🎄さときょ5億チャレンジ🎄

賢者の贈り物パターンを回避してさときょに5億掴ませよう!!!
聡狂オンラインイベント「聡いキミに狂わされ2」の展示でした
2024/12/8


 クリスマスが近い。都会の百貨店はどこもかしこもきらきらぴかぴか、不景気などどこ吹く風で訪れる客を浮足立たせている。
 不景気などとか言ってしまったが、生まれた時から大体毎年景気が悪かった僕にとっては、目の前の光景の何がどれくらい過去よりも悪くなっているのかピンと来ない。僕のクリスマスプレゼント選定に影響を及ぼしているのは不景気ではない。もう3回は百貨店の全部のフロアを踏破したのに、僕はまだ答えをまだ出せていない。狂児へのクリスマスプレゼントをどうするか。
 今年でやっと入社2年目の僕はペーペーの新人だ。とある事業会社の法務部門に入ったきっかけは公務員試験に落ちたからだが、未練があればチャレンジを続ければいいし、民間が向いていればそれでもいいと思っていた。運よく今の業界の給与水準が高かったのもよかった。いや、それを理由にその業界を受けていたから狙いが当たったということでもある。僕にはとにもかくにもお金が必要だった。ブラック企業から退社した狂児と一緒に暮らすための。
 狂児の手元にもいくらかのお金はあったし、僕もあいつも特に浪費を好むわけではなかった。税金をがっつり引かれ始めた就労2年目、糸目をつけずに好きなものを買うことはできないが、だからといってえらく困窮しているわけではない。しかし今年は二人で過ごす初めてのクリスマスで――
 で?
 二人で過ごす初めてのクリスマス?
 なんて陳腐で歯の浮くフレーズや。
 と商業主義に向かって包丁を振り回してしまうのは、別に僕がそれを本当に恨んでいるからではない。実家や友人らとはクリスマスを楽しんできたし。ひとなみに。それなりに。ただ僕と狂児にとっては、そういうフレーズがぜんぜんそぐわない、現実味のない、なんだか嘘みたいなものに思えるからだった。
 そう思ってしまうたびに胸の奥がちくりとするので、僕はそれを誤魔化して、そんなフレーズに惑わされてええのか、そんなのに関係なく僕が本当に狂児にあげたいのはなんや、よく考えろ聡実 と唱える。
 クリスマスはどうでもいい。何をあげたいのかピンとこないのが最大の問題で、僕は多分夏くらいからこのことを考えていたのに、結論はいつも、何だってあげたい。だった。こっちこそ陳腐で歯の浮くフレーズだったが、僕は本当に何でもあげたい。僕は狂児の人生をもらってしまったのだから。本気でそう考えているのだが、それをプレゼントという物質に変換させるのが難しかった。決して広いとは言えない古いアパートで僕の帰りをむかえてくれて、安いダイニングセットで一緒にご飯を食べて、ベランダで煙草を吸う彼の背中に、僕があげられるものって一体――
 4周目にして初めて、エスカレーターのすぐ脇に、ポップアップショップがあるのを発見した。アンティーク店の出張店のようだった。アンティークに詳しいわけではないし、狂児にもそんなイメージはなかったが、見落としがあるといけないので、中に足を踏み入れた。店員は声もかけずにこちらをチラリとだけ見て、また手元に視線を戻す。ずいぶん無愛想だと思ったが、こういった店だから、僕のように買うものが決まっていない客が多いのだろう。
 値付けの根拠を知らぬまま店内を物色していた僕の視線は、小さなライターの上で止まった。ライターは使い込まれた鈍色だったが艶があり、狂児の指先がこの蓋を跳ね上げたり、手のひらが火を覆うところを想像すると、悪くない、というか、しっくりくるような気がした。目を留めた理由はもう1つあり、それは最近、かつて彼がよく使っていたオイルライターを無くしたと言っていたからだ。代わりに登場するのは100円のカラフルなやつ。これ、ええんちゃうか。
 店員によるとこれはなんたらかんたらのアンティーク一点ものということで、ハイブランドの小物なんかと同じくらいの値段だった。背伸びしていないかしているかで言えばしていたが、僕は気づけば綺麗に包装されたそれを手にしていたのだった。これをクリスマスに渡すぞと意気込みながら。
 ところがその夜。
「禁煙?」
 耳を疑った。「狂児さんが?」
「せやねん。聡実くん、応援してな」
 健康のことを考えれば大変喜ばしいことなのに、狂児がなぜかバツの悪そうな顔をするので、僕はハッとした。「どっか悪いとこあったん……?」
 太い片眉がひとつ、❓といっしょに持ち上がったが、彼の表情はすぐに❗️に変わった。
「ちゃうちゃう、なんもないで」
 肩の力が抜けた。「歳考えろや……
「え、ひどない!?」
「ええことしとるんやからもっと堂々としてください」
「ヤクザ長すぎて胸張ってええことできへんねん」
「めっちゃこじらせとるな……
 狂児が言うには、毎日毎日タバコの残る箱を捨て、もう二度と吸わんと決意し、数ヶ月前にオイルライターも手放したものの、気づけば100円ライターと馴染みの箱を持ってコンビニを後にしていたそうだ。
「無くしたんとちゃうんや、ライター」
「うん……わざわざ宣言するの恥ずかし〜思ててんけど、もう、言わなやめられへんなと考え改めまして……ここはひとつ聡実さんにご協力を仰ぎたく」
 下げられた頭を思わず撫でると、すぐに両腕に捕まえられた。離してと口では言いながら、僕はしみじみと、幸せからくるため息をついた。嬉しかった。めちゃくちゃに嬉しかった。5分でも1分でも1秒でも長くこの体温と一緒にいたかったからだ。
「そしたら、夕飯唐揚げで手を打ちます」
「唐揚げぇ?そんなんでええの?俺もつけよか?」
「それは基本セットちゃうんか」
「うん。追加オプションもあんねんけどつける?」
「つける」
 僕はライターを返品しに行くことにした。
 


▶️無事ライターを返品しました
▶️ライターを返品しようとしたのですが