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叢雲
2025-02-24 17:51:12
51220文字
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ラルス×リース(DA)
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界王ラルスの記憶
DDON→DA→DD2という流れの世界線。
DD世界のとある界王の記憶。狭間の世界の物語。
連載中…
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「その大事な話とは、一体どんな内容なのでしょうか?」
ポーンのオルグが主人にそう問いを投げかけたのは、秘密の逢瀬の当日。夕刻になってからだ。
前日の叙任の儀式ですっかり疲れ果てたリースが件の密会を思い出したのがまさにそのタイミングであり、断りを入れられる刻限をとうに過ぎてしまっていた。これではどうあっても一度はエリノア妃の前に馳せ参じて今後の事を断る他ないのだ。
全く頭の痛い話だ。色恋の色の字も分からぬようなリースに、どうやって体裁を整えて夜這いするのを断れと言えば良いのやら
…
。
「よくわかんないけど
…
。立場上? 男と二人っきりになれなくて、のんびり話も出来ないらしい。んで、俺にだけ教えたい事があるって? そんな感じの事言われた。多分」
溜め息を吐いたオルグと全く同じ心境だ。何より不味いのは、これから現地に赴く本人が何をされるか理解できてない。確かに恋人の一人くらいと思った俺だが、よりにもよって王妃と不倫しろとは思わない。断じて。
「何がそんなに問題なんだよ? ちょっとお喋りするだけだろ? 確かにコソ泥に間違えられんのはごめんだけどさ。俺なら上手い事逃げられるって」
「そういう事を言ってるのではありません」
「じゃあなんだよ⁉︎ オルグは何が気にくわねーんだよ」
「
…
でははっきり言います。覚者様は王妃に肉体か
……
」
いい加減言わねば分からないかと口を開いたオルグが、何故か途中で言葉を詰まらせた。オルグとリースが言い争っている姿をガラス玉の瞳で見守っている者がいたからだ。
スア。心の機微の読めぬ亡霊のようなポーン。彼が二人を無機質な表情で見ている。確かに少々幼い顔立ちではあるが、そいつもポーンである以上は男女の閨について憚る必要は無いように思う。だが、どうもオルグにとってはそうでは無いらしい。スアが心に傷を負っているポーンだからこそ、情操教育に良くない事は吹き込みたくないのかもしれない。オルグは咳払いをして仕切り直す。
「
…
兎に角。覚者様は王妃にお会いしたらこうお答えして下さい。夜分暗い中では何かと誤解を招きます。どうかお話は日の明るい内に願います。と」
「はぁ
…
。わかったよ。言えばいいんだろ? 俺もまぁ、ちょっと気乗りしてないし」
「言うだけではなく、そうお伝えしたら退室もして下さい。夜間の私室はプレイベートゾーンですので、長居は失礼にあたります」
「わーった。わーったって。エリノア様にお伝えして、帰ってくればいいんだろ? 子供だって出来るお使いだ」
「では、そのようにお願い致します」
結局、自分の貞操が狙われているとは知らないままのリースは夜の城へと潜入する事となった。
日が落ちて静まり返る城内。衛兵に気付かれないよう、巡回ルートの合間を縫って進む。エリノアとの会話に気乗りしないと言っていたリースだったが、やんちゃの性が顔を出したらしい。この隠れんぼはなかなかスリリングで面白かったようだ。何しろ見つかったらそれこそ投獄されるのだから緊張感が無い訳ながない。道行、兵士をやり過ごしてはチラチラと笑顔を見せていた。
最後は自分で「ゴール!」と言いたいくらい満足といった顔で王妃の部屋のドアを潜った。その姿はまさに少年のそれだった。
さて問題の室内を見渡すと、本来の目的の相手は窓際に佇んでいる。エリノア王妃。昨今、領王エドマンの元へ腰入れして来たばかりのうら若き妃。少女を思わせる背丈はまさに幼妻と呼んで差し支えない。そんな彼女は本来男性には見せてはいけない寝巻き姿でそこにいた。結っていた髪も解いている。
予想はしていたが、これは準備万端
…
という事だろう。王妃め、本気でリースと火遊びがしたいらしい。これでは恋に焦がれる少女どころの話では無い。リースが上手く逃げおうせてくれるのを願うばかりだ。
リースもそんな王妃の姿に面食らったのか挙動が遅れる。そこにエリノアが溜まらず抱き付いてきた。
「来てくれたのですね!」
その弾むような幼い声とは裏腹に、髪から香る微かな香水や、囁やかながら慎ましい胸の感触はきっとリースに伝わったのだろう。その証拠に明らかにリースが焦っているのが目に見える。これはいよいよ、不味い展開になった。
「ごめんんさい!
…
はしたない女と、お思いですよね
…
。でも、私
…
」
エリノアの声を背中に、この先が見ていられないくて王妃の部屋の外へと出る。暗い夜空の下で溜め息を吐いた。結局、ダメだったか
……
。
いくら別の世界で俺とリースが同性同士で愛し合っていたとはいえ、今のリースは普通の青年だ。普通に女性を愛せる身体で、女性に対して免疫があるわけでもなければ、一線を超えた経験もない。そんなリースがここから逃げ出すのはキツいだろうと思う。
確かに王妃とこのまま懇ろになる事での利点はある。リース自身は女性経験を積める上、王妃の庇護が手に入る。何か城内で問題があれば王妃に手を回して貰えば済むのだからこれほど大きな後ろ盾は無い。それはあまりにも大きな利点だ。
そう。リースは別に女性では無い。だからこれはロストヴァージンなんかじゃないし、男として上流階級の女性で筆卸し出来るのだから喜ばしい話に相違無い。良い事尽くめに決まってる。
…
そんな風に自分に言い聞かせてみるが、とても笑えそうになかった。
やるせない気持ちを抱え、せめて二人の声が聞こえぬほど離れてしまおうと動き出すと何やら騒がしい声が迫って来るのがわかった。
…
この声は、あの小賢しい道化の声だ。
「ああ! 領王様! 女性の寝所に無言でとは、なんと豪胆な!」
道化のフェステが大声で囃し立てているのは、領王エドマンその人だ。だが、どうにも様子がおかしい。胡乱な瞳には正気が感じられず、どこかの亡者を思わせた。それでハッとする。
まさかエドマン。『発作』を起こしたか。
道化の囃し声がやけに大きかったのは、奴なりのせめてもの警告だ。これから領王がそちらに向かうぞと言う。事情を知っている者から聞けば直ぐに逃げろと聞こえただろう警告だが、エリノアは気付いているのか? そこにはリースがいるというのに。
慌てて室内に入るとリースは衝立の裏に隠れ、王妃が急いで衣服を正している所だった。なんという事だ。彼女はエドマンの発作について何も聞かされていなかったのだろう。でなければ今のエドマンに会おうとは思うまい。何しろ奴は、まともじゃない。
リースの隣へと場所を変える。衝立を背に佇むリースは防具を暴かれ、シャツが乱れている。しかしその表情は困惑の色が強く、とてもいい思いをしていたとは言えそうにない。微かに指先が震えているのが見えた。きっと怖かったのだろう。そういった事を意識していなかったのだから、相手が女性であろうとリースにとってはレイプに近かったのだと反省する。守ってやれないどころか、見離そうとした自分に怒りが沸いた。それにこの後起こる事を考えると胸が痛い。やはりリースは今夜ここに来るべきではなかった。
「領王様
…
このようなお時間に
……
。言って下されば、準備致しましたのに
…
」
エリノアは浮気を誤魔化そうと夫に話しかけるが、当のエドマンは聞こえていないようでどんどん彼女を追い詰めていく。そして圧力に気押されてベッドに座り込んだ妻に向けて、エドマンは譫言のように謝罪を繰り返したのだ。
「ああ
…
すまない
……
わしは
…
わしは
……
レノアぁ
………
」
呆気に取られているエリノアの細い首に、男の太い指がかかるまで時間は要さなかった。
「‼︎」
エドマンが白い首筋を両の手で締め上げる。殺そうとしているのだ。踠くエリノアの爪が男の腕を引っ掻くもびくともしない。それどころか正気を失った男は涎を垂らしながら仕切りに失った恋人の名を呼び続けている。レノア、レノア、と。
奴のその奇行を知る者は、これを発作と呼ぶ。
ドラゴンの試練にて仮初の王となったエドマンは、領王就任からこの五十年間ずっと悪夢を見続けている。奴は夢の中で幾度も竜に恐怖し、幾度も贄に選ばれた愛するレノアを己の命の代わりに差し出すのだ。そんな事が続くと、やがてそれが夢だけではなくなった。
五十年も王をしていて、今まで一度も妃を娶らなかったと思うか? そんな訳はない。例え本人にその気が無くとも英雄覚者王の武力が欲しい国はこぞって姫を差し出すだろう。確かにエドマンの王妃は過去他にもいた。それでも領民は未だ子息誕生の報を聞いた事がないのだ。そして不可解な点は他にもある。この妃の私室だ。何故こんな離れの塔に隔離されているのか
…
。その答えは、今まさに目の前で起こっている起ころうとしていた。
領王は己の妻を殺しているのだ。
犯行を行なっている時のエドマンは文字通り正気ではない。頭の中では未だ悪夢を見たまま眠っているのだから。夢と現実の境が分からぬまま、奴は死にたくない一心で愛する者を手にかける。そして事が終われば夢から覚めるが、自分がしでかした事は覚えていない。誰かが妃を殺している。そう思い込んだエドマンは、娶った妻を守るために隔離しようとするのだ。なんとも愚かな事だ。
発作を起こすのは妃がいる時だけではあるが、そのタイミングは予想出来ない。まさか今夜そうなるとは
…
。どうしてこうも運が悪いのか。入口の扉は一つだけ。ではどうやって逃げようか。そう考えていると隣にいたはずのリースがいなくなっていた。
「やめろ! 何してんだよアンタ。殺す気か⁉︎」
エドマンの肩を掴んで止めるリースがそこにいた。
リースの声に、どうやら夢から覚め始めたらしい男の手が緩む。するとエリノアが抑える腕を押し退けて窮地を脱した。やっと手に入れた新鮮な空気に酷く咳き込む。
覚醒したばかりのエドマンは状況が理解できずぼーっとしていたが、目が覚めれば奴の発作は治る。これでエリノアが死ぬ事はなくなった訳だが、当の王妃はそんな事は知らない。彼女はそんな夫の奇行を浮気に腹を立てたからだと思い込んでしまったらしい。リースが姿を現してしまった以上何かしなくては誰かが殺されると、掠れた声で必死に言い訳をし始めたのだ。
「
…
っ。
…
がうんです。りょ
…
ぉ
…
様。
……
の者
…
この者がっ! 勝手に忍び込んで参ったのです‼︎ 昼間、少し声をかけてやったのを勘違いしてここまでやって来たのです」
殺されたくないという気持ちは理解出来るが、流石にこの見苦しい言い訳には些か腹が立った。自分で誘っておきながらリース一人に罪を被せる気か。そのリースに命を救われたというのに。
これにはリースも混乱せずにはいられなかった。急に好きだと言い寄って来た女を助けたら、何故か掌を返されてこちらが悪者になっているのだから。況してや女性経験のないリースにとってこれは酷い裏切り行為だ。押し倒して求めて来られた段階で事の理解が出来なくなっただろうに、これでは詐欺どころではない。男の純情を弄ぶと言うにはあまりにも質が悪すぎる。
エリノアは尚も叫び続けた。
「フェステ! フェステ! いるのでしょう⁉︎ 兵士を呼んでこの者を捕らえさせなさい‼︎ 領王様! どうかこの者にキツいお仕置きを。牢に繋いで鞭打って下さいまし!」
王妃の必死な訴えにあれよあれよと兵士が駆け込んで来た。リースは未だ事態が飲み込めず、素直に両手を縛られる。いつものリースならここまで状況把握が遅れる事はないはずだ。おそらく、性的行為を求められた事が原因なのだろう。エリノアを助けた時は人命に関わる事だから咄嗟に動けたが、リースの思考は止まったままだった。
そして王妃の私室を連れ出される際、一度だけエリノアの方を振り返ったが王妃はリースの事を見ようともしなかった。
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