けーだい
2024-11-25 00:19:45
73340文字
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レヴナントの褒賞

下記の要素を含みます。苦手な方は読まないでください。
・一部原作キャラクター(以下「キャラ」)が故人の設定
・キャラの死亡描写
・キャラの身体の分離、欠損描写
・魔物、キャラの殺傷描写
・キャラの自殺願望に関する描写
また、他注意事項として
・リンゼルに子供がいる設定
・リンゼルの絡みがほとんど無い
・(カップリングではない)リンクと他キャラ、またはモブとの会話がメイン
となっています。大変好みの分かれる話ですのでこの他にも心配なことがある方は読まないことを推奨します。
だいぶエロ以外のセンシティブ要素がてんこ盛りですが、書いた人間としては死によって救われるのではなく救われたから終わる、そういう話にしたいと思ってはいます(できてるとは言っていない)。そういうのが好きな人向けです。
リンゼルオンリーにこれを持ち込もうとしている狂気。


百年の夜明け


 苔生した石の階段を、一段一段踏みしめる。台地の入り口から伸びるその階段は果てしなく長く感じた。それでも、頭上から降り注ぐ月明りだけを頼りに最後の一段を登りきる。見上げると、鬱蒼とした杜に飲み込まれているような神殿がそこにあった。
 辛うじて開いている入口から足を踏み入れる。先は更に暗い。茂る木々の葉の隙間から漏れる光は随分頼りないけれど、それでも夜目が利くから十分だった。伸びた草を踏み分けて真っ直ぐに奥へと進む。入り口から正面に位置に鎮座するその女神は、今もなお、微かに見えるハイラルを眺めている。
「また、来ました」
 淡く光る女神の足元まで来て、今までと同じように挨拶をする。しかし相変わらず返事はなかった。忘れ去られた神殿の女神は俺の願いをわかってくれたけれど、この女神は違うのだろうか。
 様子を伺いながら宣言する。
「回生の泉の源に、用があるんだ。だから……通らせてもらうね」
 許可も拒否もない。何の意志も示さない女神の前で、陛下の住まう屋敷で見た石板を思い出していた。
 あの石板はきっとここの事を書いていたのだろう。時の女神が白龍の川の門番だというなら、多分こうするのが正解だ。
 鼻腔を通った大気を肺腑の奥まで満たす。そうしてから、薄く唇を開いた。
 懐かしい調べを女神に捧げる。かつて彼女が我が子に歌った、そして今なお受け継がれている子守歌。
 それは夜の空気に高く伸びて、混じり、やがて溶けていく――

       *

 歌い終わると同時、足元に振動と、何か重いものを引き摺るような音がした。女神の御元を離れて階段を下り、台座の下を覗き込む。階段の側面、台座と繋がる部分に人ひとりが通れるくらいの穴が開いていた。
 覗き込んだ先は暗い。持ってきていた簡易ライトを手折って中を照らすと、通路として整備されている様子のない、剥き出しの岩盤がそこにあった。入口と同じか、一回り大きいだけのそう広くはない道が、奥の暗闇へと向かって延びている。
 その洞穴へと足を踏み入れる。後ろの方から、あの子を頼みます、と聞こえた気がした。

       *

 内部は源泉への道という割に湿っていない。その代わり冷えた空気が溜まっていて、冷気は奥の方から流れてきているようだった。暗闇に沈む穴の中を手元のライトだけを頼りに進んでいく。入ってすぐは平坦だったけれど、少し進んだところからは若干急な登りになっている。
 その一本道を只管登り、どれくらい経っただろうか。空気が湿り気を帯び、やがて壁や床や天井が染み出した地下水に濡れ始めた。手に持った簡易ライトの光を反射して、あたりがわずかに明るくなる。そして道の先に微かな明かりが見えた。丸く空いた穴から、僅かだけれど光が漏れている。
 気付けば走り出していた。光が迫ってくる。暗く長い坂道が、終わる。

       *

 登り切った先は今までと打って変わって、回生の泉がある場所とそう変わりない広さの空間が広がっていた。その岩に囲まれた空間を、中央にある光る泉が照らしている。
 近寄って水面を覗いてみる。透き通った水の向こうに、光る何かがいくつか沈んでいるのが見えた。泉はその光を反射して輝いている。
 それを頭が理解した時にはもう飛び込んでいた。水底まで潜って、掌に納まるような大きさのそれを一枚そっと手に取る。取り落とさないように握ると、水面へと戻った。
 泉から這い上がる。そうして開いた掌の中で淡く光るのは、遠い昔に見た彼女の欠片白龍の鱗だった。
 あぁ、と唇から息が漏れる。
「本当に――待っててくれたんだね」
 その声に応えるように、掌の光が強く煌めく。そして力尽きるように色を失っていった。握り直したそれは、まだ微かに暖かい。
 一瞬間を置いて辺りが明るくなった。振り向くと水面から白い鱗が花吹雪のように一斉に舞い上がっていた。儚い光がやがて淡く溶けて、空気に霧散していく。
 暗闇の戻った泉の縁で身体の中を通っていた力が抜けていくのを感じた。ざらり、と砂が崩れるような音がする。それが自分の身体の崩れる音だと気付くのに、そう時間はかからなかった。

       *

 暗闇の中、一枚だけ残った鱗を手に、元来た道を辿る。
 明かりはない。泉に飛び込むときに落とした簡易ライトを拾おうとして、指先が崩れて落ちてしまったから、持っては来られなかった。
 けれど途中に分かれ道はなかったし、不安はない。ただただ、左手の中にある鱗の感触だけを頼りに下っていく。
 きっとこれが最期だ。だから、ふたりでこの世界を見たい。
 それだけを考えていた。

       *

 やがてぽかりと空いた入り口を潜って外に出た。暗闇のうちに視覚を失っていたらどうしようかと思っていたけれど、まだ無事だったと胸を撫で下ろす。
 外は辛うじて夜の内らしい。それでも今まで通ってきた場所がここよりずっと暗かったから、とても明るく感じる。
 教会を去る欠け始めた俺に、女神は何も言わなかった。
 どこに行くかはもう決めている。階段を下り、それから坂を登った。向かう先の空はまだ暗いけれど、少し視線を横に向けると端の空が白み始めているのが見えた。
 どうせなら、夜明けの景色がいい、と思った。

       *

 辿り着いたのは行き止まりだ。左の壁面には草木に覆われた洞穴がある。かつて俺が目覚めた場所。彼女に命を与えられた場所だ。
 そこに背を向けて、崖の先を目指した。目覚めた俺が最初に見たハイラル。それを彼女にも見せたかった。
 そうして、どうにか景色の見える場所に立つ。瞬間、左の脚の感覚が消えた。右腕はとうに崩れて消えたから、同じように無くなったのだろう。けれど鱗を握った左手は無事だし、ここに辿り着けたから、もう脚もいらなかった。
 膝をつくようにくずおれて、それでも、この広いハイラルを見つめる。
 翠の森が光を受ける。静かな街が、遠く聳える山が、輝き始める。濃紺から白へと向かう空が、目覚める。
 鱗を胸に抱いて、呟いた。
「ただいま……ゼルダ」

 目の前を黄金の光が埋め尽くしていく。
 瞼を閉じれば、懐かしい声がした。