mishiadd
2024-12-09 00:19:51
16040文字
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美食家饗宴美味礼讃

柳伊。DLC2でセイバーが席を外した途端に発生する宗矩殿と伊織殿のアダルト空間の「90~00年代BL風味BL未満少女漫画」の雰囲気が大好きなので…剣陣営は絶対不動の運命だけど成立してません(セコム気味)

《食前酒》アペリティフ

そもそも、「どうにも掴みどころのない御仁だ」と思ったからこそ、傍に置いてみようなどと酔狂なことを伊織は思ったのだった。

合理的で、冷静沈着で、慎重な手段を好むのが伊織だった。時たま、彼よりは余程猪突猛進――などと本人の前で言ったなら、かの英霊の死因を思えば「皮肉か」などと怒られるのだろうが――な彼のサーヴァントですら思わず真顔で諌め始めてしまうような大胆な策をとることもあるが、それもあくまでも合理性の上での判断だった。だから、善悪もわからない、どちらかといえば恐らく悪寄りの、およそ信用ならないし今だって別に微塵も信用していない相手――を、わざわざ傍に置くという判断は、たとえ「江戸の平穏を護るため」という彼の建前がまったくの嘘ではなかったとしても、伊織当人からしてみても単に「魔が差した」としか言えなかった。

それにしたって、あの剣は面白いのだ。

掴みどころがないからこそ、その輪郭を掴みたい。誰も彼もを斬る為に――という彼の生命の目的は、きっとあのような者を斬る為にある。目に映るすべての人々をことごとく理解して、その輪郭を掴み、斬る。そんな夢想を日々繰り返していたとしても――たとえば助之進のようにあっけらかんと隠し事もなく日向の中で生きている者の輪郭は、好ましくあったとしても彼の『理解する』本能を満足させることはない。その先にある『斬る』夢想が、彼の『誰も彼もを斬る』使命の成就に寄与することはない。ありていに言えば、歯ごたえがない

儀が始まって以来、伊織の舌は肥えてしまった。逸れの英霊たち、敵陣営のサーヴァントたち、そして何より彼自身が喚んだサーヴァント――決して癒されることはないだろうと思っていた彼の本能の空腹を抱えながら、わずかな雨水で飢えを誤魔化していたような日々が、突然豪華絢爛の馳走が並ぶ飽食の日々に様変わりしたのだ。美味なる食事に日々耽溺し、より上質のものを知ってしまった今――分不相応にも伊織が、一人前の美食家グルマンなどに育ってしまったとしても――己の好き嫌いを目配せで意思表示して、殊更に気に入ったものにしか箸をつけないような、生意気な贅沢者に育ってしまったとしても――それは、育てた方が悪い。そうだろう?

貪食に耽る美食家の伊織には、あの水面に映る月のような剣は御馳走に見えた。かの男の正体を知る前も、知った後も、斬って、何の因果か斬った筈の男が再びひょっこり現れたときすらも、伊織の動機は一貫して変わらない。

――この男の剣は、面白い。

斬ったといっても師匠とふたりがかりだった。まだ攻略しきったとは言い難い。――それに、この男の剣をもし自分が学んだなら、また一歩あの月のような剣に近づけるだろう。



この男にはまだまだ食いでがある。



武士階級として育てられた自分には、とても許されない下品な仕草であるので。――伊織はそっと大きな手で上品な口許を隠して、唇を舌先で湿すように、小さく舌なめずりをした。






美食家饗宴美味礼讃