桜霞
2022-10-01 17:01:46
50262文字
Public 【twst夢】フライパンは無敵
 

女の恨みはおそろしい

#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/11/03にpixivに投稿したものの再掲です。







 ▼図書館





 まずはやっぱり、ユウたちに会いたいなぁ、と思ったリンは、オンボロ寮へ向かうことにした。メインストリートや植物園、実験室エリアの人混みをどうにかこうにか切り抜けて、図書館へ向かう人の流れに乗る。
 首都の通勤ラッシュ時を思い出させるそれに、リンは般若の面の下で遠い目になった。
「───っあ!! スタッフさん!!」
「!」
 ぴた、と動きを止めたリンが、くるりと振り返る。瞬間、リンを呼び止めたらしいイグニハイド寮生が「ヒッ!!」と悲鳴を上げて飛び上がった。
 リンは慌てて般若の面を外した。
「あーごめんごめん! はいはい事務員です!! スタッフだよ!!」
「アッハイ、あの、その、すみませ」
「いやいやこちらこそ驚かせてすまない。それでどうしたの」
「あ、あの、いま時間とか、」
「うん、大丈夫だよ」
 寮生は言葉に詰まったらしく、何度か口を開閉させたが、結局は、何度かどもりながら「こ、こっち、こっちです、」とリンをどこかに誘導したいようだった。

 ───これがサバナクローとかハーツラビュルなら問答無用で腕引かれてんな

 リンは「こっち?」と言いながら、図書館へと入ることになった。
 図書館の内部は照明が完全に落とされていた。映画音楽さながらの重低音が良い音質で響き、壁や天井、床にまで光の映像が投影されている。
「うわすごい、プロジェクションマッピングだ」
「あ、ご存じですか、」
「ご存じですよ。すごいね、皆で作ったの?」
「はい、日ごとにバージョンアップも、」
「えっすごいね!? ちゃんと寝てる!?」
「アッハイ、あの、へへ、ども」
 気恥ずかしそうに何度も会釈していた寮生は、不意にはっと息を呑んで「そうじゃなくて!!」とリンを再び誘導した。
「うわー、すごい、」
「めちゃくちゃハイクオリティのロボットじゃん!」
「やめてください、損傷に繋がるおそれがあります」
「喋り方もかしこーい!!!」
 図書館内とは思えないほどの歓声が上がる。リンはそれらの集団から、「あれが要件?」と無言で指差し、寮生の方を顧みた。もうどうすればいいのか分からないといった風情の寮生が、ぶんぶんと何度も縦に頷く。
「───任せな」
 リンは、かぽ、と般若の面を取り付けた。
「ねえねえ、きみ、こういうのって食べられる?」
「動力なに? やっぱ電気?」
「充電コードどこにあんの? 差し込み口どこ?」
「ちょっとぉ、やめなよお!」
 ぎゃはぎゃはと、下卑た笑いを浮かべる客たちの周りに広がる暗闇から、───不意に。

 ぬる、

 ソレは、現れた。
「っ!」
 真っ先に気付いてびくりと体を震わせたのは、オルトの傍に立っていたイグニハイド寮生だった。新しいヒトの登場に、オルトも瞬いてデータスキャンを開始する。
 彼らの醸し出す雰囲気につられて、何事か違和感に気付いたらしい客たちが、頭上に疑問符を浮かべながら周囲に視線を巡らせた。
 直後、般若の上を、プロジェクションマッピングのライトがするりと通り抜けた。
「ヒッ!?」
 一瞬、暗闇に浮かびあがった鬼の顔は、迫力どころの話ではなかった。
……お客様」
「、は、へ!?」
「彼はうちの生徒です」
 静かな、重みのある声が、淡々と降り注ぐ。映画音楽が重低音でそこかしこに流されているのにも関わらず、その声はいやにはっきりと客の耳に届いた。
「生徒が嫌がるような言動や行動は、慎んで頂きたい」
「、い、いや……
「ちょっと仲良くお喋りしてただけっていうか、」
「は……? オルトくんはやめろって言ってたのに……!?」
 寮生の言葉は、小さいながらも確かに響いた。
……上映を楽しみにしていらっしゃる他のお客様にもご迷惑です」
 しなやかな指が一本、鬼の口の前に、静かに立てられる。
「いったん、外に出ましょうか。詳しいお話、させて頂けますね?」
…………
…………
 するり、鬼が一歩、距離を詰める。客たちは揃って、たたらを踏みながら後ずさった。そして誘導されるがまま、出口に向かい、明るい外に出る。
「それで、一体どういうわけでウチの生徒に」
「っ、行こ、」
「えっ」
 直後、彼らは勢いよく地面を蹴って駆けだした。あっという間にその姿が小さくなって、人混みに紛れてしまう。
「あーらら」
 行っちゃった、とリンはお面を取り外し、再び図書館内に戻った。
 寮生たちが作業スペースに使っている機材の裏をひょいひょいと通り抜け、先程の場所まで戻る。
「あれ、スタッフさん」
「彼らはどうなったの?」
 一番絡まれていた、不思議な恰好をしている男子が、伺うようにしてリンを見上げた。
「それがねえ、逃げられちゃった」
「えっ」
「もー、早いのなんのって。ああいうのは追っかけて捕まえてもどうにもならないことが多いし、追い出せただけで良しとしてください」
「あぁいや、ありがとうございました……!!」
 ぺこりと頭を下げたリンに、慌てて寮生も深々とお辞儀する。リンは顔を上げると、オルトに向き直った。
「ごめんね、大丈夫だったかな。えーと」
「僕はオルト。オルト・シュラウドだよ」
「オルトくん。私はリンです。事務員の」
「初めまして。挨拶が遅れてごめんなさい」
「こちらこそ」
「それと、助けてくれて、ありがとう」
「当然のことをしただけだから。でも、どういたしまして。彼にも御礼を言っときな」
 客の誘導をしている寮生に視線を投じて、リンは静かに言った。
「彼が私を呼んだんだ」
「分かった。……あとね。ひとつ、リンさんに謝らなければならないことがあって」
「?」
「これ、なんです」
 寮生がどこからか持ってきたのは、どこか異臭のする、しわくちゃになってしまった分厚い書籍だった。
 図書館の本であったことは、一目瞭然だ。
「うわ」
「すみません」
「うわー……客の?」
「そうです」
「器物損害じゃん」
 訴えたら勝つる、とぼやいたリンに、「犯人のデータならあるよ」とオルトが言った。マジか、と寮生が思わずといった体で独り言ちる。
「いったん司書さんに報告だな。あー、事務局長にデータはあるらしいって言うだけ言っとく。……オルトくんさ」
「?」
「この本の紙の繊維って分析できる?」
「できるよ」
「できるの!?」
 聞いておいてなんだが、リンは素直に驚いた。
「でも、それをしてどうするの?」
……濡れた本は、ジップロック……プラスチックバッグに入れて冷凍庫に一日放り込んでから、重しを乗せて五日間乾燥させると綺麗になるというライフハックがあるんだ」
「そうなの!?」
 寮生たちが揃って瞠目する。呟く青い鳥様さまだなぁ、とリンはしみじみ思った。
「ただ、この本、古いだろ。それをやっても大丈夫なのかどうか、もろもろ上に確認取って、試せそうだったら試す……ことに……なるかも……
「それじゃ、兄さん……寮長が戻ってきたら、その報告をした上で、後で事務に伺わせて頂きます」
「そうしてくれ。私は一旦、オンボロ寮に行く」
「? 事務局に戻らないんですか」
「うん。ちょっと、オンボロ寮に向かってるひとが多かったから。大丈夫かなと思って」
 人の流れは図書館の前で二分されているとは言え、不安は残る。
 優秀と言われる生徒が多いディアソムニアが会場を設営しているのもオンボロ寮なので、下手なことにはなっていないと思いたいが、万が一ということもある。
「分かりました。改めて、ありがとう、リンさん」
「どういたしまして。無理せず、ちゃんと休めよ。また今度、皆の力作、ゆっくり見に来るな」
「是非!」
 オルトがにこ、と眦を緩ませる。その表情に安堵して、リンは踵を返した。そして、般若の面をかぽりと被る。

 ───本当に、大事になっていなければいいけど……

 嫌な予感というやつだろうか。変に心臓が逸る。
 リンは急ぎ足で、オンボロ寮への道を急いだ。





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