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叢雲
2025-02-24 17:51:12
51220文字
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ラルス×リース(DA)
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界王ラルスの記憶
DDON→DA→DD2という流れの世界線。
DD世界のとある界王の記憶。狭間の世界の物語。
連載中…
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リースがポーンたちと合流した事で漸く安心した俺は界王の間へと戻って来た。軽くもたつく足取りで玉座に腰を落ち着ける。長く下界に止まり続けると体の消耗が激しいのだ。重々しい溜め息が出た。今回の事で色々と思う事が多すぎる。
亡霊ポーンのスア。リースの怪我を見て感情が発露したのか、酷く怯えていた。まるで急に息を吹き込まれたようにその表情を変えて驚いたが、それだけリースに懐いていたのだろう。あれがこのまま普通のポーンのように馴染める事を祈るばかりだ。いや、馴染んでくれなくては困るのだ。
存在の異質感ですっかり見落としていたが、確かにあいつはおかしなくらい魔力総量が多い。長く様々なポーンを見たがあそこまで魔法というものに特化したポーンは記憶に無い程だ。異界を単独で渡った故の歪みか、それともあの魔力があったからこその旅路だったのか
…
。
あの杖との相乗効果で打ち出される魔法は一般のものに比べて頭一つ抜けて強力だった。扱う魔法が回復支援を生業とするメイジのもので良かったとしか言いようがない。スアの魔力量全て使ってソーサラーの高出力魔法
…
例えばボルテクスレイジなど放った日には、災害級の被害が出てしまう。危険因子はまごう事なき危険な存在であったのだ。
オルグがスアを上手くリードしている様子が窺えたのは良かった点と言える。スアにはオルグのような存在が必要だ。彼には過度な期待になってしまうが、オルグの面倒見の良さに賭けてみるしか無さそうだ。仲間として考えるなら、これほど優秀なサポーターはなかなかいない。リースの旅路には欠かせない存在になり得るのだから。
しかし、心配なのはリースの方だ。今回の事で彼の心に傷が残ってしまったかもしれない。いや、あんな仕打ちをされて忘れろと言う方が無理だ。リースはこのまま戦う事から離れてしまうだろうか? もしそうだとするならば、それはそれで良いのかもしれない。これ以上リースが傷付く姿を見たくないのだ。あいつが泣かなくて済むならば、もう
…
それでいい。
それ以上先には何もいないと知っていながら、天を仰ぐ。世界を包む理が荊棘のように見えてならなかった。
ふと、近くにアルベルトが侍従っている事に気が付いた。いつからそこにいたのだろう。我が従者は静かに、そして鎮痛な面持ちで俺の元にいた。
「
……
後悔、しているのか? アルベルト」
普段から真面目で誠実で、冷静で物静かな男だが、それでもきっと今のそれは性格だけではないのだろう。それこそ、そんな彼にとってはリースが覚者になった日に俺を止めた事を悔いないはずがない。俺を殴って以降、アルベルトの表情が晴れるのを見ていないのだから。
「
…
はい。やはり私はあの様な無礼を働くべきではなかった。感情をそのままに、言葉になどすべきではなかったのです。貴方に、そんな顔をさせてしまうくらいならば、私は
…
」
「いや、お前は間違っていないさ。お前が止めてくれなければ、俺はここにはいない。お前との約束があったから、俺は世界をひっくり返さずに済んだんだ。
アルベルト、お前は正しいよ」
こんなにも主思いの従者はそういない。それはアルベルトがポーンだからなんて無粋な話で結ぶには勿体無い程に。自分の主人をその立場を弁えた上で、殴ってでも止める臣下は少ないだろう。本気で俺を心配して、本気で止めてくれるのだから。こんな俺には過ぎたる者だ。
「
…
誰か一人を特別に愛するなんて感情は、神には不要のものなのだろうな。リースとの記憶を思い出した時点で
……
いや、違うな。記憶が無かろうと俺はずっとその一人を求め続けてきたのだから
…
。俺は、俺のような者は
…
界王になど、なるべきではなかったのだろうな」
自分でも分かっている。リースを愛している。愛しているから苦しいのだ。力になれぬ事が。守れぬ事が。触れられぬ事が。見ている事しか出来ないのが歯痒くてならない。ただの界王と覚者であったのならば、これ程の痛みにのたうち回らなくて済むのに
…
。愛しいリースを理の名の下、茨の道をたった一人で歩かせなくてならないのに。
今更になって、アルベルトが言っていた「どんなに寵愛されようとも、貴方の声は届かない」という言葉が重くのしかかって来ていた。
するとアルベルトが俺の足元までやって来て跪く。そしてこう言うのだ。私の愚かさをお許し下さい、と。俺の前にその身を差し出す。
「この姿が貴方の苦しみを和らげるのでしたら、私はそれでかまわない。どうぞ、お好きにお使い下さい」
触れられぬリースの代わりに。愛を囁けぬリースの代わりに。この苦しみを和らげる為だけの戯れに。一時の夢のために。たったそれだけ、それだけでかまわないと言う。そんな涙ぐましい程の献身的な姿に心が揺れないわけがない。
目を伏せられてしまえば、愛しいその面差しがそこにある。俺が渇望して止まぬ人。ゆっくりと手を伸ばす。美しい白銀の髪に軽く指を絡ませ、柔らかな感触を確かめる。リース
…
。本当の君にこんな風に触れられたら、どんなに良いだろうか。
俺はその指を滑らせると、彼の頭に乗せてやる。
「
…
ラルス様?」
優しくアルベルトを撫てやった。どれだけこいつと一緒に歩んだだろう。こんなにも俺の事を思ってくれるアルベルトに対して、それこそ愛情に近いものを感じている。だが、だからこそ彼を無碍に扱いたくはなかった。これ以上、俺の我儘でこいつを傷付けたくなかった。
「きっと、俺はこうする為にお前をその姿で呼んだんだろう」
「
…
撫る、為に
…
ですか。でも、それでは
…
」
「その気持ちだけで良い。お前はアルベルトだ。こんな酔狂な主人に最後まで付き合ってくれるたった一人の従者だ。そうだろう?」
「
…
!
…………
酷い方だ。私の覚悟はどうなるのです? 貴方は本当に
…
。本当に、ズルい人だ」
「ズルくてかまわない。傍にいてくれ。アルベルト」
「ご随意に」
お互い苦笑といった笑みだった。もっと俺に言いたい事があるだろうに。それでもそれが久々のアルベルトの笑顔だった。
僅かばかり界王の間で休息を取り、リースの様子を見ようと遠見の術を床に施す。すると領都の宿に覚者の姿はなかった。
確かに傷は魔法で癒え、体力は回復しているが、あんな出来事から数日で一体どこへ行ったというのだろう? 視界を広げて捜索する。すると領都の北西、立ち枯れの森にその姿があった。
裏寂しい枝だけを伸ばす入り組んだ森。その中を二人のポーンを連れて黙々とリースは進む。その後ろ姿にはいつもの明るさは無い。明らかに普段のリースではなかった。
心配で見つめていると、スッと一人だけこちらを振り向いた者がいた。スアだ。スアがこちらを『見た』のだ。亡霊め。何も無い空のその先、術を介しての視界でしか無いにも関わらず、俺の視線に気がつくとは
…
。その潜在能力に一瞬背筋に冷たいものが走った。
椅子から立ち上がるとフードを目深に被り直す。その仕草でアルベルトには俺が下界に降りるのだと分かったらしい。声をかけられた。
「あまり長居はされませんように」
「ああ、今度はそう長くは居ないつもりだ。だが、あんなリースを捨ておけん。様子を見てくる」
玉座の間を出る瞬間、アルベルトがこちらに一礼してるのが見えた。そのまま進み、森の中に降り立つ。リースは直ぐ見える範囲にいた。
この寂しくも不気味な森には盗賊や魔物が棲みついている。森の端を横切る街道を少しでも外れてしまえば、何に出会してもおかしくない。実害だけでなく、この森自体がそういった雰囲気を放っていた。
「覚者様、少し休憩されては?」
「
…………
いい。いらない」
オルグの申し出にもリースの返答は芳しくなかった。彼が心配するのも無理はない。領都からここまでの道のりを魔物を斬り殺しながら休み無しの行軍だったのだろう。リースのマントには僅かにゴブリンのものと思われる返り血が、そして戦い詰めのスアは若干息が上がっている。スアの表情が乏しいせいで分かりにくいが、魔力残量を見れば彼がどれだけ魔法を行使したのか明らかだった。オルグもそれに気が付いているのか、自分の後方を歩くスアの位置を時々確認しているようだ。パーティー全体に重たい空気がのし掛かっているようだった。
しかしリースは止まらない。人の気配のしない方ばかり目指して進む様は、まるでこの不気味な森に呼ばれているようにも見える。彼が「人」というものから逃げているのだと気が付いたのは、襲ってきた盗賊を返り討ちにした時だった。普段から人間の命は奪わないスタンスではあったが、いつも以上に敵に触れようとはしない。逃げるように立ち回って、オルグを主体にスアと二人で制圧するを繰り返すのだ。リースの背が強張っているのが見えて、それで合点がいったのだ。
可哀想に。あの子は、敵意を持った人間が怖いのだ。そしてきっと親切に近寄ってくる人にさえも怖がっている。だから有象無象が多い領都から逃げ出したのだろう。でなければ、こんなに痛々しい様子のリースが戦いに出る事をオルグが認める筈がない。せめてこの森の奥に、リースの恐怖心を和らげるものがあれば良いのだが
…
。
そのまま数時間ほど森の中を彷徨いたリースは、まるで迷子の仔猫のようだった。
辺りが暗くなってきた頃、昼でも薄暗い森の奥に仄かな灯りが目に入った。吸い寄せられるように足を向けると、古びた教会が姿を現した。そして何より驚いたのは教会の入り口には修道女が一人、掃き掃除を行なっていたのだ。
魔物が徘徊する人気のないはずの森で、武器も持たない修道女という組み合わせは異様だ。彼女はリースたちに気がつくとどこか他人事のように声をかけてきた。
「旅のお方ですか。夜の森は危険と聞きおよんでおります。もし、教会に立ち寄って行かれるのでしたら修道女長にお話しして下さい」
彼女はそう告げると、リースたちに興味が無いような様子で掃除を続ける。ここまで堂々と素っ気ないと、人が怖いリースも警戒心が緩むのかオルグの「中で旅支度を整え直しましょう」という提案に促されて敷地の中へと足を向けてくれてた。夜間は魔物の動きが活発だ。大事に至る前にここで休憩出来るのは大きい。リースの様子にもよるが、可能ならばここで一晩を明かせると良いのだが。
教会の敷地に足を踏み入れると、一瞬奇妙な感覚が肌を撫ていった。気のせいかとも思ったがそうでは無いらしい。途端、スアが辺りをキョロキョロと見渡し始めたのだ。あいつが反応したという事は、先程の感覚は魔術の類か。天を仰いで目を凝らして見ると、薄い魔力の膜。それがぐるりと教会を包んでいるのが微かに見えた。成程、これは魔物除けの結界だ。これのおかげで教会は安全なのだろう。先程の修道女のまるで他人事のような言い分もに合点がいく。
魔法剣士の技にも自分の周りに陣を張る魔法が存在するが、教会丸ごとを囲う結界は一般人が扱える範囲を超えている。しかも大抵の者は結界に気が付きすらしないレベルで隠蔽魔法を上掛けしているとくれば、この施設が如何に特殊なのかが窺える。こんな辺鄙な地に教会があるのもそう言った理由なのだろう。休息を取る場所を間違えた、などとはならない事を祈るばかりだった。
礼拝堂に入るとリーダーと思わしき女性が他の女性たちに指示を出している。彼女が修道女長だろう。本来はリースが声をかけるべきなのだろうが、一番年嵩に見えるオルグが買って出て彼女に許可を請うた。
「すみません。こちらで少々休ませてもらう事は可能でしょうか?」
「ああ。旅のお方ですのね。よくこんな辺鄙な所へいらっしゃいました。夜間の森は一際危険ですので、致し方ありませんわ。明日の日が昇るまではこのチャペルに留まってもらって構いません」
年齢のバラつく女性たちの中で、修道女長の若さと慎ましさ、そして育ちの良さそうな様が際立って見える。おそらく三十路前、貴族の出といった所か。そんな彼女は言いにくそうに眉を顰めた。
「ですが
…
。お気づきかと思いますが、ここは修道院。神に祈りを捧げる女たちの修行の場です。振舞えるような満足のいく食事もありませんし、殿方が長く留まられるのは皆に混乱を招きます。どうかご利用はこのチャペルのみに。そして、日の出と共に立ち去って頂ける様お願いしたいのです」
彼女の言い分は最もだ。争いなど出来ぬ女たちの中に、武装した男が三人も紛れ込んだのだから。この立ち枯れの森の危険度を考慮しないで良いならば、関わって欲しくないと思うのは当然だ。況してやこの三人の男が美形揃いとなれば修行の浅い修道女ならば熱を上げてしまいかねない。修道女長の判断は賢明だろう。何より手厚い歓迎は今のリースには重荷にしかならないのだ。ここが修道院の体を取っていて助かった。
しかし迷惑がられている事に対して申し訳なさを覚えたのか、リースが何やら話そうと口を開いた途端、その言葉は後方から響いた音にかき消された。
「リース⁉︎ まさか
…
貴方なの?」
この声に驚いたリースはゆっくりと振り返る。彼に取っては聞き馴染みのある声。オルグが一足先にその存在に気が付き首を垂れた。
彫りの深い南方の顔立ちにに日焼けした肌。そしてボリュームのあるソバージュの髪が揺れた。
まるで鳩が豆鉄砲でも食らったかのような様子のリースはポソリと彼女の名前を口に出すので精一杯だったようだ。
「
………
キナ、ねー
…
ちゃん
…
?」
「やっぱり貴方なのね! こんな所で会えるなんて! まさか、会いに来てくれたの⁉︎ いいえ、そんな訳ないわよね。だって、この場所は教えていないもの。だとすれば凄い偶然だわ」
キナ。リースの故郷、カサディスの村長の娘だ。幼いリースは村長アダロに引き取られて育ったのだから、彼からしたら兄弟のような存在になる。村でリースがドラゴンと会い見えて負傷した際に真っ先に彼を介抱したのも彼女だった。そんな彼女が修道服に身を包み、そこに立っていた。
矢継ぎ早に紡がれる言葉は、キナの驚きと喜びを表しているのだろう。嬉々として彼女の指先が踊る。そして漸く我に返ったキナは、まるで自分を落ち着かせるように両手を胸の前で握った。声を整えると修道女長にリースの事を説明してくれたのだ。
「彼は
…
私の同郷の者で、村では家族でした。皆に危害を加えるような事は絶対にありえません。神に誓って断言出来ます」
「シスターキナ。貴女はここに来てまだ日は浅いですが、その熱心な姿勢は存じ上げています。よろしいでしょう。貴女を信じます。今後も彼を無碍に追い出すような事は無いと誓いましょう。ですが、それでも彼らが長くここに留まる事は許可出来ない。理由はお分かりですね?」
「
………
はい」
「よろしい。では明日の日の出までの滞在許可を旅の方々に。そしてシスター、貴女の今夜のお勤めはもう残っておりません。就寝時間まで自由時間とします」
「!」
「家族とゆっくり会話する時間も必要でしょう」
「ありがとうございます!」
キナと修道女長のやり取りでリース達は邪険にされず朝まで休む事が可能になった。そして折角の修道女長の計らいを受けてオルグもリースに言葉をかける。
「覚者様。私とスアで荷物の整理をしておきます。キナ様とお話しされて来られては?」
「
…
あ、ああ」
「リース、
…
少し話せるかしら?」
「
…
なんか、そういう服で改まられると変な感じする」
「ふふふ。似合ってるでしょ?」
笑顔のキナに促されるままリースは礼拝堂の外へと歩いていく。その時のリースの表情には、多少弱々しいもののいつもの柔らかさが戻って来ている事に気が付いた。
…
家族か。平穏の寄る方。幸せの在処。かつての俺がそうだったように、リースにとってもその存在は大きなものだ。現にオルグがそれを証明している。リースが傍にいて欲しいと願ったのは、失った自分の家族だ。前世からあいつはそうなのだ。恐らくカサディスで彼が剣を取った理由も、あの村にはキナがいたからなのだろう。大切な家族の力に成らんが為、リースは覚者になる道を選ぶ。
数いる女性の中でもリースが姉と慕うキナがここにいてくれて良かったと思わずにはいられなかった。教会が信仰する神はこの通り何もしてやれないが、人の心を繋ぐのはやはり人なのだ。どうか、リースの心の痛みを和らげて欲しい。俺にはそれを願うことしか出来ないのだから。
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