さもゆ
2024-12-10 00:36:07
15199文字
Public 狂戦士
 

【セルファル】ツイログ

以前投稿したものも一緒くたにしました。本当に好きです、この主従。41巻もいつか分かりませんがすごく楽しみです。
1…松明を怖がる従者と察する主。
2…従者は自分のものなのか疑うようになった主。
3…従者の傷の手当てを主がする話。
4…ちょっとした悪夢を見た従者。
5…幼少主従。
6…眠れない魔女さんと従者。
7…従者の涙と主。
8…海馬号で一時的に声の出なくなった従者と不安がる主の話。

2020.12.28 たまごのお粥pixiv投稿作品 (原文ママ)


シールケ加入前、従者の傷の手当を主にしてほしい。

手当て




「や……ッと夜が明けた……!!」
 そう息を吐き出しきって、子どもがバタリ、地面に倒れた。吐き出しきった空気を吸い戻すように小さく勇敢な胸を膨らませ、またゆっくりと萎ませていく。数秒と経たずに規則正しい寝息が朝焼けに滲んでいき、その上を飛び回っていた妖精もまた彼の上に降り立ち寝そべった。おやすみドロピー、おやすみ諸君、我々は今夜も無事にむにゃ……駄目だオレもすっごく眠たいよみんなも休んだ方がいいんむにゃむにゃ、……ぐう。淡く燐光を放っていた羽がぱたりと折り畳まれる。小さな子どもと小さな妖精はそのまま眠ってしまったらしかった。きっと、夢も見ずに眠れるだろう、大剣を地面に下ろした大男は思った。何せ、たった先ほどまで悪夢の真っ只中にいたのだから。
 彼は、未だ火が絶えていない焚き火近くに彼の一等大切な存在が大人しく守役に守られているのを確認し、それから初めて、安堵の溜め息を吐き出した。「……しばらく休むか。さすがに疲れた」
「今夜は……というか昨夜……? はまた一段と苛烈でしたねぇ」のんびり、収めたレイピアのように細い男が言った。「休むにしても、先に手当をした方がいいでしょうね。イシドロさん、怪我してます?」
「さあな。見たとこ、擦り傷くらいじゃねえか」
「タフだなァ」まーそれなら後で薬塗ってもらえばいいですかね、起こすのも忍びないし、言った彼は大男を一瞥して薬と包帯貰って来ますよと焚き火に足を向けた。彼を焚き火に──彼が守っている、どうにも複雑な事情がありそうな褐色の彼女に──近づけさせない方がいいだろうという配慮だった。彼は今夜の戦いで彼女を守ろうとし、なぜか暴れた彼女のおかげで魔のものから一撃を食らっている。傷は浅くはないはずだ。
 しかし、けれど、その配慮は決して大男や褐色の彼女を案じたための気遣いではなく、むしろ彼は従者なので彼の主を慮ってのものだった。
「ファルネーゼ様」
 焚き火の炎を絶やさぬよう番をしていた彼の主は、傍らで丸くなって寝ている彼女に毛布をかけてやりながら、セルピコ、と彼を見上げた。「夜明けが来たら、すぐに寝てしまったの。きっと、朝が安全だということを、知っているのね」「そのようですね。そうやって旅をしてきたんでしょう、お二方は」見ると、毛布を被った彼女はセルピコの主の手を薄目で探り、手繰り寄せると猫のように擦り寄っていた。すっかり、懐かれている。
……こうされると、夜が明けたのを実感します」主が安心して微笑んだ。
 この空間を、どうやら壊したくはなかったらしかった。セルピコは他人事のように思う。いいや、違う。これは主観。だって、キャスカさんが眠らないと、ファルネーゼ様も眠らないから……「ファルネーゼ様ももうお休みください。しばらくしてから、また出発です」「お前は?」「私は傷の手当を」「ああ…………離れた場所にいる大男にやった目が、数秒してセルピコへと戻る。その数秒で風のようにざわめいた感情を気取られることなく糸目の奥に隠しながら、彼は薬袋を手に取った。「では、私はこれで」踵を返した彼の手を彼女は取った。
「セルピコ。待ちなさい」
「はい」
「その袋を貸して」
 従者は主に逆らわない。薬や包帯の入った袋を渡すと、主は荷物を漁って清潔な布と水筒を取り出し、布を濡らし始める。
 その様子をぼうっと見ていた彼の頬に、冷たい刺激が襲いかかった。「イテッ」「じ、じっとなさい」ファルネーゼだった。ひどく真剣な眼差しと手つきでセルピコの頬を濡らした布で拭っている。
……何してるんですか?」
 彼は自分でも驚くほど間抜けな声が出たな、と思った。
「手当です。お前、気づいていなかったの? 頬に傷がありますよ。血が出ている」
「はあ。あー、そういえば、斬られた、ようなァ……たぶん」
「お前も大概、鈍いわね」
「はあ」セルピコはまた気の抜けた返事をした。お前“も”が、誰と比べられたかは、考えたくはなかった。「いた、痛いです。ファルネーゼ様」「嘘おっしゃい」嘘では、ないのだけれど。嘘っぽくはある。ファルネーゼ様はぼくが痛みに強いことを知っている。
 拭き終えると、薬を指につけ、その指先がそっとセルピコの頬を撫でていく。彼は糸目のまつ毛を震わし、同じ金色のまつ毛をした彼女の碧い瞳を見つめた。
 朝焼けに照らされた瞳は何より美しく、そして眩しかった。益々糸目になった彼は、なんだかとても、諦めて、満たされた心地になりながら、名残惜しく言った。
……ファルネーゼ様。それ、火傷の薬です」
「あ。……ごめんなさい」
 いいえ、セルピコは笑い混じりの息を吐き出す。「火に強くなれそうです。……ありがとうございます、ファルネーゼ様」そうして彼も、ようやく安堵を得たのだった。