さもゆ
2024-12-10 00:36:07
15199文字
Public 狂戦士
 

【セルファル】ツイログ

以前投稿したものも一緒くたにしました。本当に好きです、この主従。41巻もいつか分かりませんがすごく楽しみです。
1…松明を怖がる従者と察する主。
2…従者は自分のものなのか疑うようになった主。
3…従者の傷の手当てを主がする話。
4…ちょっとした悪夢を見た従者。
5…幼少主従。
6…眠れない魔女さんと従者。
7…従者の涙と主。
8…海馬号で一時的に声の出なくなった従者と不安がる主の話。

2020.12.28 たまごのお粥pixiv投稿作品 (原文ママ)


従者の涙と主。

なみだ




 くすんだ金色のまつ毛が縁取る糸目から、ほろりと綺麗な水滴が落ちたように見えて、ファルネーゼはぎょっといつかの彼のように洗いかけの鍋を川へ取り落とした。
 おっと、と落としたファルネーゼではなくセルピコが流れつつあった鍋を川へ片足突っ込んで拾い上げる。その腕をファルネーゼはばしゃりと掴んだ。ばしゃり、は、彼女の足も川へ蹴り入った音である。セルピコが糸目を跳ね上げた。「ファルネーゼ様! 川は冷た」「お前、泣いているの」「は?」
「泣いていたの、お前。さっき。目をよく見せてご覧なさい」
 そうして頬を掴んだ両手で首を下に傾けさせたファルネーゼの、じっくりとした視線を、セルピコは大人しく受け止めた。彼を従わせ有無を言わせない圧力じみた紺碧色の眼差しは、なんだかひどく久しぶりで、心のどこかがむずりと安心したことに多少の嫌気がさしてしまう。めっきり、こういう瞳をしなくなった彼女を、彼は受け入れているはずだったのだ。
 頬を掴んでいた手が下瞼をなぞり、左の眦をそっと指の腹で確かめている。それから大きな瞳が訝しげに眇められた。「泣いていたように……見えたのだけれど」不安そうに呟かれ、そうですねぇ、セルピコはのんびり言った。「さっき、冷たい風が吹いたでしょう。それが目に染みて。ちょっと泣いてましたよ」
 ファルネーゼは寸の間ぽかんと無防備な表情を浮かべ、すぐに眉間に皺を寄せた。その表情の変化を間近で見ていたセルピコはあらと思った。何か怒らせるようなことを言っただろうか。
「セルピコ、お前……それは泣いているとは言いません」
「え、そうですか?」もしかしたら何やら不機嫌な彼女にはとぼけているように映るかもしれない、思ったところで本当に何も分からなかったのでそのまま言い直してみる。「じゃあ、目から水が出てました。一滴ほど」
 益々不機嫌そうな顔つきをされる。
「私はお前が泣いていると思って……
 頬に当てられた、少しかさついて細い手が、頬骨を押してくる。
「慌てて……そう、慌てたのに」
「慌てたんですか。私が泣いていると思って?」確かに、あれは慌てていたのだろう。彼の手の先で、彼女が落とした鍋がぷらぷら揺れている。
「だって、」ファルネーゼは、一滴だけ流れた涙を辿るように頬を指先で辿った。珍しいものか、何か貴重なものに触れるような手つきだ。「泣いているところを、見たことがないんだもの。だから、咄嗟に……」そばにいないとと、思ったの。
 後半は囁きに近い言葉だった。小さな子どものような言い方だった。
 セルピコは先ほどまで嫌気がさしていた心が、本来なだらかな胸壁をざらりと撫でてくるのを感じた。少し痛くて、気持ちが悪くて、むやみやたらに温かくて、胸の内側から喉元までを丸い硝子玉が転がってくるような心地だ。ころり、それを吐き出す。
「ぼく、いまちょっと、泣きそうです」
 なぜ! ファルネーゼが驚いて冷たい水面をばしゃりと鳴らした。