akinoshiroihana
2025-02-10 20:06:10
15388文字
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名刺置き場9

ゲッターロボ用



●おたおめです
インプット期のつもりがアウトプットをさぼってたせいで、多分純粋にヘタクソになってますごめん。



強い風が、根雪を撫でて来たぞっとするほどつめたい風に、何処とは知れないが梅の花の開いたらしい香がすると
昨日の夕方窓辺で鼻をうごめかしていた武蔵が
いきなり熱を出して寝込んでいる
「鼻風邪で熱が出るなんて、おいらはじめてだよぅ」
先日の隼人の時のように喀血でもするのではないかというほど咳き込むわけでもなく、しかし真っ赤な目をして布団にもぐり込んでいる。
曰く、目がしんどいし体中痛痒くって食う気にもなれず、それが全部頭に集まって頭痛になるみたいだ、と。
「なんだか二日酔いから復活してくる前みてえだな」
そう呟く隼人が未だ明かしたことのない過去の不良っぷりか幼い日の大失敗かもしれない経験を垣間見せるのに竜馬はぎょっとし、濡れタオルを手に武蔵の世話にかまけて胡麻化そうとするが、布団の中からはやめてくれえ、おめえらの声聞くだけでも耳がつらいとも泣き言があった。

「なんにしても、麓から先生を連れてきて点滴だろ、じき出動できるようにお注射さ」
「まあ急ぐなよ、今は体調を崩しやすい木の芽時って奴だし」
言い合う二人に
「そ、そうだよ木の芽時だよ恋の病だよきっとうそうだ、それで自律神経がやられたんだ!」と武蔵のIQが一瞬爆上がりもした後

寮の駐輪場で出かける準備をした隼人が、すいと身を屈め、細い脚線にぴたりと合ったブーツの具合を確かめた後、「ちぇっ」と呟き嫌そうに手をぱっぱと振る。
「どうしたんだ」
「靴の表面が何かの粉に塗れてスベスベなんだよ」
傍目にはわからないが、その白くてすらりと長い指は何かに汚れたのだという。それが不快だと傍らに立つ椿の同じくらい白くすべやかな幹に手をこすりつけてからグローブを嵌め直す。
「何か花が咲いたかな、去年の秋は短かったから、この春は花がどれも凄い勢いで咲いて終わっちまうだろうぜ」

そう言い風のようにバイクで走り去る隼人の姿を見送った後、竜馬は彼が触れていった椿の細い幹に触れてみる。白く細い幹は陽だまりにほのかに温もり、滑らかに静まった木肌の上に白粉でもはたいたような感触がある。当てた手をそのまま何度か撫でおろした後、親指も使って上へ―――と指を這わせてみてから、はっと何かに気付きでもした様子で彼はみるみる赤くなり、ぱっと手を離した。いったい何を思い描いたというのだろう輪を作った自分の手のかたちに、二月の終わり三月の始まりのその日。

病床でぴいぴいめそめそし、ミチルの名を口にして、おれのことわすれないでうわあんなど言っていた武蔵は、ありとある粘膜薄皮を悩ます「花粉症」、当時としてはなかなかにハイカラで先進的な病と見立てられた。生まれ育った北海道には無い植物が悪さをしたのだろうと、それにこの猛烈に咲き急ぐ花々の第一陣のしわざかと。

『凄い勢いで咲いて終わっちまうだろうぜ』

風の中、嬲らせた髪を黒い炎のように激しく乱しつつ、あの日早い春の丘を大型バイクで駆けて行った隼人がそう言った。
そしてその通りになったのを、いまは「二人」だけが憶えている。


(了)