botanin5
2024-11-14 03:03:53
17941文字
Public 薬さに♀(小説)
 

早起きは三文よりお徳。

ハッピーエンド
イタズラで信濃の布団に潜りこんだけど、そこに居たのは信濃じゃなくて――






広間に着くと宴会は半分始まっているようなもので、次郎太刀や日本号はほぼできあがっていた。彼らは年中できあがっているようなものだが、酒の進みが早いのはさすがである。薬研は不動や宗三に捕まってしまったので、台所へ行って料理を運ぶ手伝いをした。いそべ餅のいくつかに、ワサビを仕込むのを忘れない。今日は誰が引っかかってくれるかなぁ!

「みんな、コップ持った?じゃ、かんぱ~い!!」

かんぱーい!という声とともに、そこかしこでかちかちとコップのぶつかる音が聞こえる。わいわいと話しながら、みんな食べ物に手を伸ばす。お餅はとても美味しい。私はきな粉のおはぎが一番好きだ。きな粉のおはぎがたくさん乗ったお皿の前を陣取る。

みんなお酒がまわり始めて、ついに山伏と岩融が脱ぎだした。飲み会で恒例となってしまった、腕相撲が始まるのだろう。でっかい男に憧れる後藤や愛染は、キラキラと目を輝かせ、机の周りを急いで空ける。審判は鶴丸だ。彼の隣にいた鯰尾が突然、水ー!と叫んだので、ワサビが当たったのかもしれない。みんなが腕相撲の周りに集まり始めたので、少し離れたところに座ってキュウリの浅漬けに箸を伸ばす。すると、信濃が盛り上がるみんなの間をぬってのそのそとやってきた。

「たいしょ~何食べてるの?」
「ん?キュウリ!おはぎばっかり食べてたら、口の中が甘くなっちゃって」
「俺も食べる!あーんして?」
「ほいほい、あ~ん」

あ~んと開けられた信濃の口に乱切りにされたキュウリを放り込む。もぐもぐと口を動かす様子は可愛い。自分ももう一つ、とキュウリを口に含んだところで、ごくんと呑み込んだ信濃が口を開いた。

「ねぇ大将、新しいお札はいつ届くの?」
「んん!?けほっんぐ」
「大丈夫?」
大丈夫、お札?あ~そっか

気配を消してくれる、不思議なお札。薬研と無事に和解できたことだし和解以上の結果になったけどひとまず、お布団に潜り込む遊びを止める理由は、なくなったのかもしれない。

「今夜寝る前に注文しとくよ。明後日には届くんじゃないかなぁ」
「やった!じゃあ、また俺たちもあみだくじするから、大将は―――
「だぁめだ」

突然、どん、と目の前の机に登場した酒ビンに私も信濃も驚いて固まる。ビンは置かれていた料理皿にぶつかって、がしゃんと大きな音を立てた。腕相撲に盛り上がっていた面子も、音に驚いて動きを止めて、こちらを向く。あれだけ騒がしかった広間を、静寂が包んだ。見上げれば、薬研が笑顔でこちらを見下ろしている。いや、笑っているけど、笑ってない。怒っている。これは、怒っている。

「大将、そういや俺は、大事なことを言ってなかったな」

大事なことってなんだ。私はまた、怒らせるようなことをしたのだろうか。ちらりと正面に居る信濃に視線をやると、彼は薬研を見上げてぽかんとしている。助けは望めない。もう一度薬研の方を見ると、彼は私から視線を外して、みんなの方を見ていた。

「盛り上がっていたのに悪いな。ついでだからこのまま言わせてもらおうか」

ごくりと思わず息を飲む。口の中はキュウリの味がした。

「俺は、大将に惚れてる。」

誰も動かなかった。
いや、動けなかったのだと思う。それだけ、薬研の声も、まなざしも、伸ばされた背筋も、今言ったことが本当だと表していたのだ。再びこちらを向いた薬研は、淡く頬を染めて柔らかく微笑んだ。

「大将が好きだ。」

あんたはどうだ?細められた瞳はそう述べていた。どきんと心臓が音を鳴らす。ずるい。ずるいよ。突然言われても頭は追い付かないし、みんなの前でなんて恥ずかしい。何より、私さっき好きって言ったし。でも、薬研の本気は痛いほど伝わった。

「私も、薬研が好きだよ!!」

言いながら立ち上がって、飛び込んだ。薬研はしっかりと私を支えて、抱きしめてくれた。
一拍おいて、ぱちぱちという骨喰のまばらな拍手に始まり、だんだんその音は大きくなって、乱の「おめでとー!!」という言葉から、次々と歓声が飛んだ。すごく恥ずかしい。でも、幸せだ。薬研の顔を見れば、嬉しそうに笑っている。

―――と、言うわけだ。大将がお前らの布団に潜り込むのは、もう無しだからな」

信濃や今剣がえぇー!と頬を膨らませたが、まぁ仕方ないかとすぐに諦めてしまった。私もちょっぴり残念だけれど、薬研が妬いてしまうんだろうなと思ったら嬉しくなったので、大人しく引き下がることにした。
薬研の公開告白によって宴会はさらに盛り上がり、歌仙がせっかくだからと台所からさらにお酒を持ってきたことで最高潮を迎えた。私は加州と乱に捕まって、いつから好きだったの!?と詰め寄られ、すっかり白状させられる頃にはもう夜も更けて、眠たくなっていた。

「あるじさ~ん?もう眠いの?」
「乱もう勘弁してぇ
「仕方ないなぁ。ほら立って!部屋まで送ってあげる」
「うん

半分閉じた瞼で、乱に腕を掴まれるままに立ち上がる。加州は主、おやすみ!と可愛い笑顔を見せてくれたので、おやすみ~と返し、乱に手を引かれて廊下へと向かう。

「あ、おい!待て乱。大将は俺が」
「おいおい薬研、俺はまだ君の話を全部聞いちゃいないぜ?」
「もういいいだろ、放せ鶴丸!」
「いやいや、まだ君を開放することはできないなぁ」
「あるじさんはボクがちゃ~んと送り届けるから、安心して鶴丸さんに捕まっててね!や・げ・ん♡」
「おい待て!」

あはは!と笑う乱と共に廊下へと出た。頭はほぼ眠っていて、みんな楽しそうだなぁとぼんやり思う。廊下はひんやりとしている。繋がれた乱の手だけ、温かい。ぺたぺたとスリッパを鳴らして進む。

「ボク、残念だなぁ」
「なにが?」
「あるじさんがお布団に来てくれなくなっちゃうこと!ボクのところに来たのは、結局一回だけだったね」
「まぁ、くじみたいなものだったし。私も、これで誰のお布団にも遊びに行けなくなっちゃったのは寂しいよ」
「やだなぁ、あるじさん。行けるお布団、ひとつだけあるでしょ?」
「え?」
「薬研のお・ふ・と・ん♡」
「はぁ!?」

乱はひらりとこちらを向くと、にやり、と笑った。

「いやいやいや無理!無理だよ!何言ってるの!?」
「えぇ~?だって、薬研もさっき言ってたじゃない。『大将が”お前らの”布団に潜り込むのは、もう無しだからな』ってさ!」
「あれは!そういう意味じゃないと思うけど!?」
「え~?そうかなぁ~?」

楽しそうに笑う乱には勝てる気がしない。考えてみれば、薬研と私はりょ、両想い、な、わけだし……薬研の布団ならば、潜り込んでも許されるのか?
私が少し迷ったのを、彼は見逃さなかったようだ。

「そうと決まればしゅっぱーつ!」
「何も決まってないんですけど!!」

ぐいぐいと手を引かれながら、薬研の部屋の前まで連れてこられてしまった。木札には『薬研藤四郎』という名前が書かれている。今まで、入ることができなかった場所が目の前に。薬研の部屋入ってみたい。でも、薬研は今、広間だし勝手に入るのは。でも。

「もう、あるじさん!早く入って!」

煮え切らない私にしびれを切らしたのか、乱は横から手を伸ばして障子をすぱーんと開けると、無理矢理私を押し込んだ。

「お布団は左側の襖の中!じゃあボクは広間に戻るから!あるじさん、おやすみ!」
「えっちょ、まっ」

すたん。
無情にも障子は閉じられてしまった。すんと鼻を鳴らせば、少し燻った植物の香りが肺いっぱいに入り込んでくる。うわ。薬研の部屋だ、ここ。とうに分かりきっていることを再認識する。
ゆっくりと、部屋を見回す。物はあまり多くない。本が三冊ほど文机に置いてある。書庫から持ってきたのだろう。明かりのついていない行燈。いつも、これに明かりを灯して本を読むのだろうか。薄暗い部屋の中、そっと文机に近寄って座椅子へと腰かけてみた。自分の座椅子とは座り心地が違う。これが薬研の椅子。そっと、置いてある本の一つに手を伸ばしてぱらぱらと開いてみたが、暗くて何の本なのか分からなかった。でも、きっと薬や人の体に関する本だろう。薬研はいつも、そんな本ばかり選んでいた。

適当にページをめくっていると、ぱらりと何かが落ちた。

「やば!」

廊下には誰の気配もない。おそらく、まだみんな広間に居るのだろう。そっと机の横に置かれていた行燈に明かりを灯して、落としてしまったものを拾い上げた。

花びらの、しおり」

頑丈な和紙に数枚の花びらが貼りつけられていた。これには、見覚えがある。

「私が、屋根から落ちた時の

間違いない。どうして薬研は、この花をしおりにしているのだろう。考えていたらなんだか落ち着かなくなって、しおりを戻して本を閉じた。そうだ、布団。お布団を出そう。たしか、乱は左の襖と言っていた。言われたとおりに襖を開ければ、白い布団が目に入った。腕を突っ込んで、勢いよく引っ張って布団を取り出す。ふわっと、薬研の匂いが強くなって、なんだか緊張してしまう。
部屋の真ん中に布団を敷き終えた。やりきってしまえばなんだかワクワクしてきて、ばふっと布団に飛び込んだ。薬研の匂いだ。明かりを消して、布団に潜り込む。薬研、びっくりするかな。怒りはしないだろう。たぶん。薬研の匂いに包まれるのは、緊張するけど、落ち着く。
そんなことを考えているうちに、私はゆっくりと眠りに落ちていった。