さもゆ
2024-12-10 00:36:07
15199文字
Public 狂戦士
 

【セルファル】ツイログ

以前投稿したものも一緒くたにしました。本当に好きです、この主従。41巻もいつか分かりませんがすごく楽しみです。
1…松明を怖がる従者と察する主。
2…従者は自分のものなのか疑うようになった主。
3…従者の傷の手当てを主がする話。
4…ちょっとした悪夢を見た従者。
5…幼少主従。
6…眠れない魔女さんと従者。
7…従者の涙と主。
8…海馬号で一時的に声の出なくなった従者と不安がる主の話。

2020.12.28 たまごのお粥pixiv投稿作品 (原文ママ)


眠れないシールケとひっそり(主のために)サポートする従者。

密やかな守人




 火が爆ぜている。
 ぱちりぱちりと薪に食いついては、目に見えない小さな炎の妖精たちが手を取り合って踊っている。
 シールケは目が覚めた。
 目が覚めたというよりは、ぱちりと薪が燃える音とともに開いた瞼の瞳が、閉じてるんだか目の前のものをきちんと映しているんだか分からなくて、そのままじっと寝そべっていた。火が燃えている。夜の帳はその周りに地面までぴったり降りていて、重く影をつくっている。深夜だ。
 悪夢を見ていた。
 悪い夢だったら、どんなに良かったか。
 それは既に起こっていて、悲しくて、つらくて、不甲斐なくて、どうしようもなくて、シールケを苦しくさせる。
 お師匠さま。
 心の中でそっと呼びかけ、そしてシールケは静かに立ち上がろうとして、自分を抱き込むようにして眠っているファルネーゼの腕から抜け出た。身を起こしたシールケの隣では、キャスカが丸まって眠っている。そちらにも気をつかって、慎重に立ち上がると、ようやくほっと息を吐いた。自分を気遣って真ん中に挟んで眠っている彼女たちを、起こしたくはなかったのだ。
 焚き火の周りでは、みんな眠っていた。イシドロとパックは似たような格好でいびきをかいているし、イバレラは外した魔女帽子の縁で健やかな寝息を立てているし、セルピコも一行と付かず離れずの位置で横になっている。ガッツはみんなを見渡せる位置で目を閉じていた。少なくとも、シールケには眠っているように見えた。
 しばらくそこで突っ立ち、やがてまた静かにシールケは動いた。どこかに行こうという考えはなかったけれど、このまま再び寝ようという考えはもっとなかった。
 それに、そろそろこぼれ落ちてしまいそうな涙が、焚き火に照らされてすぐ乾いてしまうのが嫌だった。誰かをおもって泣く、ほんの僅かな時間が欲しい。
 シールケは明かりから離れた。

 しばらく夜闇で泣いていると、ふわりと足音が聞こえた。優しい風の匂いのする、気遣わしげな足音だ。
 膝に埋めていた顔を上げると、予想通りの人物がいた。セルピコだ。風の妖精に気に入られている、細身の若者。ファルネーゼの従者。
 料理ができて、裁縫もできて、剣の腕の立つ、みんなから一歩離れた場所で佇んでいる人。
 生粋の従者、だと思う。ファルネーゼの。でも、それだけなのかはよく分からなかった。
「シールケさん。こんなところにいましたか」
 柔らかな声音で話しかけられた今だって、糸目の奥で何を考えているのか分からない。ただ、なんとなく、シールケが起きた時、本当はガッツのように眠っているふうに見えただけなのかもしれない、と思った。
「ごめんなさいセルピコさん。起こしてしまいましたか」
「いいえ。私こそ、無粋な真似を」
 セルピコは目の前にしゃがみこむと、濡れた布を手渡してくれた。「朝までに、腫れ、引くといいんですけど。あまり擦ってはいけませんよ」見つかったら、からかってくる子がいるかもしれませんからねえ、彼がのんびり言った。
 ありがとうございます、と目を冷やす。彼の気遣いは、ファルネーゼを一番にして、あとは平等に並んでいるように思う。けれども、まだ一緒に旅をした時間が短いとは言え、時たま彼が子どもに接する兄のような存在に見えることがあった。兄のような、とは、だってシールケにはきょうだいなどいなかったから、想像で見るしかない。
「本当にすみません。ほかの皆さんは? 起こしちゃったでしょうか……
「ちっとも。まあ、ガッツさんは分かりませんけど」
「起きている気がします」
「起きているでしょうねえ。ま、気絶させたってどれだけ目を瞑っていられるか怪しい人です、気にしちゃ駄目ですよ」
「た、確かに」
「戻りますか?」
「はい」
「では」
 流れるような手馴れた仕草で、セルピコはシールケの手を取って立ち上がらせると、泣きすぎでふらついた体をさりげなく支えて誘導していく。またありがとうございますと口にする前に、一人で歩けることを確認し、たちまち従者の位置についたセルピコが、シールケさんと名前を呼んだ。「はい。なんでしょう」
「眠る時に、手を繋ぐと良いですよ」
「え?」
「ファルネーゼ様の。キャスカさんとも」
「手を繋ぐんですか?」
「そうしたら、ぐっすりです。嵐の音も聞こえないし、悪夢も見ない」
……まじないですか」
「おまじないです」
 魔女さんに言うことじゃ、ないかもしれませんけど、彼はそう言ってふわりと笑った。

 寝床に戻ると、ファルネーゼとキャスカが空いた真ん中に身を寄せ合って眠っていた。私はどちらかの端で眠った方がいいかもしれない、シールケが思うと、まさか声に出ていたわけではないのに、ファルネーゼが身じろいで場所をあけた。「せんせい」とろりと眠たげな声で真ん中に誘われる。申し訳なくなりながら、シールケはそこに潜り込んだ。体はすっかり冷えていたようで、ファルネーゼの残った体温が有り難かった。
「すみません」
「いいえ」
 ぴとりと両側に、キャスカとファルネーゼの温もりがやってくる。シールケはぱちりと瞬きをした。
「ねむれないのですか」
「少し」正直に答えてから、先ほど言われたことを密やかに告げてみる。「セルピコさんがね、あの、手を繋げば眠れると……
「まあ」ファルネーゼは嬉しそうに笑った。
 シールケの小さな片手をやわやわと握り込んで、どこか誇らしげに、眠たく言う。「セルピコの言う通りです。手をにぎって、そしたら、なにも……こわくないのですよ……」むにゃむにゃ、彼女は穏やかな眠りに抱かれたようだった。手は握ったまま。
 シールケは反対側の顔の近くにあったキャスカの手に指を置くと、きゅうと握り込まれたので、同じくらいの強さでちょっとだけ握り返して、やっと腫れぼったい瞼を閉ざした。
 よく、眠れそうだった。