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さもゆ
2024-12-10 00:53:45
85123文字
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【スティレオ】とりあえず、ワンモア
名前有りのモブがレオくんに迫るのをモブレオって言っていいならこれは八割くらいモブレオ。
残りの二割で何とかスティレオになります。
こんなに書いといてあれなんですけど、大したこと何も起こらないです。へへ。
2021.3.7 たまごのお粥pixiv投稿作品
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「めっちゃ好きなんやけど、きみのこと。恋人ンなってくれやん?」
「
……
えっ。ゲイだったんすか?」
口をついて出てしまってから、あ、と思って開いた口を引き結んだ。驚いたからとは言え、あまりに直球な質問だったかもしれない。でも、仕方ないんじゃないのか? 今まで仲の良い友人と思っていた男にいきなり告白されたら、まず相手の嗜好がどういうものかちょっと気になるというか、普通にびっくりしただけというか、素直な驚きというか、つまり
――
エッ告白された?
――
「お、俺の、エッ? 俺のどこに惚れる要素がっ?」
何拍も遅れてリアクションが深まっていくレオの前、ついさっき訛りの強い英語で恋人になってくれと言ってきた男アドルフは、真っ赤に染まった頬であはと笑った。そのまま夜明け色の瞳を細めてあははと笑い続けるので、びっくりしていたレオもつられて少し空気の塊が喉から飛び出してしまう。へへ、そんなふうに笑っていると、騒ぐんならその口引っぺがすぞと異界人の店主がカウンターの向こうで触腕を振って言った。本当にやりかねない。
このままこの古本屋で笑っているのは不味いと思ったんだろう、アドルフがやっと言葉を紡いだ。
「このあと時間ある? あとちょっとで昼休憩やから、良かったら話がしたい」
街角にひっそりと建つ寂れた古本屋を見つけたのは半年ほど前だった。
カツアゲに追われて逃げ惑っていたところ、たまたま飛び込んだ先がアドルフの勤務している古本屋で、彼は飛び込んできたレオを認めると何も訊かず言わず店のシャッターを閉め切った。(スイッチひとつで防犯・防呪・防魔を施す魔法のシャッターらしい。一見変哲もないシャッターだが、義眼で確認したら何重にも複雑な守りが重なった代物だった)
自分の後ろでガシャンと音を立てた全ての窓や出入り口に、レオはつい警戒して息を呑んだが、非常灯の明かりが眩しく点き始めたこの店内が古びたにおいのする狭い本屋であること、そして対峙した青年と異界人の店主が敵ではないことを悟って、ほっと吞んでいた息を吐き出した。だって彼らの第一声はこう。“本屋を侵す者には過剰なまでに防衛を” この店の標語らしい。カツアゲをしてくるような輩を自動ドアで招きたくなかったのだとしても、それが結果的にレオを助けてくれたのだ、感謝一辺倒だった。
こうなると、気難しい店主と気さくな店員にレオが懐くのも自然の摂理というもので、逆に、この街に珍しく「普通にいいやつ」であるレオに人間であるアドルフが絆されるのも無理からぬことであるので、約半年で彼らは知人を越え常連になり、休日には遊んだりもする友人にさえなった。アドルフは無類の本好きだ、紐育がHLになったと聞くや「おかしな本がいっぱいあるに違いない」と故郷を飛び出し越してきたと、すぐ赤くなる頬で話してくれた。そうして店主(レオには上手く発音できない名前をしている)が営む古本屋(『古本屋』という名前の古本屋である)に惹かれ住み込みで働いている。勤勉で真面目、たまに抜けているところがある。しかし、レオより四つ年上であることが、時折、優しさや面倒見の良さで発揮される。
端的に言うと、ものすごく「いいやつ」だった。
しかも、しかもだ。
顔もいい。
「ええと
……
」
レオも今日は夕方からのバイトだけだったのでお昼時は時間が有り余っていたし、というか有り余っていたから古本屋に行ったのである、まさかそこで親しくなった彼に告白をされるとは思わなかったが。告白をされなければ、「一緒に昼飯食いません?」とレオから声をかける予定すらあったのに、今となっては、アドルフから「昼飯がてら話しよ。どこがいい?」と誘われレオお馴染みのダイナーに来てしまっている。レオは早計だったか、と思った。知り合いがいるから安心するが、それと同じくらい緊張もしてしまう。
いつものカウンターではなく、テーブル席に座ると、注文を取りに来たビビアンが「アンタ達また一緒か。ザップとツェッドが寂しがってんじゃねーの、レオ」とからから笑うので、レオは変に慌てた。「い、いつも一緒ってわけじゃ」「そうかあ? 三人でよく食べに来るじゃん」「あっ」そっちか! 勝手な勘違いで勝手に気まずくなり、ま、また三人で食べに来ますよもちろん、どもって言いつつ注文を通してもらおうとメニューを言う。つまり、「レオナルドとアドルフが」またと言われるほど一緒にいるね、と言われたかと思ってしまった。
確かにその通りではあった。
よく一緒に遊ぶし、たまの休みの日には大体、アドルフのいる古本屋に赴き、彼に用意された二階の部屋でゲームをしたり本を読んだり、もしくはアドルフがレオの部屋に遊びに来るか、街中を散策しては談笑したり。
こういう言い方は良くないかもしれないが、人間のお友だちができたんですよ、とライブラの面々にも嬉しくなってよく話していた。この半年、いい加減、話しを聞かされていた側もうんざりしていたかもしれない。お喋りが好きというのもあるが、レオは職場の上司や先輩や後輩に、人懐こく、その日あったことやちょっとした悩みを(一人暮らしにまだ慣れきっていなかったころは、上司二人に、どーやったらフライパンで焼く以外の料理ができるか、お菓子をご飯代わりにするのを止められるか、そもそも健康的な食生活って? など、主に食生活について訊いていた)(悩みはバイト先での人間関係や、義眼、妹のことなど様々)(彼らはそれを訊いて、最初のころはレオの「てらいなく自分のことを話す」人懐こさになぜか戸惑っていたようだが、最近じゃ「あの悩みはどうなった?」と向こうから訊いてきてくれるので、レオは地味に嬉しいと思っている)
――
たくさん話してきたが、最近じゃ雑談の内容はもっぱらアドルフなのだ。彼が教えてくれた本が面白かったこと、彼の本以外の趣味スムージー作りにつき合わされたこと、彼の故郷は北欧で訛りが強いのはそのせいなこと、故郷には両親と姉が一人、妹が二人に弟が一人と大家族がいること。レオを通して職場仲間たちもアドルフのことを認めているくらいで
……
。
そんな大変仲の良い友人に告白されてしまった。
いいや、待ってくれ。レオはぎくりとする。もしかして、俺が気づいてなかっただけで、仲の良さはそういう意味を含まされていたのではないか? レオのことが好き故の、下心。レオも正真正銘の男である、下心ありきの優しさや「もしかしたら」を狙って遊びや食事に誘う心をよく理解できた。(理解できるとは言え、自分がいざその行動を取ろうとすると確実に上手くいかない。なので好きな子ができたことがあっても未だにキスひとつしたことがなかった)
「
……
食べやんの? 冷めるよ」
もぐもぐ、いつの間にか来ていたミートソーススパを頬張りながらアドルフが言った。
「た、食べる。イタダキマス」
「あ。イタダキマス」
ザップ経由で教えてもらった日本式挨拶を交わし、レオもスパゲッティに手をつけた。フォークでくるくる巻いて口に運ぶ。いつもながら美味しいし、なんの肉を使っているか知らないが大きめで食べ応えがある。噛んでいる間は喋らなくて済みそうだ、そんな卑怯なことも今だけは思った。
しかし「話がしたい」と言った本人がそうさせるわけもなく、ごくん、最初の一口目を飲み込んだアドルフはあっけなく口を開く。もちろん、次の一口を食べるためではない。
「緊張するよな。分かる。俺も。っつか、好きっつってきた相手にほいほい着いてくんのは、どーかと思うけど
……
」
もぐり。眉根を寄せる。
「分かるで。だって、俺たちは友だちやし。今さら男女みたいな警戒を持つのも難しい。特にきみは優しいし」
もぐりもぐり。
「なんかのドッキリとか思っとるやろ? 頭を打ったか、呪いか、実験とかでも。
……
ゲイやったんかって訊いたよな。ごめんやけど、それは俺にも分からん」
ごくん。口の中のスパゲティがなくなる。「
……
分からん?」レオは首を傾げた。
「うん」アドルフは言葉を選ぶように、慎重に頷く。「ゲイとか、レズビアンとか、アセクシュアルとか、色々性別があるやん。外では、まだまだそーいう差別があって、でも俺は
……
そんなん何にも気にならんというか。生きていく上で男女の区別は大事やん、トイレとか更衣室とかさ。俺は身体上が男やし、俺にとっては性別はそれだけの括りというか
……
つまり、誰が誰を好きになろうが、何でもええと思っとる。心があるんやから、生殖機能を満たす男女の愛情が全てとは到底思えやん」
「それは、そうだね」
「それと同じくらい、性別関係なく、誰に好きって言われて嫌悪を抱くかどうかも、自由やん」
「うん」
「やから、レオも全然、気持ち悪がってくれてええんやけど
……
俺はきみがすげえ好きやし、その、性欲もあるタイプの人間やから、あわよくばそーいうことしたいなって思ってしまう」
ごくり。
ミートソースの味のする唾を飲み込んだ。
アドルフはその上下した喉仏を、良くないふうに思ったのだろう、視線をフォークを持ったままの手元に落とす。「やっぱ、怖いよな。いきなりこんなん言われたら、そりゃ。存分に振ってくれて構わんから
……
」
「ちょ、ちょっと、待ってよ。ええと」レオは彼の中で話が完結しそうな予感に、慌てて口を開いた。「ご、ごめん。こんなん初めてだし、だって女の子ともこーいう感じになったことないし、ちょっと、あんまり頭追いついてないんすけど。ええと、嫌悪は、なかった。なかったです。びっくりしただけで」
「ほんと?」
「うん。安心してほしい。恋愛対象に俺が入ってたことにただひたすら驚愕してるだけで
……
」
「レオはいいやつだよ」アドルフが手元からまたレオに視線を戻して言う。「きみはさ、まずひとの内面を見てくれるやろ。どんなに信じられやんことでも、自分の意見と違うことでも、それをそれとして一旦受け止める。そんなこと、中々できることっちゃう。敵意がないんかな。それで、楽しいことに全力だ。俺が勧めた本だって、読むの遅いよって言っとったくせに、好きな場面はすぐに報告してくれた」
「あ、あれはアドルフさんのオススメが良かったからで」
「まだある。なんかこれ言うと益々あれなんやけど
……
そーやって楽しそうにしとる時の、その、顔がかわいい。笑顔が。ほっそい目と、でっかい口で感情いっぱいに表してさ。気づいとる? きみの口って見てて飽きやんくらい感情豊かで
……
。たまに独特に口悪くなるんも愛嬌に思えるくらい。それくらい、俺はきみに、べた惚れなんよ」
北欧の、雪国育ちの真白の頬が、ミートソース以上に血潮の色に染まっている。
彼は熱を持った顔をごしごし拭うと、「カッコつかん。見やんといて」と俯いた。彼はすぐ赤くなる肌をよく恥ずかしがっていた。それを微笑ましく思うことくらい、レオにもあったのだ。アドルフという人間は本当の本当にレオにとって離れ難い友人だった。
「お、俺」
たぶん、自分の頬も耳朶も、それなりに赤くなっている。人間として好きな相手に内面や外見を好きだと言われるのは、かなり嬉しい。親愛なるボス、クラウスに褒められた時だってうなじが熱くなる思いがした。
それと同じなのだ。
レオはアドルフのことを恋愛対象としては見ていない。
好きだが、それだけだ。それ以上の好きがない。肩は抱けるし手も繋げるだろう。けれど額同士を寄せることも、ましてや裸で抱き締めあうことなど、ひとつも、想像できない
――
。
「俺は、女の子が、抱きたい」
言ってしまってから、あ、また直截的に言い過ぎた、と唇を引き結んだ。
この街はあらゆる境界が曖昧で、多種多様だ。
性に奔放なザップ・レンフロがいい例で、恋愛におけるルールすら何通りもの正誤がある。全て正しく、全て間違い。それ故に、自分の正義や規則をしっかり持たなければならない。レオにとって恋愛におけるそれは、ことごとく女の子が対象だった。つまりノーマルなのだ。キスをするなら女の子がいいし、もしこの先童貞をなくすなら、貰ってくれる子も、自分が好きになった女の子がいい。悲しいほど、そういうチャンスがないけれど、それに妹のことだってある。ミシェーラには「私が幸せになるって言ったら幸せになるの。お兄ちゃんは違うの? 幸せにならなかったら、車椅子で轢いてやるんだから」と過激なことを言われているから、ここに来た時よりも自己犠牲的ネガティブは薄くなったが、今は義眼のほかにも恋愛に現は抜かせないだろうという理由があるのだ。誰にも言えない。
秘密結社ライブラに所属している。他方から恨みを買われ、情報の奪い合いが界隈では日常だ。その組織に、しかも吸血鬼からも恨みを買いかねない義眼を保有している自分が所属している。
誰かを好きになって、好かれて、それでもしその人を傷つける羽目になったら。
だって俺は、自分の身で手いっぱいの、誰も傷つけたくない(武器や薬が自己防衛のためにすぐ手に入るこの街で、「傷つけない」選択肢をあえて取るのは、強みだと戦う人たちから言われはしたが。それでも現実的に)圧倒的弱者なんだ。家族に友人に仲間、それだけで今はいい。それだけ、せめて、これ以上悪くならないよう、守れるよう、何かの助けになれれば。
だからアドルフの気持ちには、応えられない。
「じゃあ、」
アドルフは真っ赤な顔で言った。
「俺が、きみを抱くんは?」
レオは義眼を見開きそうになった。
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