしい。見ると相手はエリノア王妃だ。その手には先程道化に被せられた三角帽が握られていた。

また、お話しを聞かせてくださいね。戦士様」
「はい。えと、冒険の話でよければ」

 元々一般人ではあるものの、リースも今や騎士の一人だ。その上周りが羨む美形となれば王妃の頬に赤みが指すのも仕方がない、か。それにあの妃はまだ恋も知らぬまま、竜王の庇護を自国に齎さんが為の道具として無理やり婚姻させられたのだ。自分より一回り以上年上の男よりも、年の近い綺麗な男に熱を上げるのを咎めるのは酷かもしれない。それに相手は王妃だ。彼女と懇意になれば、田舎者だからとリースに悪さをする貴族も減るだろう。

 色恋に疎いリースだが、図らずしもなかなかの人脈が築けたのではないだろうか。少なくとも掴みは良さそうだ。王妃はリースの背中を見送ると侍女と何やら密談していたのが見えた。

 さて、やっと庭園を離れたリースだったが今度は城門前で政務官に捕まった。流石は話題の覚者は色々と引っ張りだこのようだ。これも有名になった効果というやつだろう。今後の任務のやり取りなど業務に関わる事を簡単に確認してく。リースはコクコクと頷くばかりで相槌がやや曖昧だ。どうやら今日一日偉い人に囲まれて少々気疲れしているらしい。顔に帰りたいと書いてあるようだった。

 政務官からも解放されればもう帰れるだろう。業務の話が済んだリースは嬉しげに門へと振り返ったが、更には別の者が彼の行手を阻む。今度は誰かと見やれば、少し前に王妃と話していた侍女だった。彼女曰く、王妃はもっと覚者との対話をお望みらしい。

えっと。明日の夜に、エリノア様の所にですか?」
「あんまり大きな声じゃ言えませんけどねぇ。ほら、エリノア様もお立場がありますもの。ねぇ」
はぁ。なんか、その。はい」

 侍女は女性が井戸端会議で内緒話をしているかのような仕草でリースに密会の約束を取り付ける。正直これは不味いお誘いなのだが、恋愛もわからず気疲れで頭の回っていない今のリースに断るなんて判断出来そうにない。王妃と懇意になればと思っていたが、こうも直ぐに火遊びを所望するお嬢さんだとは思ってもいなかった。健全なお付き合いがしたいのであれば夜である必要などないのだから。

 侍女はお願いしますねとホクホクした足取りで去って行き、用事全てから解放されたリースが城門から出て来たのは夕方になったからの事だった。

 ヘロヘロの主と二人のポーンが合流しそのまま宿へと戻る。王妃との密会をオルグからリースに断るよう諭して欲しかったが、もうリースに城の中でのあらましを報告する元気は残されていなかった。