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けーだい
2024-11-25 00:19:45
73340文字
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レヴナントの褒賞
下記の要素を含みます。苦手な方は読まないでください。
・一部原作キャラクター(以下「キャラ」)が故人の設定
・キャラの死亡描写
・キャラの身体の分離、欠損描写
・魔物、キャラの殺傷描写
・キャラの自殺願望に関する描写
また、他注意事項として
・リンゼルに子供がいる設定
・リンゼルの絡みがほとんど無い
・(カップリングではない)リンクと他キャラ、またはモブとの会話がメイン
となっています。大変好みの分かれる話ですのでこの他にも心配なことがある方は読まないことを推奨します。
だいぶエロ以外のセンシティブ要素がてんこ盛りですが、書いた人間としては死によって救われるのではなく救われたから終わる、そういう話にしたいと思ってはいます(できてるとは言っていない)。そういうのが好きな人向けです。
リンゼルオンリーにこれを持ち込もうとしている狂気。
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女神と願い
土埃の匂いが立ち込める中、蔦に覆われた巨大な柱の間を歩く。石でできた床は硬い感触ばかりを脚へと返してきた。反響しては消えていく自分の靴音が随分場違いに感じる。
ここに生きているものは俺しかいない。忘れ去られた静謐だけが、ただ在り続けている。
日が直接射し込まない割に暗くもない、ひやりとした空気の充満する神殿を奥へと進んでいく。やがて石壁に開いたとば口から女神の似姿が見えた。他のどの女神像よりも大きいはずなのに、建物が巨大すぎてやけに小さく感じる。ともすれば距離感の狂いそうな視覚を朽ちた石畳に救われながら、女神の御前、部屋の中央にある八角形の台の上で立ち止まった。
遠い尊顔を見上げる。変わることのない微笑みを湛えた女神がそこにいる。
「訊きたいことがあるんだ」
さほど大きくはなかったはずの声が、広い空間に響いて消える。まるで冷たく重い神聖さを纏った空気に溶けるようだった。
相変わらず返事はない。けれど気にせず続ける。
「どうしたら、俺の命は尽きますか」
遥か遠い天井に天窓はないのに、女神の像は薄く光を湛えていた。もしかするとこの神殿がさほど暗くないのはこの女神の加護によるものなのかもしれない、と思う。
女神は微笑んでいる。
「百年は回生の為の眠りだった。だからいい。でもその後がわからないんだ。俺はどうして何も変わらないのか。
……
どうして、死ねないのか」
そうしてそこにいて、俺の声を聞いている。そんな気配だけはあって、それでもいつの頃からか彼女達は俺の言葉に反応しなくなってしまった。
「どうして
……
何も言わないの」
理由もわからないまま、存在を無視されている。それなのにあの悪魔像は俺に「女神に愛されすぎた」と言った。
それがどういう意味を持つのか、俺にはわからない。
「これはあなた達の
――
『
呪い
しゅくふく
』なの?」
その問いが部屋に響いた瞬間、変わるはずのない微笑みが崩れたような気がした。空気の密度が上がって、刺すような冷たさを感じる。意識より早く反応した身体が腰を落とし、目の前の偉大な神を警戒する。
殺気だ。
石像を中心に放たれるそれは俺の身を締め付けるように空間に満ちていく。否応なく神経が研ぎ澄まされていく中で、ゆうに百五十年は聴くことのなかった声が、脳に、響く。
「
――
理解できません」
その無機質さに身体の芯が熱を失うのを感じた。女神が怒りを露わにしている。あの魔王にさえ向けなかったそれを今、俺に向けている。その威圧は本来であれば人になど到底見せられるものではないはずだった。世界を作る神々の怒りは、世界を壊しうるのだから。
それでも目は逸らさない。百年を越える沈黙を破った彼女が語る言葉には、必ず意味があると思った。きっとそれはどんな形であれ、俺の願いの導になる。
「大厄災の日の、『死にたくない』というあなたの魂の叫びを、わたしたちは覚えています」
硬い声は高く、けれど身体の奥底に沈んでいくような感覚と共に俺の頭蓋の内側に響く。そうして深く、遠い記憶を揺り起こした。
熱を帯びた空気。それに反して冷えていく身体。頬に当たる雨と、彼女の涙の感触
――
。
あの時俺は確かにそう願った。彼女を置いて逝きたくなかった。彼女が俺を回生の祠に入れようと決めたから、俺は生き残ったのだろう。けれどそれよりも前に、俺の意志は死を拒絶していた。
「それが今は、死へ向かおうとしている」
そう言われると随分身勝手だとは思う。理解できないというのも、女神からしてみれば当然のことなのかもしれない。けれど、俺が生きることを望んだのは。
「その願いを翻すことは、許」
「俺は」
女神の言葉を遮る。空気が凝固して、まるでそれ以上を口にするなと止めるようだった。けれど振り切るように宣言する。
「大事な人をひとりにしたくない。だから生きたんだ。今は
……
違う」
石に亀裂の入る音がした。女神の怒りに呼応するように古い石畳が、壁が、全てが揺れる。足裏に力を入れて耐えながら、視線は女神から外さない。
「死は、彼女の意志に反しています」
(
……
『彼女』?)
声が響く。脳ではなくもはや空間全体に響いたそれは、神殿が崩れる合図だった。
「認められません
――
」
一瞬の静寂。止まった揺れに嫌な予感を抱き後ろへと飛び退った直後、轟音と共に頭上から大きな石塊が降って、俺のいた場所を押し潰した。
「
……
っ⁉」
俺が避けるのを予見していたように眼前に一本の剣が飛んでくる。美しい白刃はかつて俺も握ったことのある物だった。この女神から賜り、そして彼女を探す旅の中で折れたそれが、俺を狙っている。
反射的に首を逸らす。剣は頬を薄く切ってすれ違い
――
そして宙で身を翻すように、再び俺めがけて飛んでくる。
「なっ
……
!」
振り返りざま抜いた剣で弾き飛ばす。けれど剣は更に刃先を翻すと、また斬り込んできた。
甲高い、けれど厚みのある悲鳴を上げて斬り合う。担い手のいない剣はまるで俺をどこまでも追いかけてくるようだった。人が握るそれとは違い、上に、横に、下にと文字通りの縦横無尽さで突っ込んでくる。それをいなし、躱し、そうする間にも降り注ぐ瓦礫を避ける。
細かな破片だけでも集中を削がれるけれど、大きなものは食らったら間違いなく死んでしまう。落ちた影から逃げた先にも影が落ちる。その影を縫うような軌道で、白刃が追う。
あえて降ってくる石塊の影に滑り込んで刃を避けた。石に弾かれた白刃は少し遠くに飛んだけれど、俺を見失うことなくまたこちらへと飛んでくる。
操っているのは女神だ。彼女の死角にでも行かない限り、俺は狙われ続けるだろう。
辺りを見回すと建物の崩落はまだ本格的には始まっていないようだった。それでも壁が崩れ、空こそ見えていないものの天井は刻一刻と破砕し落ちてきている。入り口はとうに瓦礫で塞がっていて、逃げ場はなかった。そもそもこの剣に追われたまま逃げられるとも思えない。
落ちてきた天井だったものの向こうに見える女神は相変わらず沈黙したまま変化がない。ここが崩れれば彼女も埋まってしまう。けれどそれでも構わないようだった。
このまま自分ごと俺を下敷きにするつもりなのだろうか。もしそうなら、死ぬことのない俺は永遠にここで石に潰されたまま生きることになる。
(それは
……
勘弁!)
剣を弾き、床に刺さった瓦礫の影に飛び込む。そうして女神から見えないよう、身を屈めて岩陰を走った。
脱出する術はもうほぼないと言っていい。けれど女神像の奥にある、古代の賢者達が誓いを立てたあの空間は、建物ではなく岩盤によって守られた洞穴にある。あそこまで行けば、あるいは助かるかもしれない。
剣はまだ追いかけてきていない。女神は俺を見失っている。けれど近寄ればさすがに見つかるだろう。隠れられる巨石は絶えず降ってきているとはいえ、女神の足元を通らないわけにはいかない。
どうする、と考えた俺の目前。宙に光が集う。
「そこです」
今度は剣で受け止めた。金属の擦れる音を立てて白刃が止まる。目の前で鋳造された剣は先程と寸分違わぬ姿をしていた。けれどどうやら同時には一本しか操れないらしい。他に飛んでくる気配を感じないことに少しだけ安堵する。
(でも、まずい)
妙に辺りは静かだった。まるで時が止まっているような不気味な沈黙。その中で剣だけが俺を地面に縫い留めようと圧してくる。
「『彼女』って、誰!」
咄嗟に声を張り上げた。答えるかはわからない。ただ、少しでも女神の気を逸らしたかった。女神の足元まではそう遠くない。隙ができれば剣に追いつかれる前に足元の岩場を飛び越えて奥の部屋へ駈け込めるだろう。
「俺をここで生き埋めにして、それで『彼女』は喜ぶの⁉」
女神が口を開く気配はない。それでも一瞬剣の圧が緩んだ。その隙に浮かんだ剣先を弾いて、踏み込む。
前へと飛び込む瞬間、ぞ、と背筋を駆けた寒気に、咄嗟に身体ごと横へ飛んだ。そんな俺の目の前で、巨石が猛烈な勢いで
天井へと落ちていく
・・・・・・・・・
。
あれを俺は知っている。あれは
――
時の力だ。
「あなたのそれは、加護です」
落ちてきた巨石を弾いて軌道を変えたそれが、再び俺を目がけて落ちてくる。並んで降り注ぐ巨石を避けるそばから、弾いた剣が追いかけてくる。踏んだ破片が浮いて足を取られてもなお、逃げるほかなかった。
「祝福でも、ましてや呪いなどでもない」
巨石の落下と上昇と停止に阻まれた空間。巨石の下を通ろうものなら即座に落ちてくるその中で、女神の声だけが響いていた。
神経を張り巡らせて動くものを感じ取る。俺を目がけてくるものを避け、叩き落しながら、耳はその場違いに落ち着いた声を拾う。
「故にあなたは時を
留
と
め続ける。秘石もないままに」
「どういう
……
っ」
俺の問いを掻き消すように、背後の壁が建物を揺らしながら崩れる。遥か遠い天井からは少しずつ光が漏れ出していた。もういよいよ持たない。
正面から飛び込んできた剣を弾いて踏み込む。女神の足元は俺の身長より高く積もった土砂に覆われている。そこを越えなければ向こう側には行けないが、飛び越えるのは無理だ。それでも行くしかなかった。
剣に追われながら駆ける。潰れるのが先か、刺されるのが先か。
そんな俺に、女神は無機質な声でその名を告げた。
「あなたにただ、生きていて欲しい。それが彼女
――
白龍の意志です」
呼吸が止まる。咄嗟に止まって女神を見上げたけれど、祈りを捧げる台座の下からその顔は見えなかった。
「っ
……
あ」
重い衝撃に止まった息が戻る。胸から白刃の剣が生えていた。深く長いそれは、多分柄まで俺に刺さっているだろう。それが短くなってずるりと抜けていく感触の後、背後から軽い音が響いた。
息苦しくて咳き込む。妙に詰まったようなそれは体液を吐き出す動きだった。地面に飛び散った色は赤い。多分、呼吸器官の一部が裂けている。
けれど、そんなことはどうでもよかった。
「そんなわけ、ない、でしょ」
俺の呼気が笑いを含んでいたことに、女神は気付いたのかもしれない。今まで無機質な、一切感情らしいものを感じさせなかった気配が、少し揺らぐのを感じた。
腰に提げたポーチに触れる。その中に収めた、彼女の日記を思い返していた。日記の中の彼女は幸せそうで、そして、「俺もそうだと良い」と願っていた。
「ただ生きてる、だけで、いいなんて
……
ありえない」
そうだった、と思う。彼女は諦めた俺の代わりに最後まで抗っていた。それがどうしてなのかなんて、俺も最初はわかっていたはずだった。それなのに俺が目を背けてしまったから、いつの間にかわからなくなってしまったんだろう。
いつかの俺が願った、彼女の墓石のそばでじっとただ呼吸をしているだけの微睡は、もしかしたらそれはそれで幸せだったのかもしれない。けれどその願いは、人としての幸せを放棄することに他ならない。
あの日記を見て、俺の中にある記憶を浚い直して、ようやくわかった。
だから、言い切る。
「俺に、幸せで、いて欲しい。それが
――
彼女の、願いだよ」
天井の中央が抜けたのだろう。耳を埋め尽くすような破壊の音が満たす中で、女神の声がはっきりと聞こえた。
「あなたは、幸せではないのですか」
頭上に影が落ちる。このままだと潰されるだろう。それでも身体は動かなかった。血を流しすぎた。
だからせめて、意志を残す。
「幸せだったよ。だから伝えに、いくんだ」
影が迫っていた。この後俺は死んで、そして目覚めるだろう。その時にどうなっているかはわからないけれど、何をしてもここから出ないと。
「
……
え?」
そう考えた瞬間、全ての音が消えた。見上げれば巨石が止まっている。そして吸い込まれるように天井へと戻ると、そのまま残った部分と繋がって、落ちてくる様子はない。
そこだけではなかった。振り返ると部屋全体の瓦礫が同じように元の位置へと戻り始めている。建物自体、空間全ての時が巻き戻り、神殿があるべき姿へと還っていく。
呆然とその光景を見つめていると、ふと呼吸が楽になった。気付けば俺の胸に開いた傷も、服まで元に戻っている。
「傷が
……
」
「あなたの願いは許されるものではない。しかし
――
あなたの想いは、理解しました」
胸元から視線を再び上げる。相変わらずここからは顔が見えない。けれど女神の纏う空気はさっきまでよりもずっと穏やかな気がする。
きちんと顔を見るべきだと思った。八角形を取り戻した台まで戻って、もう一度上がる。それから改めて女神の顔を見上げる。
微笑んでいる。最初に見たものより、少し悲しそうに。
「回生の祠。あれは、元々白龍の
……
黄泉の川に連なる泉でした」
響いた声に短く吸った息が止まる。女神は俺のこの身体を「加護」だと言った。「白龍の意志」とも。
回生の祠には白龍が絡んでいるということなのだろう。詰まった呼吸を意識して吐き出しながら、疑問を口にする。
「
……
白龍の、川?」
「あの癒しは、時を巻き戻す力によるもの。彼女の加護です」
「癒し
……
」
ぼんやりと呟いて俯く。白い床を眺めながら、あ、と声が漏れた。
言われてみれば、と思う。白龍の角のかけらや龍岩石には確かに不思議な力があった。傷を癒す力。ささやかなものではあったけれど、あの暖かさは俺をずっと支え続けてくれたものだ。
それがあの泉の癒しの力の正体だというなら。俺は眠っていた百年を、それ以降の日々を、ずっと彼女に護られていたことになる。
だとしたら、本当に
――
呪いだなんて、とんでもない。
「あの泉の源にお行きなさい。彼女の残したものがそこにあります」
女神の言葉に顔を上げる。あの泉は彼女もプルアも、俺自身だって何度も足を運んで調べた場所だ。台地全てを隈なく探したけれど、それらしい場所なんてなかったはずだ。
「源って、一体どこに」
「時の女神を訪ねるのです。彼女は泉の門番
……
きっと入口もすぐそばにあるでしょう」
途方に暮れた俺を叱咤するように、けれど穏やかに女神は秘密を教えてくれた。
それ以上語ることはないというように女神が沈黙する。きっと、これが女神から贈られる最大の祝福なのだろう。
「
……
ありがとう。それと
……
ごめん」
礼と、それから謝罪を送る。
女神は俺の言葉には反応することなく、けれど背中を押すようにこう言った。
「もうおいきなさい。
――
その魂に、安寧を
……
」
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