僕は覚悟を決め大穴も大穴、単勝148倍、黒鹿毛6歳のベテラン牡馬に残額62,000円全てをかけた。ダッシュで投票を済ませて、人でぎゅうぎゅうの競技場に向かう。出足の遅れにも関わらず、なぜか(なぜか)人ごみをすり抜けるのが異様に得意な狂児のおかげで、奇跡的に最前列までたどり着いた。
彼が作ったスペース、というか狂児の脇の下から顔をずぼっと出した僕は、目の前の景色に感嘆のため息をついた。
「すご 特等席や」
「やったやん」
静かなざわめきの裏側にたちこめる熱気に圧倒されながらゲートインを見守る。ファンファーレにあわせた渦のような手拍子にびくりとし、ゲートが開くのを固唾を飲んで見守る。
そしてついにゲートが開いた。
蹄音が大きく響いたのも束の間、歓声が爆発してそれを完全に飲み込む。僕ももはやびっくりしている余裕はなく、ただ目を凝らして、赤いゼッケンをつけた僕の馬の姿を追いかける。しかし出走で出遅れた彼は気づけば最後方、「嘘やん」と頭を抱える僕の肩を狂児が軽く叩く。「聡実くん、まだまだ」
「うう
……」
そうやった。僕の馬は末脚が売りだ。大器晩成。僕の競馬と一緒。終わりよければ全て良しや。
最後の直線に入ると、狂児の言葉通り、黒い馬体は突如ギアを上げる。
「っ
……」
僕は阪神戦よりデカい怒号の一部となった。「まくれ〜〜〜ッッッッ!!!!」
「まくれ
……」
いつ覚えたんや聡実くんキミはとかいいながら覗き込んでくる狂児の相手はできない。バクバクの心臓が口から飛び出そうだし頭が痺れておかしなりそう、思わず狂児の手を握る。「きょーじ、え、ほ、ほほほほほんまにいけるんちゃう
……?」
「マジか」
僕の馬は猛然と前方の馬たちに追いつき追い抜き引っこ抜き、ゴールはもう目前、トップ集団との差はほとんどない。が
――
ゴール手前わずか数十メートルのところで、彼の脚が突然鈍った。
「ぐ」
目の前を加速した別の馬が駆け抜ける。
ごおっと上がる砂埃の後、僕の馬がゴールを抜けたのは5番目だった。
「
……」
鳴り止まない歓声と舞い踊る馬券のなか、僕は呆然と立ち尽す。
さっきまでドコドコ踊っていた心臓は僕を置いて先に家に帰った。
「
……負けた
……」
「惜しかったな〜」
狂児はちょっと笑っている。僕は八つ当たりで彼の尻を叩いた。
「ちょ、俺の尻大事にして」
「うっさいわ」
「めっちゃいいレースやったやん」
「せやけど
……何わろてんねん」
「ンフッ、聡実くんに勝ったから。あイタっ」
帰る😒