さもゆ
2024-11-15 22:32:32
35495文字
Public BF
 

【BF腐】もったいないまとめ

全部ちぎれちぎれの雑多、ワンシーン、落書きなので、私のためのまとめみたいなもんです…。なんでもいい、って人しか見ちゃ駄目。

2019.10.2 たまごのお粥pixiv投稿作品


2019.0305



没った冒頭たちの供養






『ロスへの道中でB級映画的事件に巻き込まれればいいのにな、冒頭』



 幽霊がこっちを見ている。
 夏場とはいえ夜中は冷える外気の中、トウモロコシ畑に身を寄せて、白いワンピースに赤いカーディガンの少女が、英二をじっと見ている。
 冷たい風が世界を揺らし、さわさわ植物の擦れる音が満ちていく。
……びっくりした」
 口から日本語が、ぽとりと落ちた。
 一瞬、本当に幽霊かと思った。
 周囲に畑しかないこの道中、なんの前触れもなく夜中に小さな子を目にするのは、心臓に悪い。
 幾ばくか急激に心拍数を上げた胸を押さえ、くたびれた小さなスニーカーがしっかりと地面を踏み締めている姿に吐息を漏らす。どうして真っ先に幽霊などと思ってしまったんだろう。だって、あんまり静かにそこに立って、幽霊然としているから。
「どうしたの?」
 果たしてこの質問の仕方はあっていただろうか。とちょっと思わなくもなかったが、いかんせん英二は少し困惑していたのだ。今は夜中の二時くらいで、ロスへ向かっている自分たちはさすがに疲れてきて、トラックを停められる道端のスペースでなんとか停車し、朝まで全員安眠しようという態勢だったから。けれど自分は目覚めてしまい、こうして荷台から降りて夜空などをぼんやり眺めたりしていて。そうして少女と目が合い変な汗をかいている現在。
「えっと、」 
 どうしたの、は、違うか。徐々に明瞭になっていく思考回路が、困惑から脱しようとしている。
「きみ、こんな時間に、危ないよ。どこから来たの?」
 次いでやってきたのは不安だった。夜中の二時だぞ。道を囲むトウモロコシ畑の向こうを調べていないから分からないが、たとえ民家があってもこんな時間に女の子がいるのは何かあったとしか思えない。薄着のワンピースにレースのついたカーディガンという出で立ちも、彼女の背より高いトウモロコシ畑に異様に映えている。外灯は一つもないが、満月の光を浴びて肌を白く浮き上がらせていた。
 風が少女の肩まである茶髪を弄んだ。ぱち、ぱち、瞬きされる。
 そうして。
「あっ」
 少女は身を翻して畑の中に消えて行ってしまった。
 数秒呆然とし、「ま、待って」もういない相手に向かって慌てて制止し追いかけようとするも、「待つのはおめーだよ」後ろから服を引っ張られぐえっと襟元が絞まった。どきりと心臓が跳ね上がりじたばたもがくと拘束が解かれ、英二は背後を恨みがましく振り返る。
「ショーター」
 声音からして分かっていたが、それでもめちゃくちゃびっくりした。突然飛び出してくるネズミ一匹に悲鳴をあげる人間だとよくよく理解してほしい。
 昼間よりはモヒカンをしんなり垂れさせた、サングラスをかけていないショーターが寝起きの目を眇めていた。
「お前な、こんな夜中にどこ行くつもりだよ」
「いや、僕はただ……」 
 トウモロコシ畑を振り向く。ショーターに視線を戻した。
「さっきの子、見た?」
「は?」
「女の子が、いたんだけど。走ってっちゃって……
「女の子ォ?」 
 盛大に眉を顰め、彼も広大なる黄金と緑色の闇に侵食されている畑を見渡し、ぐるりと回った視線は英二に戻された。うん、と頷かれる。「そうか」気の毒そうに肩を叩かれた。
「まあ色々あったしな。別段おかしなことじゃねえよ」
「何が」
「幻覚」
「違うよ!」
 その可能性を考えないわけではなかったけれども!
 勢いで否定してから、いやでも本当は確かに幻覚だったりするのだろうかと疑心が首をもたげてきて、いやいやあれは絶対生身の人間だった、信じ込もうと首を振る。絶対そうだった。生きた、人間の、女の子だった。幻覚とか、……幽霊じゃなくて。
「僕ちょっと確かめてくる」
 このままじゃどうにもむずむずする。それに、本音を言うと、少し、かなり、怖い。深夜の田舎を徘徊している少女を放っておくのも、人外の類であっても。目はとうに覚めきっているし、何より頼もしいアッシュとショーターに挟まれたとて眠れないだろう。
「お前なァ」
 ショーターがぼりぼり頭をかき、ううんと唸り、嘘みたいにニヤリと笑った。
「ンな面白そうなこと。俺もつき合うぜ」
 さすがショーター、頼りになる男! 二人はこっくり頷き、密やかにハイタッチを決めた。多少の冒険心も覗いていたらしかった。









『ショーターを好きだった女の子がアッシュを殺しに行って英二と大号泣してほしかったな、冒頭』



 ショーター・ウォンを殺したアッシュ・リンクスのことを許せない奴などチャイニーズギャングの中にはたくさんいる。
 そのたくさんいる奴らをなんとか宥めようとしているシン・スウ・リンは紛れもなく新しいボスだったし、彼が一番悔しい思いをしているのはみんなが分かっていて、更にアッシュという男は憎いだけで殺せるような弱い人間ではないので、みんなはどうにか怒りや何やらの感情を胸に仕舞っているしかなかった。
 一方あたしはというと、ショーターが死んだと聞かされた時まず最初に七度ほど訊き返し、あの特徴的なモヒカン頭がひょっこり中華街に現れるのではないかとしばらく信じられない思いで過ごしたのち、何日経っても出現することがなかったのでそこでようやく彼の死を受け入れた。ショーターは死んだのである。そして、アッシュに殺された。
 これがどうしてじっとなどしていられようか。
 じわじわ浸水していくみたいに胸が苦しくなり、駆け足で張大飯店に行けば、ショーターの姉であるマーディアがいつもは凛とした顔を悲しみに満ちさせていて、けれど彼女の隣にはどうやら彼女が気を許せる白人の男がいて、あたしは勝手に裏切られた気持ちになり結局それ以来店には行けていない。あたしだけなのか? まさか、ただただ悲しくて、信じたくなくて、先のことなど考えられなくて、骨と骨の隙間に風が吹いている感覚がしているのは、あたしだけなのだろうか?
 なんだか周りが信じられなくなったあたしが向かったところは、あのアッシュの潜んでいるという住宅街だった。
 そこであたしは見た。
 陽の光を浴び、日本人の少年と、まるで血肉を争う世界などないとばかりに穏やかに笑う奴の姿を。
 ひどいではないか。
 だって、あたしはショーターが好きだったのだ。ずっとずっとずっと前から、お前がショーターと出会う前から好きだったのだ。
 お前は、アッシュはショーターの親友だったのに。ショーターが笑ってそう言っていたのに。
 なんでお前が殺したんだ。
 あたしは何者にもなれなかった。本当は一番親しい友人になりたかった。でもあたしは女で、だからといって親友になれないわけじゃないけど、それでも男と女の差は大きくて、いっそ恋人でも目指そうかと思っても何かが駄目で。しかし一等、人間の中で一等好きだった。愛していた。彼の幸せを願い、彼が仲間や家族とともに笑って、時折あたしと他愛ないお喋りをしてくれれば、それで良かったのに。どうして親友のお前が。
 あたしは一旦家に帰り、じっくり考えた。
 じっくり考えた結果が、そうだ殺そう、というものだった。
 普通こういう時、殺す相手のことは事細かに調べ上げるものかもしれない。何せあのアッシュ・リンクスなのだ。殺意を向けただけでこちらの心臓には既に弾丸が撃ち込まれているという噂の。
 けれども調べ上げる余裕があるのなら、あたしは一刻も早くこの激情を奴にぶつけたかった。死んでも構わなかった。お前がショーターを殺したことで、お前の命を狙う者が実際にいるのだと、知らしめられたらそれで充分だった。
 だから。
「だから、あたしは今、凄く混乱している」
 アッシュを狙ったあたしの前には、気にも留めていなかった日本人の少年が立ちはだかっている。実際に立って阻んでいるわけではなく、あたしのために跪き、あたしの腕に湿布を貼っているのだが、それはあたしの理解の範疇を超えた行為だった。
 アッシュを撃ち殺そうとした。
 しかし引き金に指をかける前に、蹴りが飛んできた。腕で防いだ。人生で初めて、体丸ごと吹っ飛ばされた。殺される、と思った。それで良かった。ショーターを殺した手であたしも殺せばいいと笑った。暗転。
 そして今に至る。奴らの部屋で日本人に怪我の手当てをされている。
 意味が分からない。









『59丁目で惚れ薬がもたらすラブコメが書きたかったんだなあ、冒頭』



 私は世紀の大発明をしたんだ見てくれよこれをそして味わってくれきみはこういうの興味ないかもしれないけどハハハ別にいいんだ私は私の大発明を無差別に見せびらかしたいだけであって批評も称賛も賛美もいらないよただ私が何か自己満足的に素晴らしい発明をしたんだと頭の片隅にでも留めてくれていれば、さて、ふふふ、何を作ったと思う? ははーん、聞いて驚くなよ、『惚れ薬』さあ! 見た目はなんの変哲もないチョコレートだし味もまあ美食家のきみからしたらやっすいチョコだろうがその辺の一般人からしたら普通に美味しい味してると思うよだが食べて胃に到達して誰かと目が合ったらびっくりのパラダイスって感じだぜチョコを食べた人は目が合った人を口説き落とすに違いない何せ惚れ薬だからねえ! あっはっはー! これを作るのにどんだけ苦労して吐き戻し無関係の人間をイカレた恋愛状態にしたことかそうそれは想像を絶するほにゃららほにゃららら……



「シン、どうしたの?」

 怒涛の筆跡で書かれていた手紙から顔を上げると、真向かいに座る英二が口をもぐもぐさせながら笑った。
「このチョコ、美味しいね。ありがとう」
 シンはウワーッと叫びながら傍のクッションを引っ掴み、テーブルを乗り越え英二に飛びかかった。



 それは別に月龍邸から無断で持ってきたわけではなく、ちゃんと断りを入れたし、なんなら月龍本人に「机に置いてある箱持ってっていいよ。信頼できるとこからのだから」とハッキリ言われた。だからシンは「やりい、菓子かな?」とそこに置いてある箱を手に取ったのだ。『チョコレート』とラベルが貼ってあり、そうだあの日本人にも持ってってやろう色々世話になったし、ショーターの死の真相を知った上で、彼がなんとしてでも守ろうとした英二に興味もあったしと高級住宅の部屋のドアを叩いた。
 迂闊であった。思い返せば月龍が指した箱はもう一つ横に置いてあったものではなかったか。証拠に、箱に張り付けてあった手紙にはどう解釈しても「信頼できるとこから」のものではない内容が書かれている(ある意味信頼はし合っている仲なのかもしれないが、月龍の周囲にまともな人間はいないのだ)。
「英二、ごめん、つまりだな」
 シンの上着を頭にぐるぐる巻きされた英二に言う。
「お前が食ったもんは、惚れ薬なんだ」
 くぐもって聞き取りづらい声が、「そんなファンタジーじゃあるまいし」と返したが、声の調子はかなり不安そうだった。ファンタジー。劇薬事情に巻き込まれている英二からしたら、あんまり空想的には思えないのだろう。その通りだった。
 今、シンの目の前には、首から上を隠した英二が座っている。こうやって落ち着くまでひと悶着あったし(「うわわわ何、なんだよシン!?」「うるせー吐け! 目を開けるな喉を開けんだよ!」「なんで!?」)、手紙片手に陥っている状況を必死に説明したが(「くっそなんだよこれ、肝心なこと何一つ書いてねえじゃん!」「なんて書いてあるの?」「私は世紀の大発明をしたんだ」「あっ、もういいや」)、依然事態は混乱のままである。
 どこぞのイカレたマッドサイエンティストが惚れ薬を作った。
 それを月龍に送って自慢した。
 英二に間違って食べさしてしまった。
 解読難解な手紙によると、分かったことといえば『目が合った者に惚れる』『そうなったら口説き続ける』『視線を合わせたことによって脳神経系が異常をきたし欲情するつまり惚れ薬だ!』とかなんとかそういうことだけ。
 解毒方法も持続時間も何も書かれていない。
 簡単な概要はこんな感じなのだが、シンも英二も決してこれを簡単などとは思えていなかった。
「でも、本当に、味は普通のチョコだったよ……
「毒を毒の味にするわけないだろ」
「いや、でも、今のところなんにも異常はないし」
「じゃあ俺と目ぇ合わせてみんのかよ」
「それは……
「な? とりあえずだ、お前が食ったもんを本当に惚れ薬だと仮定して」
「う、うん」
「これは俺の責任だから、必ず詳細を調べ上げるし、解毒法を訊いてくる。お前には謝るしかない。ごめん」
「いや、まあ、……もとはと言えば月龍の交流関係が悪いよ」
「全く同感」
 うちの若様に対して明け透けなことを言い合える英二がわりと好きだった。
「それまで、お前には不便をかけちまうし、何より」
 シンは言い淀む。
 すると見えていないくせに何かを察したのか、英二は手を振った。
「アッシュなら心配しないでよ」
 布越しの声はあっけらかんとしていた。
「大丈夫。こっちのことはなんとかするし、僕から言っとくし、シンは解決にだけ力を入れてくれれば……
「そうもいかねえだろ。だってお前は、あのアッシュの大事な奴で、」
 シンが尊敬し慕い大好きなショーターが守ろうとした人間なのだ。
 言おうとして、やめた。これを口にしてしまったらなんだかシンにとってもあまりにこの日本人の存在が大きくなってしまう気がした。そんなのは困る。確かに死亡したと思われていたアッシュを信じ、リンクスとともに救出作戦を練る姿は一本芯が通ったように見えたし、月龍に拙いながらも怒鳴り返した様は好印象だったが、だからといってまだ自分は奥村英二にそこまで入れ込んでいない。ショーターが守っていた、その事実と義理があるだけなのだ。それ以外の認識はいらないだろう。
……じゃあ、お言葉に甘える」
 なんとかそう返した。「ちゃんと俺の失敗でってとこ強調しとけよ」「月龍の宜しくない人脈のせいだって強調しとく」笑ってしまう。こいつはよっぽど若様と気が合わないらしい。