走って出て行ったハインラインをコノエが探しに行っている間、未だ取り戻していない十六年分の出来事、記憶、思い出をチャンドラからざっと説明してもらう。
C.E.73、十月。地球連合とプラントは再び戦争状態になった。第二次連合・プラント大戦と呼ばれている。
ノイマンはラミアスの召集を受けてオーブ軍から抜け単独行動を取るアークエンジェルの操舵士として再び戦場に出た。
前後してブレイク・ザ・ワールド、ラクス・クライン暗殺事件、ユーラシアへの侵攻、ロゴスの壊滅、ディスティニープランなど色々あった。
二次大戦終結後、世界平和監視機構コンパスという多国籍軍に出向していたがファウンデーション事件でアークエンジェルは失われた。
ファウンデーション事件解決後、コンパスで出会ったコーディネイターの技術士官であるアルバート・ハインラインの猛アタックの末交際関係に至り、結婚。
チャンドラから卵子提供を受け、人工授精、人工子宮技術でハインラインとノイマンの子どもを一人ずつ作った。
子どもはコーディネイターの女の子とナチュラルの男の子で、チャンドラの持って来た白いハロのライブラリに保存してあった子ども達の写真を見せてもらったが女の子の方はともかく、男の子の方は自分に瓜二つだったので血の繋がりを感じた。
現在ノイマンはコンパスの出向からオーブ軍に戻り、空軍の二佐として教導隊の教官としてオノゴロ基地で勤務しているという。
ノイマンの身分証を持って来てくれていたので確認すると、軍に登録してある名前は本当に「アーノルド・ノイマン・ハインライン」になっているし、身元引受人の配偶者の欄には「アルバート・ハインライン」と書かれていた。偽造だと信じたいがそうだとしたらやたらと手の込んだ偽造書類となる。現実から目を逸らすのにも限界があった。
ちなみにチャンドラもコンパスで知り合った十四才歳上のコーディネイター、アレクセイ・コノエ氏と結婚して娘が一人いるという。
オーブの子どもなら誰でも知っている絵本に「ウラシマタロウ」という物語があるのだが、ノイマンはまさにその絵本の主人公になった気分である。
しかし、話を聞いても家族のことは全然思い出せない。
ノイマンの恋愛対象は女性のみで、これまでに男性を好きになったことは無いのだが、チャンドラに話を聞く限り自分の恋愛対象は男性まで範囲が広がったようである。
現在でもバジルール中尉の事を少し引き摺っていて、恋愛なんて一切考えられないのに、まさかの男性と恋愛結婚。何か弱みでも握られていたのではなかろうかと俄かに不安になった。
小三十分後、ハインラインはコノエと一緒に病室に戻ってきた。
「さっきは取り乱してすみませんでした。アーニー、とりあえずオーブに戻って来てくれませんか」
病室の出入り口の近くに立ち、泣いたせいで瞼を真っ赤に腫れさせたハインラインが話しかけてきて、驚いてビクッと身体が震えてしまった。ノイマンは一切そちらを見れなかったが、ハインラインは落ち着いた口調で続ける。
「家族に、子ども達に会えば何か思い出せるかもしれません」
「そうだよな。二人ともノイマンの帰りを待ってるからさ」
チャンドラもハインラインの意見に同意した。
だが全く記憶にない彼とパートナーとして一緒に暮らしていたわけだから…オーブに帰るということはつまり。
ノイマンの不安は思いっきり顔に出ていたらしい。チャンドラが下から覗き込んできて「どうしたんだ?」と聞いてくれるが、正式なパートナーであるらしいハインライン本人がすぐそこに居るのに、ハインラインと一緒に暮らすのは抵抗感がある。とははっきり言い難い。
彼から並々ならぬ感情を向けられているということは分かる。静止を振り切って病院内を全力疾走してきて、ノイマンを見るなり感極まって泣き出したし、ノイマンが彼との記憶を失っていると知った時の呆然とした表情からは相当のショックを受けたのだろうと察せられたからだ。
そこに助け舟をだしてくれたのはチャンドラの夫のアレクセイ・コノエ氏である。
「ダリダ、ノイマンは記憶を失っているんだ。いきなり同性のパートナーと子どもが二人いると言われても困惑するのは当然だ。だからどうだろう、しばらくうちに滞在したらどうかな? 部屋は余っているし、君の家とは徒歩でも五分ほどの距離だからアルバートや子ども達とも毎日会える。チャンドラがそばに居てやった方がノイマンのメンタルも安定するだろう」
コノエはノイマンの不安を全て言い当てた上で絶妙な言い回しでハインラインに角が立たないように最高の案を提示してくれた。
チャンドラのやつめ、素晴らしくデキる夫をゲットしてやがる…!
ノイマンは感動した。
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