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botanin5
2024-11-14 03:21:18
22478文字
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薬さに♀(小説)
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花一輪
顔を隠していた審神者が、自分を一輪挿しの付喪神だと名乗ってしまうお話です。
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「ねぇ、もう薬研と二人で会い始めて二週間になるけど、いつさよなら言うの?」
「わかってる
…
待って
…
分かってるの
…
」
「頭抱えても良い案出ないってもう実感してるでしょ。ちゃんと考えて」
「加州冷たくない!?」
「だって主が煮え切らないのが悪いんじゃん」と不服そうに答える加州の意見はもっともだ。薬研と会うのは昨日で八回目を迎えた。どんどん会うのが楽しくなってしまって、会えないと伝えにくくなっていた。
「だからさ、正直に言いなよ。薬研どう見ても好意的だし」
「だから困ってるんじゃん
…
」
「『本当は、私は審神者です。嘘をついててごめんなさい。あなたのことを好きになってしまって、言えなかったの』こう言えばいいんじゃない」
「
…
はっ!?え
…
かしゅ」
「好きなっちゃったんでしょ、薬研のこと。日中でもなんとなく目で追っちゃってるよ主」
「うそ
…
うそだ
…
。いや、そう
…
好きだけど
…
正直に言ったら、きらわれる
…
」
「観念しなって。土下座して謝れば許してくれるよ」
「さっきより重い!!!」
ぐずぐずしていると、行ってらっしゃーいと執務室を追い出された。ふらふら本丸の中を歩く。薬研を探さなくてはと思いながらも、見つからなければいいのに、と考えてしまって積極的になれない。
「
…
そうだ、一輪挿し、壊しちゃえばいいんだ」
物を扱う審神者としては、とても良い行いとは言えないが、このまま偽り続けているのも辛い。あの一輪挿しは、なんとなく部屋が寂しいからと量販店でいくつか買った安物だ。真っ白だったので、本丸が始まった頃に乱や小夜と一緒にそれぞれ色を塗った。入居者がくると移動するため、一輪挿しの存在を知らない者も多い。
「壊さないまでも、どこかに隠すとか
…
いや、それだと探しちゃうかな
…
」
ぶつぶつと独り言ちて歩いていると、件の空き部屋の障子が開いていることに気が付いた。そっと覗いてみると、黒い影がもぞりと動いて驚いた。薬研藤四郎が、一輪挿しに花を活けていたのだ。
「や、げん
…
何してるの?」
「ん?あぁ、大将か。ちょっとな」
「その花、薬研が?」
「あぁ、こういう花が好きなんだそうだ」
飾られていたのは、真っ赤なガーベラだった。歌仙が気に入って育てているもので、綺麗だから私も好きだった。薬研と二人で話していた時、赤いガーベラが好きだと伝えた記憶がある。
「好きって、だれが」
「
…
大将、実は
―――
」
実は、なに?どきどきと心臓が音を立てている。薬研が、私の伝えた言葉を覚えていて、花を摘んで、飾ってくれた。嬉しさで舞い上がりそうだ。一輪挿しを見る。その場所が、うらやましいと思った。
「
―――
実は、俺には好いているやつがいる。そのうち紹介したいんだが、時間をくれるか?」
「あ、うん」
「大将に迷惑はかけねぇから安心してくれ。人間相手じゃないんだ、面倒にもならんだろう」
ふっと、緩んだ顔で一輪挿しに目を向けた薬研に、足元が崩れる思いがした。そうだ、何を勘違いしていたんだろう。薬研は、「私」を好きなわけではない。「一輪挿しの付喪神」が好きなのだ。ふいに涙が零れそうになって、唇を噛みしめる。布が顔を隠してくれていて良かったと、心底思った。ぎゅうと手を握り締める。落ち着け、落ち着け。呼吸を整えて、薬研の様子を見る。今はこちらを見ていた。
「えっと、紹介っていうのは?」
「
…
あ、そうだな。娶る気でいるから、大将の了承が必要かと思ってな。この身体は貰いもんだし、戦が終わるか俺が死ぬまで住処はここだ。それが道理だろ」
「めとっ
…
!」
娶る!?娶るって、私の知識が正しければ、妻として迎えるという意味ではなかっただろうか。そんなことまで考えていたなんて思わなかった。会う回数を重ねていたとはいえ、恋人同士のような睦み合いではない。そもそも、「仲良くしたい」以上に「好きだ」や「付き合ってほしい」とは言われていない。
「それ、相手も了承してるの?」
「ん?いや、まだ伝えてない。俺自身、好きだって確信したのは最近だしなぁ」
「好き」という言葉に反応してしまう。何かを思い出したようにはにかむ薬研に、胸がきゅうと締め付けられた。握り込んだ手に爪が食い込んでいる。あぁ、苦しい。
「とりあえず、今言えるのはこれだけなんだ。報告が遅れて悪かった」
「いいよ、その、個人的な部分が大きいもんね。むしろ、教えてくれてありがとう」
「俺はもう少しこの部屋に残るが
…
」
「あ、そうなんだ。えっと、私は仕事に戻るね。その
…
頑張って」
あぁ、と優しく微笑んだ薬研の顔を見て、心臓はますます痛んだ。再びふらふらと廊下を戻りながら、静かに涙が零れていくのを放っておいた。全部自分が悪いのだ。薬研を好きになってしまったのも、一輪挿しだと嘘をついたのも、顔を隠して生活していたのも、早くから化粧を始めなかったのも。全部全部、自分の選択ミスだった。
薬研に諦めてもらうことが、正しいのか分からなくなっていた。正直に話した方が良いに決まっている。でも、嫌われるのが怖かった。それならやはり、一輪挿しとして別れを告げて、審神者としては月に一回顔を見せることが、一番傷が少ない案に思えた。薬研にとって、好いた相手に振られることと、本当は相手が人間で、さらに言えば仕える主であることの、どちらが辛いことなのだろうかと考えた。全然想像がつかない。仮に審神者であることを告げたとして、怒られるだけならまだしも、もし「もう信頼できないから刀解してくれ」と言われたら、私は今後をのうのうと生きていく自信はない。
薬研とこうして会うのは九回目だ。前日の衝撃的な報告から一日経って、少し余裕を持てていた。どうしたらいいのか、決めることができないままここへ来てしまった。もう、考えるのが辛かった。
「お花、ありがとうございます。覚えていていただけて、嬉しいです」
「貰いもんだけどな。喜んでもらえたなら、歌仙に譲ってもらったかいがあったぜ」
「今度は自分で咲かせたもんを贈る」と、にっと笑う薬研が眩しい。今日の茶菓子は羊羹で、私の好物ばかりを用意していることに胸がいっぱいになった。好きだ。好きだなぁ。薬研が、私のことを好きならいいのに。じわじわと涙が出そうになって、今は布がないのだからと焦ってこらえる。ぎゅっと手を握り締めていると、薬研の手が伸びてきてそっと包んできた。
「なぁ、大事な話をしていいか?」
まずい。背筋が伸びる。自分の目が揺れたのが分かった。動揺したらだめだと分かっているのに、これから述べられる言葉に予想がついていて、体が震える。
「俺は
…
あんたのことが好きだ。最終的には娶ることも考えてる。恋仲になってほしい」
「だめですっ!」
咄嗟に声がでた。思わず、握られていない手で口を押えた。焦りすぎた。薬研は驚いた顔をしたが、すぐに真面目な表情になる。どうしよう、怖い。好きだという言葉が、こんなに自分を傷つけるとは思わなかった。薬研は、私に言っているわけじゃない。
「ここ数日、俺はあんたと過ごせて楽しかった。あんたは違ったのか?」
「わ
…
私も、楽しかった、です。でも、好きとか、そういうのはっ」
「これからでいいだろう。はじめから、完全に思いが通じ合ってるなんて稀なもんだ。好きになった方が、振り向かせるために努力するのが恋だろう」
「は、」
薬研の口から、「恋」という単語が出るとは思わなかった。
「思いが通じ合ったら、そこにあるのは「愛」だろ。それは二人で育てていけばいい。くさいことを言ってる自覚はあるさ。でも今は、笑わずに聞いてくれ。まずは、思いを通じ合わせるところからはじめるんだ。俺は、あんたに恋をしている。だから、可能性があるなら頷いてほしい」
「っ
…
」
両想いになってから恋人同士になるものだ、と考えていた私の常識は覆された。自分の手に力がこもる。この気持ちに答えたい。これが、私宛の言葉だったら、どれだけ嬉しいだろうと思った。でも、薬研が見ているのは「私」ではない。彼が恋焦がれているのは、彼と同じ“物”である、「一輪挿しの付喪神」だ。握る自分の手に、力がこもる。
「っか、考えさせて、ください」
「
…
分かった」
また、先延ばしにしてしまった。背中がどんどん重くなってきている気がした。私は何を背負っているんだろう。もうよく分からない。薬研は何かをじっと考え込んでいた。
再び会うのは、三日後に決まった。時間が欲しいとお願いしたのだ。
「いい返事を期待してるぜ」
そう言った薬研の顔は、今までにないくらい真剣で、自分の嘘をますます重い罪だと感じた。
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