結果僕は惨敗した。
馬券が紙吹雪のように舞っているのをぼんやりと眺める。これってみんなほんまにやるんや。ほんで、けっこうやりたなるんや。僕の馬券、初めての3連単(カス)しかないけど
……
とりあえずパーっとやってみてから、狂児を見上げた。
「負けた
……」
「んっふ
……呪いの20万も楽しく使ってもろて喜んどるよ、JRAのふところで」
「狂児さんにも負けた
……」
狂児と分け合った10万ずつを、僕は綺麗に使いきったが、彼のほうはなんと微増しているのだった。
「嘘ついたやろ」
「なんの?」
「競馬弱い言うたやないですか」
「弱いよ。弱いけど、今日はなんや調子よかったわ〜。聡実くんのおかげかな」
「ほんでお金増えたら呪い増すやん」
そうなん?まあ一回国通してるから平気やろ、やば、感染拡大して国家転覆するんちゃう、などと、レギュレーション不明の呪いについて話しながら最終レースまで見届けた僕らは、のんびり帰路に着く。競馬場から僕らの家はまあまあ遠かったのだが、年末の忙しない街を、鈍行を乗り継いでゆっくり移動するのも悪くなかった。レースの興奮と強すぎる暖房でぼおっとする頭を隣の肩にぶつけると、髪の毛が彼の息でちょっと揺れる。
「楽しかった?」
僕は頷き、一応付け足した。「勝ったらもっと楽しかったです」
狂児はくつくつと笑った。「また勝負しよ」
「競馬貯金しましょうか
……」
「しよか
……今日の残金もけっこうあるよ」
「いいです、それは」
僕は首を振った。別にそれが洗浄済み呪いの金だからというわけではなく、パーッと遊ぶためのお金を二人でちまちま貯めるのは、きっと楽しいだろうなと思ったからだ。「それ、狂児さんの稼ぎやし」
え〜と声を上げてから、少し考えた狂児はポンと手を打った。
「せや、聡実くんに俺のお願い聞いてもらわな」
「覚えてたか
……」
「そらもう。金額発表する?」
「いらん」
むすっとした僕の声にンフっと憎たらしい笑い声。続く勝者の敗者への命令は、「聡実くんには、このお金で俺と一緒に旅行してもらいます」
「
……」
首を捻って狂児を見る。
何?みたいな顔をしている彼は「俺温泉がええな〜」と付け足した。「聡実くんはたこ焼きランドに行きたいやろうけど、勝者権限で
……」
減速していた電車が停まり、どっと人が降りていく。開いたドアから吹き込む冬の夜風が、暖房でかっかした頬をなでてまわる。
厚着の乗客がごそごそ入れ替わる中、僕と狂児は二人で並んで座っている。競馬場で一日遊び、家に帰ったら一緒にご飯を食べる。一緒に寝て一緒に起きる。さらにクリスマスやお正月なんかもやってみて、そしてそのうち温泉旅行に行くらしい。
やっぱり嘘みたいやなと思う。
「
……そんなんでええの?僕もつけましょうか?」
「基本セットちゃうの」
「はい、追加オプションもありますけど」
「ふふ、実はオプションの内容も考えとってん」
口を押さえて「ここでは言われへんけど」とか言い出した狂児の膝に、自分の膝をぶつける。
「オーダーメイドちゃいますからね」
「おまかせか〜。めっちゃ楽しみ〜」
ドアが閉まり電車は再び走り出す。
僕と狂児は二人で並んで座っている。
家まであと1時間以上ある。家に帰ったら一緒にご飯を食べる。一緒に寝て一緒に起きる。クリスマスやお正月なんかもやってみて、競馬や温泉もいってみて、また並んで家に帰り、ご飯を食べて、一緒に寝て、一緒に起きて、ちまちま貯金しながら、次どこいくか考えて、とか、そんな。
ええんや。
なんだか知らないが、体に満ちていくなにかが溢れそうだった。正面を見る。窓越しに視線がかち合う。目を合わせたまま手で探ると、全く同じタイミングで指先が絡む。
嘘みたいに。
*✨10万でじゅうぶんHappy End✨*
5億あげたい!!!!戻る↩️