mishiadd
2024-12-09 00:19:51
16040文字
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美食家饗宴美味礼讃

柳伊。DLC2でセイバーが席を外した途端に発生する宗矩殿と伊織殿のアダルト空間の「90~00年代BL風味BL未満少女漫画」の雰囲気が大好きなので…剣陣営は絶対不動の運命だけど成立してません(セコム気味)


《肉料理》ヴィアンド

相手が怪異ならばともかく、町中で襲ってきたのがごろつきや力士崩れの盗賊だった場合、伊織はまず「殺すな」とセイバーに釘を刺す。近頃ではあまりにも言われ過ぎて伊織が「こ」と口にした瞬間に「殺すなというのであろう、わかっておる」とセイバーが彼の言葉を続けることが殆どであったし、先日では宗矩が伊織に「殺すな」と言われたのを自分に言われたものと勘違いして「(殺さぬよう)やってみる!」などと非常によい返事をしてしまった。

それにしたって――とセイバーはふと思う。伊織が自分に「殺すな」などと強い言葉を使うことはとっくに慣れっこだが、仮にも逸れの英霊相手に「殺すな」などとまるで飼い犬に命令するような口調で――別にセイバーが飼い犬であるということでは断じてない――目上の者に対する礼儀をまったく欠いた口調で怒鳴りつけるのは、ひどく珍しいことではないかと思う。

「きみ、イオリに嫌われておるのではないか」

たまたま出くわした怪異を三人がかりで一掃し、伊織が死骸から金目の物を拾い上げているのを待つ間のことだった。
飄々とした笑顔を浮かべて隣に立っている宗矩に唐突にそう声を掛けたのは、セイバーの中の彼に対する悪感情がまったく原因ではない、ということはなかった。

「イオリにギアスとかいう大層な術まで掛けられているであろう。イオリにまったく信用されておらぬのだ。――あとになって思えば、イオリがこうしてきみを敢えて傍に置いたのはきみがまた好き勝手に振る舞わないよう監視するためだったのかもしれぬ。
……まったく、私としたことが途中からきみのその蛇のような抜け目のない狡猾さにまんまと騙されて、もしかしたらきみはいいやつなのかもしれぬなどと信じてしまったのだから情けない。きみに関する見解は残念ながらイオリの勝ちだ。――だからもう、私は二度ときみには騙されぬぞ。イオリを裏切っても私がきみを座に還す。イオリに妙なことをしても私がきみを座に還す」
「佳い、佳い」

満足げに目を細めて宗矩がセイバーを見る。それから、怪異の死骸の中でしゃがみ込んでいる伊織の背中を眺めて言った。

「伊織殿が拙者を信用しておらぬから、拙者は伊織殿に嫌われている――と」
「ん……

そう改めて言葉にされると、自分がどれほど意地の悪い言の葉をこの男に投げかけたのかを突きつけられるようで、いくら相手が宗矩といえどもセイバーは居心地が悪くなる。ばつの悪そうに目を逸らすと、「うむうむ」と宗矩が深く頷いた。

「貴殿はなにも間違ったことは言っていない。常なればそういうものだ」
「うん?」
「信用できない相手をわざわざ好いてやる人間は稀である。己を窮地に立たせる可能性のある相手――とは、すなわち潜在的にはであるのだから。『信用できる敵』はいたとしても、その逆は稀であろう。信用が置けず、いつ自分を危機に陥れるかわからぬ相手を好きになれる――そういう者がいるのだとしたら、その程度の相手にそもそもどうこうされるわけがないという絶対的自信を持った大器の強者か」

ふふ、と宗矩が笑う。

「他者を評価するのに自分の身を勘定に入れられない、なにかがずれて壊れてしまっている人間だけであろうなあ」



――等しく人に興味があり、等しく人に興味がない――自分自身の身も含めて。



「その者の『剣』さえ美しければその他のことは一切がどうでもよい――つくづく、残酷なひとよ」

その言葉に、なぜかセイバーはひどい不安を覚え――かぶりを左右に振って、その不安を打ち消した。

めぼしいものはだいたい拾い終えたのか、ちょうど伊織が戻ってくる。拾い物についた穢れを懐紙でひとつひとつ丁寧に拭きとっては懐に収める伊織に、セイバーがぽそりと尋ねた。

「イオリ。――きみは、ヤギュウのことは嫌いか?」

「なぜ唐突にそんなことを訊くのだ」と言いたげな顔で、伊織が軽く目を瞠る。ちらり、と宗矩を見遣ると、柔和な笑みを浮かべたままの当人に「どうぞ」と答えを促された。
質問の意図もわからぬまま、伊織が思ったままを口にする。

「嫌い――だと思ったことは、特にない。そのように考えたことはない。……信用は、確かにしていないかもしれんが」
……そうか」

ぽつりと呟いたセイバーの声は――まるで、その質問への回答以上の回答を耳にして、ひどく傷ついているとでもいうようだった。

訝しげにセイバーの姿を観察したあと、「ああでも」と伊織が付け足す。穏やかな笑みを浮かべている宗矩に向き直って、言った。

「貴殿が、もしこの空腹を一時でも満たしてくれるというのならば。――己の腹を満たしてくれる人間のことは、好き、かもしれんな?」
「はは。――伊織殿」

うっすらと開かれた宗矩の瞳が剣呑な光を宿す。その目を満足げに眺め、伊織がひどく掠れた低い声で言った。

「ああ、俺は腹が減ったな、宗矩殿。――飢えて飢えて、今にも死んでしまいそう、だ」
……そうなのか、イオリ?」

気遣わしげな声に、我に返った伊織が思わずセイバーを見下ろす。無垢な夕陽色の瞳が、ただ心配そうに伊織を見ていた。

「きみがそんなことを言うのは珍しい。そんなに腹が減ったのなら、どこかで何か食べよう、イオリ。……具合が悪いということではないな?」
「ああ、大丈夫だ。ただ少し――小腹が空いただけだよ。そうだな、蕎麦でも食べようか。……宗矩殿、悪いが俺達は行く」
「では、今日はこのあたりで。拙者も、助之進殿と上野の水茶屋にでも出掛けることとしよう」

そう言って別れて、真逆の方向へとそれぞれが歩んでいく。数十歩も離れたところで――宗矩と伊織がそれぞれ、はたと足を止める。互いに、振り返ることもなく――くく、と喉の奥で嗤った。