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botanin5
2024-11-14 03:21:18
22478文字
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薬さに♀(小説)
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花一輪
顔を隠していた審神者が、自分を一輪挿しの付喪神だと名乗ってしまうお話です。
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「お願い、今すぐ私が別人に見えるくらいのメイクをして」
次の日、午前中に仕事を詰め込み午後から急遽休みをとって、友人の本丸に駆け込んだ。どうしたのかと驚く彼女に事態を説明する。
薬研が、私の正体に気づいているかもしれない。
正直に話す覚悟を失っていた私にとって、それは危機だった。おやつを持ってきてくれた時、薬研は「確認したいことがあってな」と言った。それはおそらく、というか絶対、羊羹のことだ。そもそもどうして彼が私に疑いをもったのかは分からないが、「一輪挿しの付喪神」の好物である羊羹が、私の好物でもあることを確認したのだ。こんなことなら、無理してでも嘘の好物を言えばよかったと後悔する。薬研が、“審神者”の私に好物を聞いてくるなんて思わなかったのだ。
「明日、みんなに顔を見せる。全然違う顔をしてれば、きっと薬研も勘違いだったと思ってくれる」
「まって、特殊メイクじゃないんだから
…
」
「大丈夫、ものすごく近付いたり、じっくり見たりしなければきっとバレないよ。あなたのメイクの腕は一流だもん。お願い」
「正直に話すって選択肢は無いの?」
「
…
っき、きらわれたく、ないの
…
」
こらえきれずに涙が零れた。一輪挿しとして別れを告げれば、薬研の恋人になることは、もう一生ないだろう。でも、騙したまま恋仲になるのは無理だった。本当に好きなのは自分のことではないという事実を抱えたまま、薬研と睦み合うことなんてできる気がしない。それに、今はバレかけている。このまま事態を放置して薬研が「一輪挿し=審神者」の結論にいきついてしまったら、主としての私まで薬研を失ってしまうかもしれない。
「
…
おねがい
…
」
「
…
わかったよ。でも、見せるのは明日なんだよね?今から顔作ったら、お風呂も入れないし
…
一晩経ったら崩れちゃうな。どうするか
…
」
情けない依頼のことを真剣に考えてくれる友人に「ありがとう」と頭を下げた。
とりあえず今は一旦帰って、夜中から朝方にかけて再び友人の元へ訪れることになった。付き添いで来てくれていた加州に事情を説明すると、ずいぶんと苦い顔をされた。
「主ってさ、頑張る方向違うよね」
「
…
返す言葉もございません
…
」
「ま、やるだけやってみたら?」
随分と投げやりな返事だ。でも、私はやるしかないのだ。
極力薬研との接触を避け、夕食とお風呂をさっさと済ませるとすぐ床についた。かなり早起きしなくてはならないし、肌の状態も心配だ。無理やり目を閉じて、眠れ眠れと念じているうちに出発時間となっていた。
「う~ん
…
まぁ。たしかに一見主には見えない
…
けど、うん」
やるなら徹底的にやる!と言い出した友人の手にかかり、カラコンを入れてアイメイクもばっちり、でも審神者としてみっともなくないよう気を付けた顔が完成した。似ても似つかないとまでは出来なかったが、髪をいじるとさらに印象が変わるという友人の言葉は本当で、アイロンで少し巻くと結構印象が変わった。これなら薬研に気づかれないだろう。
「ちょっとケバくない?」
「多少は目を瞑ってよ」
「それにさ、髪なんていつも巻いてないのはみんな知ってるよ?」
「気合入ってるってことにしてよ。事実気合入ってるんだし」
「う~~~ん」
一緒にきてくれた加州はずっと微妙な顔をしている。こっそりと本丸に戻り布をつけて、朝ご飯の支度をしている刀剣たちに声をかけつつ執務室に入る。早起きを珍しがられてしまったが、外に出ていたことはバレていないようだった。
「あの、皆さんにお話があります」
朝ご飯を終えて今日の業務連絡も伝えた最後、どきどきと心臓が音を立てる。少し声が震えてしまった。みんな、静かにこちらを見ながら次の言葉を待っている。前置きに、何か言おうかと思ったが、声が出なかった。
ええいままよ!と布をはぎ取った。広間がざわめきに包まれたのが分かる。緊張でじわじわと涙が出そうになるのをどうにか抑えて、声を張った。
「あの!今まで皆に顔を見せずに過ごしてきたけれど、気になっているみたいだし、私も、誠実じゃないなって、思ったので、その」
自分の言葉が空々しく聞こえる。何が、「誠実じゃない」だ。今やっていることだって、誠実さには欠けている。みんなは戸惑っているように見えた。薬研の方なんて到底確認できない。失敗だったか。不安と、焦りと、羞恥と恐怖が全身を駆け巡り、ぎゅっと手を握り締める。
「ちょっと、主が勇気だしたんだからさ、みんな何か言いなよ」
そう声をかけてくれたのは、隣に立っていた加州だった。涙目になって見上げれば、「しょーがないよね、ほんと」と笑った。
「あるじさんかっこいい!もっと可愛い感じかと思ってたけど、目元とか迫力すごいね!」
一番に駆け寄ってきてくれたのは乱だった。それから、短刀たちを始めとしてみんな順々に声をかけに来てくれた。「ちょっと化粧が濃いんじゃないかい?」と次郎太刀に言われたが、みんなの前に立つための自信なのだと、化粧についての自分の思いを吐露した。みんなそれぞれ受け止めてくれたようで、大変だから基本的には布をつけていたいという気持ちも汲んでくれた。
とりあえず今日一日は布を外して過ごすことになり、執務室での仕事はやめて外の仕事を手伝った。普段よりみんな話しかけてくれて、やはり顔が見える事って大切なんだと実感した。ちりちりと胸が痛む。これからも、布を外して過ごしたいと少し思った。でも、こんなメイクを毎日するのは無理だし、なにより薬研にバレる可能性が高くなってしまう。自分で自分の首を絞めすぎたのだ。
問題の薬研は、昼前にようやく話しかけてくれた。自分から近付いていく勇気はなかったので、彼から声をかけてくれて助かった。
「大将は、そんな顔だったんだな」
「うん、予想と違った?」
あまりしっかり顔を見られると気づかれるかもしれないと思い、なるべく正面にならないように隣に立って廊下を歩く。刀剣たちに「メイクで女の顔はかなり変わる」という知識は教えない限り無いはずだ。だから、きっと薬研にもバレない。それでも、緊張は止まらない。別人だと確信してほしいけど、早く立ち去りたい。そんな思いがない交ぜになって、叫びだしそうだった。
「あぁ、予想と違った」
「
…
そっか、それは
…
ごめん
…
?」
「いや、その顔が悪いってわけじゃねぇよ。むしろ、好みに近いぜ」
「えっ」
「なんてな」
じゃあな、と薬研は自分の仕事に向かっていった。ばくばくと心臓が音を立てている。緊張からの解放か、「好み」と言われて動揺したのか分からない。バレなかった
…
よね?薬研の反応からは検討をつけることが出来なかった。
「あ~~疲れた
…
」
ようやく夕飯までの時間が終わり、お風呂でメイクをすっかり落として湯船に沈み込んでいた。一日中顔を晒していることは落ち着かなかったが、みんなとの距離は近付いた気がするのでそれだけでも儲けものだ。これからはしばらく布で過ごして、折を見てまた顔を出せばいい。明日の予定を思い出しているときに、すっかり忘れていた重大な問題にいきついた。
「明日、薬研に会う日だ
…
!」
今日のはある意味下準備だ。明日が本番、薬研に「一輪挿しの付喪神」として別れを告げなくてはならない。なんて言うかしっかり考えておかないと、また頭が真っ白になってしまう。しっかりと言葉を頭にメモして、何回か練習してからお風呂を出た。
「すずしい
…
」
長く湯に浸かりすぎたようだ。春先の夜風が心地よい。メイクは落としたので今は布をつけているが、暑いから取ってしまいたい気分だ。そのままぼうっと立っていると、突然声をかけられて肩が揺れた。
「大将、何してるんだ」
「薬研。えっと、のぼせちゃったから風に当たってただけだよ」
そうか、気をつけろよと言った薬研は、小浴場の前に立つ私の横を抜けて大浴場の戸に手をかけた。そのまま中に入るのかと思ったが動かない。そのまま、探るようにこちらを見た。
「なぁ」
「ん、どうしたの?」
「大将は、赤い花は好きか?」
ひゅっと、のどが鳴った。焦るな、落ち着け。
これは、例の「確認」だ。
「
…
ううん。白の方が好きかな」
「
…
そうか」
にこっと笑って答えると、察したのか薬研も同じように笑って返してきた。そのまま、「風邪ひくなよ」と言って大浴場に入っていった。のぼせていた身体が一気に冷えた気がする。早く部屋に戻ろう。速足で廊下を通って、さっさと布団に潜り込み、今の出来事を頭から追い出すように目を閉じた。
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