さもゆ
2024-11-15 22:32:32
35495文字
Public BF
 

【BF腐】もったいないまとめ

全部ちぎれちぎれの雑多、ワンシーン、落書きなので、私のためのまとめみたいなもんです…。なんでもいい、って人しか見ちゃ駄目。

2019.10.2 たまごのお粥pixiv投稿作品


2019.0222



壁井ユカコ先生の『キーリ』パロディ。キーリが語りつくせないほど好きで、不死人アッシュとショーター、ただの人間英二が見たくて、その出会いの話。






 半恒久的に生命を巡らす、心臓と呼べる代物かは怪しいがこの身体を動かしている核は、やはりどう足掻いてもその機能を停止してはくれないようだった。
 一体何日間死体の中で埋もれているかは時間の感覚をとうに失ったため分からないが、恐らく自分から動かなければずっとこのままだろうということは分かっていて、ならまあいいかという気もしてくる。めんどうくさい。もう動きたくなかった。
 しかし湧いて出る蛆やら何やらのうぞうぞした虫が周りの死体に群がり、そうすると当然こちらに気づき、あれこれは死体なのだろうかという体でとりあえず肌を食い破ってくるから、気持ちが悪くて仕方がない。食い破られたそばから、核から送られるエネルギーによって身体が再生し始め、侵入者を追い出しにかかる。虫共は食っても減らない餌としてこちらを認識し、更に群がる。身体が再生する。食われる。それの繰り返し。
 おぞましい感覚だが、たくさんの人間を殺してきたのだから、それこそ半恒久的にこのまま小さな虫の肥やしになっていた方が自分から動き出してまた人を殺すよりよほど誰かのためになるだろう。ほら虫さん、いっぱいお食べ。眼球を齧るのは勘弁してほしいが。
 肌の上を一生懸命這い回る小さな生命にある種の一体感を覚え始めた頃、不意にそれまで吹き荒ぶ風と身体再生の音しか拾わなかった耳に、別の音が届いた。
 誰か来る。
 死者から金目の物を盗る物乞いか、生き残りか、死体回収者か。前半二つはいい。金目の物が欲しいなら、この核を自分でぶんどって喜んでくれてやる。生き残りで、敵だった場合はどうぞこちらの核を抉りとって仲間の仇を討ってやれ。死体回収者。これは微妙。ただの戦場掃除人か善意ある人間なら放っといてくれと穴の空いた喉を駆使する心意気だが、研究所関係者ならば、問答無用で連れ戻される。それは困る。
 今自分は多分に疲れていて四肢を動かすのもしんどいので、とりあえず向こうが近づいてくるようだったら反応を示してやろう。死体のように転がったまま、本当に死体だったらなあと羨ましくなるあたり、どうしたって死体にはなりきれていない。
 足音が、よたよたと、障害物を避けるような動きで、真っ直ぐ近づいてくる。それから、こんな声も。
「全くお前ってやつは、どうしようもねえな」
 ああ、そんな、勘弁してくれ。
 閉じきっていた目蓋を透過していた太陽光が遮られ、物乞いでも敵でも死体回収者でもない一番来て欲しくなかった、紛れもなく生き残った味方の声が、仕方ねえなあというふうに上から落とされた。
「よお、アッシュ。お前は本当に寝起きが悪いな」
 穴が空いた喉を駆使して毒吐いた。
「うるせえ、お節介ハゲ」






 悪いことをすると戦争の悪魔に心臓を抉り取られてしまう。
 という文句は一体どこからきてどういうふうに尾ヒレをつけられて広まったのだろう、と英二は長年ぼんやり疑問に思っていたが、恐らくその明確な答えはこの世に存在しないのではないか、という結論に至った。というのも、英二はこの十九年間、都市伝説的に人の口に上る『戦争の悪魔』など見たことがなかったし、それの扱いが明らかに妖怪や民間伝承と同じだったからだ。
 戦争の悪魔。
 約八十年前の大戦で、アメリカが投入したという、人型兵器――不死人。
 日本語でそう呼ばれる者たちは、心臓が石(はたまた人工知能が埋め込まれたチップだの魔術的な物体だの、人の話によって様々だ)でできており、そこから送られるエネルギーで手足がちぎれても頭が吹き飛んでも武器を片手に突撃してくる。日本は深くまで関わらない戦争だったため、詳細は分からないが、歴史の教科書から引用すると『不死人部隊が襲撃した町は一夜で滅び、また彼らは痛みもなく敵を殲滅する。まさしく戦争の悪魔だ』ということになるらしい。
 実際にいたのは確実で、歴史になっていることも承知だが、それでなぜ「悪いことをすると心臓を抉り取られる」なのか。
 祖父母から子供へ、孫へ、そうやって大戦に参加していない日本でさえ広まっている迷信だ。なんとなく言いたいことは分かる。戦争の悪魔は自身の心臓が石なので、敵を撃つ際は心臓を執拗に狙ったとか、人を殺しすぎたために大戦が終わったあとは生産国のアメリカが彼らの心臓を取って終わらせたとか(=悪いことをすると心臓を取られるという方式になる)、たぶんそういう曖昧な情報をもとにしているのだろうと思う。
 あんまりにも不確かな昔話のせいで、英二はもうずっと、別に四六時中ではないが、ふとした時に気になってしまう。
 悪いことをさせられたのは彼らの方なのに、どうして戦争の責任者として葬られたのだろうか。彼らは、本当に、痛みを感じなかったのだろうか。
 ちょっとした疑問だった。

 純粋な金色の髪の毛が、冷たい風に靡いている。
 英二は思わず歩き去ろうとしていた歩を止めた。
 小汚い恰好さえしていれば浮浪者の死体かと見紛うほど、その人間は死体のようにベンチに横たわっていた。こんな、都会から離れた大学の帰りにある、夕暮れ時の寂れた公園沿いで、金髪の人間が寝ている。
 顔はベンチの背を向いているため分からないが、体格からして男だろう。一月だというのに上は長袖のシャツ一枚だった。……死体じゃないよな。
「あの、」
 他に通りがかる人もいないし、もしあとになってここで死人が見つかったとニュースになったら寝覚めが悪いし、たとえ厄介な人間でも声をかけて反応を確かめるくらい許されるだろう。「あの、大丈夫ですか?」しかしぴくりとも身じろがれなかった。「もしもし」反応がない。「えーと……」段々不安になってくる。英二は少し悩み、意を決してベンチに近寄り、「すみません、大丈夫ですか――」その肩に触れた。
 弾かれたようにその人間は起き上がり、起き上がりざま物凄い勢いで手を払った。バチンッ、と音が響く。その一連の流れを理解する前に、英二は唖然と払われた手をそのままに、目を見開いた。男だった。若い。そして目が綺麗な緑色だった。肌も白く、ザ・外国人という容姿の若者。敵意か拒絶かを瞬きする間に押し隠し、男は「しまった」というふうに英二を凝視している。
 そこで、ようやく、手がひりひり痛いのを感知した。強く払われた自分の手を見るも、赤くなっている。
……え、ええと、えっと、あ、アウチ」
 英二が思い出したように申告すると、男は眉を顰め、「ごめん」と日本語で謝った。面食らう。
「あっ、いや、日本語、話せるの?」
……すこし」
 すこし、少しか。髪を染めている日本人だろうと予想していただけに、咄嗟に何をどう言えばいいか分からない。あーとかうーとか吃りまくっているのを見兼ねてか、金髪美青年(よく見なくても美人とかイケメンとかの類だった)が、「あんたは?」ベンチに座り直して訊いてくる。「あんたは、えいご、はなせるの?」
「えっ、僕? ええ、うん、……A Little」
「すこし、ね」 
 警戒心ばりばりの野良猫みたいだなと思いつつ、なるべく簡単な日本語を意識して、本来訊ねようとしていたことを問いかける。
「寒くない? 大丈夫?」
……なに?」 
「えと、not cold? Are you ok?」
「Not so.……りかいしてる」
「え? えと」
「それを、ききに、わざわざ?」
「え、うん、yes」
 思い切り唇をへの字に曲げられた。
 これは自分が口下手なのが悪いのだろうか。いまいち意思疎通がうまくいっているとは思えない。本場の人間からしたら訛りが強いだろうが、会話なら、たぶん、へたくそでも英語でできる。全部英語で喋った方がいいんだろうか。いや、そんなお喋りするつもりはないけれど。ただちょっと、体調が平気かどうか分かれば、それで。
「はあ」
 感嘆か溜め息かよく分からないものを吐かれた。
「さむいかって? へーきだよ、おれは……
 青年はふと、まじまじと英二を上から下まで見た。な、なんだ。視線を追って自分の恰好を確認してみる。マフラーに、ジャンバーに、ジーンズ、スニーカー。リュックサック。そのへんにいる大学生だ。おかしなところはない、はず。
「やっぱり、さむいな」
 とってつけたように言われる。「あー、うん、さむい、すこし。アメリカよりは、ぜんぜん、あついけど」形のいい唇から放たれる日本語はゆっくりで、拙く、綺麗な見た目に反して幼く見させたが、何歳くらいだろう。いかんせん外国人の見た目は日本人の見た目年齢と比例していない。しかし幾つか年上に見える。なんでこんなところで寝てたの(反応速度から起きてはいたかもしれない)とか、日本に旅行にでも来たのとか、色々不審な点はあったが、ひとまずそれらを置いといて英二は自分のマフラーを取った。
「いる?」
…………」不可解そうな顔をされる。
……こうやって、」青年の首にマフラーを近づけると、一瞬びくつかれこちらも動きを止めるが、何も言われなかったので彼の首にマフラーを巻いてやった。「使うんだけど」お節介が過ぎたかも。だって、この人、なんだか、おかしい話だけれど、声をかけなかったら陽が暮れても薄着のまま、死体のように寝転がっていそうな雰囲気が滲み出ている。巻きつけたマフラーをちょうどいい具合に直してから、一歩距離を開けた。
 英二の青い、鳥模様のワンポイントがついたマフラーを目線を下にやることで眺め、それから真っ直ぐこちらを向いた。
「ありがとう」
 ニヤリと笑われる。「アメリカでも同じ使い方だ」流暢な英語だった。英二はあははと笑う。そりゃそうだ。
「えっとね、僕、英語話せるよ」
 体調を気遣うだけだったはずが、ここで別れるのは惜しい出会いだと一旦感じてしまうと、日本語を捨てていた。
「ゆっくりなら、聞き取りも、できる」 
 自分の舌から英語が生まれ、それを本場の人間に聞かせているのが妙に恥ずかしく、嬉しい。いつかアメリカに行こうと思って、必死になって習得した言語だった。アメリカ。そう、彼はアメリカから来たという。ああ、でも、初対面であまり突っ込んだことを訊くのは、失礼だろう。なら、やっぱり、当たり障りのない、訊くべきことを訊いて、さっさとお暇しよう。
「えっと、……お家帰れる?」
……新手のナンパか?」 
「えっ? いや、違うよ」
「冗談だ。気遣ってくれてるのか?」
「うん。もうすぐ夜になっちゃうし、寒いし」
「日本人てのは親切なんだな」
「アメリカ人は違うの?」
「親切だよ」青年はにこりともせず言う。「一部な」そんなの日本人だって同じだ。
 英二はなんだかわくわくしてくる。凄い。アメリカ人と英語で喋れてる。大学の英会話の授業とは違い、教師じゃない一般の人間と。初めてだった。
「連れを待ってるんだ」
 この寒空の下、ベンチで寝こけながら?
 それは大変だね、とかなんとか言おうと開きかけた口は、「あ、来た」青年が英二の向こうに視線をやったことで、閉ざされる。後ろを振り向くと、夕陽を背負って人影が歩いてくるのが見え、英二は素直に残念だなあと眉を下げた。仕方ない。「じゃあ、僕は、これで」金髪緑目の青年に小さく手を振って通常通りの帰路につく。
「おい、これ」
 慌てたような声に首だけ向けると、ベンチから腰を浮かせ、青年が英二のマフラーを示していた。
「あげる! 風邪ひかないようにね」
 英二はもう一度、今度は大きく手を振ると、およそ数分間の貴重な経験を噛み締めながら歩いて行く。
 アメリカの綺麗な青年。
 ここは田舎だし、もしかしたらまた会うかもしれない。
 その時は、訊いてみよう。ぼんやりと不思議に思っている、――不死人のことを。



「ナンパしてたのか?」
 隣に座った途端にやにやと訊かれ、「んなわけあるかよ」出された煙草を受け取る。火を点けずに咥え、唇で弄んだ。隣から煙が流れてくる。
「お前の好みだろ。アジアンビューティー」
「ばーか。あれ男だぜ。しかもガキ」
「性別はいいだろ、この際。それに歳もだ。若い方が……置いてかれるまで、時間がある」
「一瞬だろ」
「ま、そーだな」
 がさごそと他に持っていた袋を漁りながら未だ口元に笑みを乗せているショーターに、「なんだよ」むっとして煙草を奪い取った。「あ、まだ吸い始めたばっかだぞ!」知るか。手で握り潰してやる。じゅっと肉の焦げた臭いと切っていない痛覚が痛みを訴えたが、それも煩わしくて感覚を捩じ伏せた。熱さも何も感じなくなる。
「あー、もったいねえ」
「あんま吸わねえ方がいいぜ。不良に間違われる」 
「お前も似たようなもんだろ」
「ハゲよりましだ」
「何度も言わせんなよ、これは伸ばしてンの」
 何度言われてもお前の頭はスキンヘッドのままだし、一生伸びないよ。昔、アッシュが一度そう言ったら本気のヘッドロックが飛んできたので、それ以来「そーかよ」投げやりに答えることにしている。
 掌を広げると、煙草の残骸に混じり、火傷がみるみるうちに元通りの肌になっていくのが見れた。皮膚が蠢き、新しい皮になり、痕さえ残らない。
「お前も、むやみやたらに怪我すんなよ」
「わーってるよ」
 戦争時代から言われていることだった。滅多に死なない身体なのに幾度か死にかけている自分を、同じ不死人であるショーターが死ぬほど呆れ返って助けに来る。
 だが日本は思った以上に平和だ。よもや大怪我も負わないだろう。
「いいもん貰ったな、それ」
「あ? ああ……」 
 名前も知らない日本人の少年に、巻きつけられたマフラー。
 黒髪は風に吹かれて乱れていて、黒目は純真で大きかった。14、5くらいの、ベンチで寝ている人間に声をかけてくる無警戒な少年。
……あいつ、風邪ひかないように、ってさ」
 隣から笑いが起こった。
「そりゃいいな!」 
「何が」
「えーと、そう、『カワイイ』」
「はあ?」 
 覚えた日本語であるそれは、わりと多様な場面で使われていて、難解だ。ここに来るまでに制服を着た女子高生が血だらけのゾンビの人形を見て『カワイイ』と黄色い声を上げていたし(なら俺たちが血みどろで臓物垂れ流してる姿はカワイイのか? とショーターと二人で震撼した)、犬を散歩させている女同士が互いの犬を『カワイイ』と褒め合っていたし(ゾンビよりはいいと思う)。さっきの少年が、カワイイ?
 一生懸命、拙い英語で話してきた姿を思い返してみる。正直訛りが酷かった。けど、最後の笑顔と、合わせると、まあ。
……やっぱりナンパだったか、アッシュくんよ」
 イラッとする態度でショーターが何も分かってないくせに分かったように頷くものだから、アッシュは煙草の残骸を隣の肩口に擦りつけた。「何してんだバカ」バカはお前だ。
 あれをカワイイにしてしまったら、カワイイの基準があれになっちまうだろうが。
 アッシュは胡乱気に鼻先をマフラーに埋める。それは、知らない柔らかなにおいがするものだった。