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さもゆ
2024-12-10 00:53:45
85123文字
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【スティレオ】とりあえず、ワンモア
名前有りのモブがレオくんに迫るのをモブレオって言っていいならこれは八割くらいモブレオ。
残りの二割で何とかスティレオになります。
こんなに書いといてあれなんですけど、大したこと何も起こらないです。へへ。
2021.3.7 たまごのお粥pixiv投稿作品
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そもそもそんなに頭を悩ませる相手ならば、たとえ仲良くいたい友だちでも一旦距離を置いてみるのが最良なのだが、それを分かっているレオがなぜそうしないのかというと偏に「恋愛対象が自分」という事実に同情を抱いているからだった。レオとて恋心を抱いたことはあるし、本当にもったいないことに、恋心を向けられたこともある。ちょっといい雰囲気になりかけたことだってある。けれど手を繋いだこともキスをしたことも、ましてや恋人ができたこともない。
それは誰よりもレオがレオ自身に引け目を感じているからだ。端的に言うと、自己評価が低い。
女の子に好意を寄せられていると奇跡的に気づけた初めは年頃の男子らしく浮かれたり鼻の下を伸ばしたりだらしなくなったりするのだが、時間が経つにつれ「どうして俺なんかを好きでいてくれるんだろう」「もっといいひとがいるのに」「その目は別の素敵なひとを見つけるべきだ」などとネガティブに走ってしまい挙句の果てには「俺なんかを好きになってかわいそう」という同情にまで発展する。この普段の天真爛漫で純朴な態度からは想像できないほどネガティブで卑屈で面倒臭い思考回路の根っこは、おそらく、幼少期、妹であるミシェーラとの育ち方の違いで根付いた結果なのだが、青年になってもそのままなのはこの上更に義眼の件が起こり真っ直ぐ育つチャンスを逃したからである。ライブラに身を置きガミモヅの件で少しは真っ直ぐ伸びた枝葉が育ったが、それでも、もともとの根が曲がっているので、こうして
――
特に疎く不慣れな恋愛面においては
――
卑屈さが強く出てこざるを得なかった。
バランスがおかしいのもある。レオは「愛すること」には秤を振りきれるのに、「愛されること」には最初は嬉しがっても怖気づいて最終的に相手の秤が振りきれることに同情して待ったをかける。それ以上相手の秤を揺らさないよう逃げることも辞さない。距離を置くのが最良なのはそういうことだった。
誰かを愛するのに重心を置けるなら、それこそ、恋人のひとりやふたりいてもおかしくないし、童貞とからかわれやしないのだろうが、これは単純に奥手な性分のせいだろう、愛すると言っても見守ったりただそばにいられるだけで満足したりで、レオの恋がそこから発展することはなかった。もっと言えば恋した相手の恋愛相談役になることが多い。「いいやつ」特有の役回りだ。大抵自分の部屋のベッドでこっそり泣くことになる。
控えめで、大胆に行動する度胸と積極性もなく、卑屈。失恋して泣くレオをごっそり取っ捕まえて「お兄ちゃんたら全然駄目ね! お兄ちゃん自身が自分の恋路を邪魔するというのなら私がそのうち馬の代わりに蹴飛ばしてやるわよ、まあ私、車椅子なんだけどね!」わはは! 笑うミシェーラのブラックジョークを思い返せばやはり似た者兄妹なのだろう。変なところで暗さを出す。
さて今回だ、実は愛されることに卑屈になりがちなレオが距離を置かずにアドルフに歩み寄っているのは、やはり最初の「嬉しい」という気持ちを段々上回ってきた「こんないいやつが、俺なんかを好きになってかわいそうだ」という見方によればあまりにも曲がった思考ともうひとつ、少し真っ直ぐ育った「俺がいかに駄目なやつか、逃げずに向き合えばきちんと分かって諦めてくれるかもしれない。亀でも進もう」という後ろ向きに前向きな思考があるからだった。後ろに光があるのか甚だ謎だが、クラウス曰く光に向かって一歩でも進もうとしている限り人間の魂が真に敗北することなど断じてないので、月明かりでも星明りでも太陽でも幻覚でも、レオが敗北することはないだろう。義眼で見た幻覚なら確かな幻覚だ、向いた後ろに光はある。
ここに正しく客観性を持つ第三者がいたならば「その気がないならつべこべ言わず振ってやりなさいよ。それが優しさというものです」と教えてくれただろうが、こういうとき当人はすべからく視野が狭く抱えた「どうしよう」を中々離さずその一点だけに視線を注いでしまうものである。神々の義眼持ちでも同様だ。
レオの今のところただひとりの秘密の共有者、スティーブンは第三者としてどうか? 彼に関して言うと、レオの当初の想像通り、彼はレオのこの悩みについてさほど重要視していなかった。第三者としては完璧、良き相談役である。けれども、致命的に、第三者として完璧すぎて、レオのその曲がった根っこと枝葉のアンバランスさに気づけていなかった。有り体に言えばスティーブンは他人らしくまるでレオに興味がなかったし、上司より深い立ち位置まで行っても保護者じみた存在で、今回の相談とて口では喧しく忠告しても「まあレオナルドなら最終的には自分でなんとかするだろう」という放任主義さえ貫いていた。興味がない、は言い過ぎたかもしれない。彼がこの部下をそれなりに信頼しているからこその放任だ。そうでなければ、スティーブンはとっくにレオの交友関係を洗いざらい調べつくして、アドルフがライブラに仇なす者でないか、悪辣な人間ではないか、義眼を利用する者ではないか、隠された真実を知り得ていただろう。
スティーブンはレオの言う「いいやつ」も、レオの土壇場の馬力も、信用しているのである。だから常識的に第三者である保護者じみた説教を用いていても、まさか本当にレオがアドルフにいいようにされるとは実のところ毛ほども思っちゃいなかった。
……
警戒心のなさや流されやすさには大いに呆れて馬鹿にはしたが。
なのでレオは今ほとんど亀というよりは馬だった。馬のような勢いで間違った方向に突き進んでいる。もう一度確認しよう。
世の中には立ち向かって行かずに距離を置いて良くなる場合が、山ほどある。
全てを分かち合いイーブンで終わる事象など、こと恋愛面においては難儀なことで、実際、レオの秤は平等ではない。距離を誤り近づきすぎて相手の秤に乗せられたり乗られたり揺るぎまくったりは自然の摂理だろう。どうしようもない。諦めるしかない。レオは既に近づきすぎていた。
唇に吐息が掠めるくらい、だ。
※
「きっキスするのッ?」
声音が動物だったら遊具から落ちたパンダなみに引っ繰り返っていた。
「
……
だめ?」
「だ、っめだよ! だめに決まってる! きっきすとかっそーいうのは!」
引っ繰り返ったまま起き上がれないのでやっぱり亀かもしれない。
愛人との殺傷沙汰で起こったザップの入院生活が十日も続くというので、その二日目、レオはたとえ入院していても何か事があれば否応なしに戦場へ舞い戻ってくる先輩のため、彼を大人しくさせる暇潰しの見舞い品を見繕っていた。すなわち、本である。
本当に医者から決められた療養期間で療養できるか怪しいのが前線で戦う者の定めだとは思う。けれど、休めるときに休んでもらわなければ、見ているこっちがあちこち痛くなってくる。ナースにちょっかいをかけたり、これ以上傷を増やすなと言われたくせに血法の手で横着したり、葉巻を喫ったり、モルヒネを浴びたり、レオが来てからはゲームをするようになって多少は入院態度がマシになったようだけれど、彼ときたらやはり血液が手足の代わりなのでゲームの制御も血法でしてしまう。操作が難しいアクションなんかは特にそう。楽しんでやっている。それじゃ駄目なんだってば。安静にしてもらわないと。
そこで活躍するのが本だった。本なら両手で持てるし、備え付けのテーブルや台を使えば手の一本で操作可能。夕べ、ライブラ帰りに寄った見舞いで「どんな本がいいですか」と訊いたら「エロいの」と直球で返ってきたので予想通りの応えに「はいはい」とだけ言っておいた。愛人に刺された男に誰がエロ本など持ってくるものか。
実を言うとこのやり取りはアドルフと友人になってから何度もしていたので、嫌がらないあたり、ザップもレオが持ってくる本をそれなりに気に入っているのだろう。気に入らないものを受け入れる男では絶対にない。
アドルフと知り合ったばかりのころ、職場の先輩が入院してるんだけど全然大人しくしてくれないんだ、と相談したのをきっかけにこの本選びは始まった。選んでくれているのはほとんどアドルフで、小説だけでなく漫画や雑誌からも、患者の性格や嗜好を聞いて的確にアドバイスをしてくれる。レオにあまり金がないこと、ザップに返却必須の本を渡すのは危険なこと、それを踏まえて図書館からではなくこの古本屋で買える本を斡旋してもらっている。彼の本選びの腕はピカイチだった。しかも、それはレオが読んでも面白いんだから、ザップが持ち帰らない(この場合の持ち帰る、はおそらく愛人の家に、だ)ときにレオの部屋に本が増えたって全く構わないのだった。
そっちがその気ならこっちもこの気、昨日の朝の話を踏まえ、レオは緊張しながらもアドルフの友人として古本屋に赴き、本を見繕ってもらうことにした。
多少どもりながら依頼すると、アドルフは狭い店内を巡りながら生き生きと丁寧に仕事をしていった。
この本はどう? そのひと、前に「嘘くさい話がいい」って言ってファンタジー持ってったらつまんねえって一蹴した人なんやろ。逆にノンフィクションもの持ってったら読んどったんやもんな。こんな街に住んどったら嘘くさいの定義も変わるんかも。でも小難しいもんはアカンのなら、んー、これよりこっちかな。宇宙について簡単に面白おかしく紹介してるやつもあるし。泣ける話はどう? ナチス時代に生きた本好きの女の子の話。でも入院中に気が滅入ったらアカンか。あ、こっちは? 登山家の記述なんやけど、写真が綺麗でさ
……
。
とりあえず候補を出された本たちが、最終的に選ぶレオの腕に積まれていく。ぱらぱらとページをめくって見せてくれるアドルフに寄って覗き込んでいると「あ」と声が出た。気づいて戻ってくれたページには、広大な湖畔と、遠くに霞む雪山の写真が載っていた。
「ここ、俺の故郷にちょっとだけ似てる」
「ほんと? 聞いとった通りいい場所やな」
「うん。国は
……
ノルウェーかあ。フィヨルドだ! 全然違うや」
「あは。じゃあ俺の故郷の方が近い」
「こんな感じ?」
「まさか! この雪山見てよ、天国まで一体何キロメートル歩かされるんや? 俺んとこなんて、すごいで」
「何キロ?」
「150メートル。五分以内で天国に着く」
「それ山じゃないよ。丘だよ。小さい方の」
「そう言えるんが羨ましい時期もありましたね。でも今はもうちょい高い山もあるで」
「何キロ?」
「170メートル」
「それ山じゃないよ」
言ってから、レオは堪え切れず噴き出してけらけら笑った。彼の国に山がないことは知っている、お互いの故郷の話になったときにこのやり取りも何回かしているのだが、それでも彼が真剣に言うたびに笑ってしまう。HLにはビル群の山や永遠の虚という山だか谷だか分からないもの、山の姿をした異界人などはいるが、普通の、標高の高い山脈などは当然ない。まだ人生で一度か二度しか実際に見たことがないというアドルフに本物の山を近くで見せてやったら、さぞ楽しいだろう。レオは隣にいるアドルフを見上げて笑いかけた。「旅行できたらいーのにな。そしたら山でも丘でも一緒に行けるのにさ」レオはここから離れる気はないが、アドルフは、
……
どうなんだろう。
「HLがつまらんくなったら俺の国へおいで」こういうとき、アドルフはこちらに深く踏み込まず何でもないふうに言ってくれる。「ここよりよっぽど平和で、住みやすくて、太陽が出たり出なかったりだけど、」茶目っ気たっぷりに笑みを零した。「『嘘くさい』ところやからさ」
「なるほど」レオもしたり顔で言って見せた。「じゃあ僕んとこにも。木は喋らないし湖にUMAもいないし道路も動かない、とても嘘くさいところだけど、ぜひ」
「最高」
お互いニンマリ笑顔で頷き合い、見舞い品とは別にその本買うよ、と口を開きかけたところ、伸びてきた指が額にかかる鬱陶しい前髪をのけたことでレオは口を開けたまま黙った。アドルフが星の煌めきをお湯に溶かしたような温かな目でレオを見下ろし、髪が伸びたね、と言う。
「そ、
……
そうだね。アドルフも。か、髪の毛、染めた?」
「ううん。そう見える?」
「照明の加減かな。いつもより、暗く見える」
「ほんと? ちゃんと確かめて」
本を抱えるレオの手に温度の高い手が重なり、糸目に影が降ってくる。レオの癖毛とアドルフの柔らかなブルネットが絡み、そんな額をくっつけてちゃ確かめられないよ、たじろいで言おうとしたら脳裏に昨日の光景が蘇った。レオの義眼は記憶の反芻を間違えない。スティーブンの瞳の色や、肌の青白さ。目の前のアドルフと重なる。優しそうな垂れ目のくせに、薄い唇から飛ぶ言葉は中々えげつなくて、その吐息がレオの唇に
――
。
「あ、アドルフ。きっキスするのッ?」
ぴたり、引っ繰り返った声音を間近でぶつけられたアドルフは困って眉尻を下げた。
「
……
だめ?」
「だ、っめだよ! だめに決まってる! きっきすとかっそーいうのは!」
「ちぇっ。じゃあしやん」
レオがあからさまにホッと胸をなでおろしたあと、離れる素振りをしていたアドルフが隙をついてレオの頬にキスをした。音だけのものではなく、しっかり柔らかな感触を残す方のキスだ。レオはぎゃあっと悲鳴を上げて本を落としたが、アドルフが間一髪で見事キャッチする。彼は真っ赤な顔でけらけら笑っていた。
店のカウンターからうるさいぞと店主の触手が飛んでくる。レオも真っ赤になってだってお宅の店員がぁ! と情けない悲鳴を上げた。
※
「あそこの店長さんとアドルフは仲がいいんですよ、アドルフが住み込みで働いてるってのもあるだろうし。店長さん、言葉は堪能なんですけど、目がある種族じゃなくって。なら本をどうやって楽しむかって言うと食べるんですって。でもそーすると本がなくなってしまう、そこでアドルフが読み聞かせをしたりして。僕も聞いたことあるんですけど。すっごく落ち着く空間なんです。お店自体こぢんまりしててお客さんも少ないし居やすいし落ち着くし」
「それで?」
「だからあれは僕だけが悪いわけじゃないと思うんす」
ほとんど眠っているかのような重怠そうな瞼を持ち上げてレオを見たスティーブンは、鼻息を漏らすと、ソファの背もたれに身を預けて瞼を閉じきった。三人掛けの真ん中を空けて隣に座っていたレオはちょっと遠慮して、ほかに誰もいない執務室に合わせた小声で問う。
「
……
眠たいんすか? 今日はもう帰ります? 昼間も確か、戦闘したんですよね。ツェッドさんから聞きました。あ、バイトの帰りにザップさんとこ行ったんですけど、元気そうでしたよ。本もちゃんと、気に入ったみたいで。ええと、あの、それで、
……
帰っちゃいます?」
「分かったから」スティーブンは煩わしそうに身を捩った。「まだ話聞いてやるから、そんな妖精みたいに囁くのはよせ」
レオはスティーブンへと乗り出していた体を戻し、執務室の遠い天井をぼうっと眺める。「じゃあちょっと、妖精の最大声量でいきます」
スティーブンがレオのいる左側の耳に指を突っ込み、そしてレオはひどい掠れ声で叫んだ。
「どうしてあーやって流されちゃうんだろう! 俺は馬鹿だ、こんなのアドルフのためにならない!」
「
……
今のが妖精の最大声量?」
「断末魔です」
ぐったり、ソファの空けた真ん中に突っ伏した。
スティーブンが一日の終わりに似つかわしい溜め息を吐き出し、隣の死にかけ妖精の頭をどついた。ひどいと思う。トドメどころか死体蹴り。叩かれたレオは「だってぇ」と癖になりつつある文句を言いかけ、その後に続く言い訳があるわけでもないのでめそめそと頭を振った。自分の髪からバイト先のチーズのにおいがぷんと香って更に悲しくなる。本当なら持って帰れるはずだった廃棄ピザは入院中のザップに全て食われた。代わりに食べた病院食じゃ腹も心も満たされない。
満たされないついでになんとなく、ひょっとするとまだスティーブンは事務所に残ってるんじゃないかとライブラに寄った先でもこうして慰めてもらえなくってつらい。スティーブンは退勤の用意をしていたので、これはもちろんレオが悪い。だがものすごく嫌そうな顔をしたわりに、何だかんだ言って一緒にソファに座ってくれたし頬キス事件(あれはレオの中で事件になっている)も黙って聞いてくれたので、スティーブンはいい上司だと思う。
「もういいんじゃないか。諦めてつき合っちまえば。きみはアドルフのことが好きなんだよ。認めてないだけで、本当はべた惚れなんだ。受け入れな、面倒だから。楽になるぜ」
言葉はとんでもなく辛辣だけれど。
「好きじゃないです。好きだけど。でもそーいう好きじゃないんです」
「頬にキスされて、嫌じゃなかったんだろ? きみ挨拶でキスするタイプじゃないじゃないか。頬にされて嫌じゃなかったら口にされても嫌じゃないよ。たぶん」
「スティーブンさんは友だちと口にキスできるんですか」
「相当酒が入ってるか、しなきゃ死ぬってなったらね」
「ほらぁ! 僕だってそうっすよ。口には愛してる人とじゃなきゃ」
「むず痒い。きみは夢の国に行くべきだな」
「カリフォルニアの? 妖精枠で? いじめられて終わりですよ」
「夢と魔法の世界でそんなこと起こらないさ」
「夢と魔法のHLで毎日生きてるだけで必死なのに?」
「HLが何だって? そうか。じゃあとっとと王子様と真実の愛のキスをしちまえ」
「そーいう好きじゃないんす!」
「でも頬にされて嫌じゃ
……
やめよう。埒が明かん。あのなあレオ、ティーンのきみに合わせて言うが、好きならつき合え。そうじゃないなら振れ。振る理由が義眼やライブラのことなら気にするな、うちにも身内とその恋人や家族を守る人員くらいいる」
それを聞いたレオは突っ伏していた顔をおもむろに上げた。
「
……
ミシェーラから聞いたんすけど。実家に帰ってから、妙に知らないひとに助けられる頻度が増えたって。この間なんかその人とクッキー作ってトビーと食べたらしいっす。美味しかったって」
スティーブンは明確に眉をひそめた。「
……
もっと上手いこと潜むよう言っとく」
「いいと思います。あいつめっちゃ楽しそうだったんで。ありがとうございます、ほんと。ただあいつの懐に入り込むスキルがやばいだけなんで、そのままにしといてやってください、お願いです」
「兄妹だなあ」
たぶん今のは誉め言葉のニュアンスだろう、レオは顔をほころばせてハイと頷いた。眉間の皺を解いたスティーブンが眩しいものでも見るかのように目を細める。
「クラウスが。まあ、ほぼ全員だ。僕らはきみたち兄妹を、なんというかな、誇りに思ったんだ。きみたちはよっぽど強いのに、守らなければとも、あの時強く思った。HLではなくとも、今度こそ、きみの認知の及ばないところでミシェーラ嬢に危険が及ぶかもしれない、ライブラに関わるのはそれほど“普通”じゃないことなんだ。関わらせたのは、僕たちだけれど」
「はい、分かっています。
……
でも僕から突っ込んで行ったんですよ、気にすることじゃ」
「いいや。けど、だからと言って妹さんに勝手に護衛をつけたことは申し訳なかった、せめてきみには事前に知らせておくべきだった。すまないね」
「そんな。秘密結社っすもん。秘密あってこそでしょ」
「ありがとう。早々バレたとあっちゃ秘密も何もないが。まーこれでクラウスのやつも気が楽になるだろう、堂々と守れる」
「隠し事向かないっすもんね、僕らのボスったら」
「
……
レオ」
真剣な低音に、隣の副官と目を合わせた。「僕らはミシェーラ嬢だけでなく、きみの幸せも守りたいと思ってる。心から」
「スティーブンさん」
「だから別に、足踏みしなくていいんだ。少しずつでも進むのがきみだろう。それに、きみは大切な人が一人増えたくらいで弱くなるやつじゃない。むしろその逆だと僕は思ってる。
……
アドルフと恋人になってもいいんだぞ」
「スティーブンさん」
「キスくらいしてみりゃいい。それで分かることもあるだろうさ。な? 自分の心と向き合え。そしたら百点をあげるよ」
「スティーブンさん
……
」
レオは妖精のようにとは言わないが、ソファの上で跳ね飛びながら叫んだ。
「だから俺そーいう好きじゃねーんですってば、ねえ! つっつきますよ! ねえってば!! 笑わんでください泣きますよ!」
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