botanin5
2024-11-14 03:03:53
17941文字
Public 薬さに♀(小説)
 

早起きは三文よりお徳。

ハッピーエンド
イタズラで信濃の布団に潜りこんだけど、そこに居たのは信濃じゃなくて――






ひやりと背筋に風が通った気がして、少し意識が浮上する。遠くでうっすらと刀剣たちの喧騒が聞こえる。宴会の時間になれば、きっと歌仙が起こしに来てくれるだろう。もうすこしもう少し寝たいな。こたつ、あったかい。今、何時だろう。もぞもぞと寝返りをうってぼんやりと目を開けると、目の前にさらりと流れる黒髪。

あれ?薬研
……もしかして、これ夢?

ぼーっと目の前を見つめる。薬研が、私の隣で寝ている。寒いもんね。薬研もこたつに入りに来たんだ。薬研と仲直りしたいって考えてたから、夢にまで出てきてしまったのか。

薬研の首から下はこたつの布団に埋まっている。それは私も同じで、狭い場所に二人で隠れている気分になった。いつも掛けている眼鏡は無い。髪はさらさらと頬を撫でている。閉じられた瞼から伸びるまつ毛は、短めだ。肌、きめ細かいいつもより色は健康そうに見える。こたつに入っているからだろうか?ぐっと足を伸ばすと、何かに触れた。おそらく、薬研の足だ。ちょっとだけ。夢の中なら大胆なことだってできる。薬研の足に自分の足をぴたっとくっつけた。薄く開いた唇は浅い呼吸を繰り返している。じっと、観察する。起きる気配はない。都合のいい夢だもの。このまま起きないのかもしれない。すす、と顔を少し寄せた。こんなに近くで薬研を見るのは初めてだ。そのまま、吸い寄せられるように、そっと口づけた。ぱっと顔を引くと、だんだん顔が熱くなる。ふにってした。すごくリアルだな。ちょっとリアルすぎないか。これ夢だよね?……夢だよね?

ばっと足を引くとこたつの脚にぶつけてしまった。痛った!!あれ?待って?これ、夢じゃなくない!?
頭が茹って熱くなる。

うわ、私、とんでもないことした!!!

一気に目が覚めて、夢じゃないことに愕然として、手をついて身体を起こすと、急いで逃げ出そうとこたつから身体を出した。

「逃げんなよ」

こたつから出ていた腰をがっと掴まれて、勢いよくこたつの中に戻される。ぐるりと身体を回されて、ほっぺたを絨毯にぶつけた。驚いて閉じた目を恐る恐る開ければ、先ほどまでぐっすり眠っているように見えた薬研がこちらをじっと見つめていた。起きてたのか!私たちは再びこたつで横になっている。その距離こぶし二つ分。近い。いや、さっきの方が近かったけど。近い。
自分の顔が熱くて、きっと面白いくらいに真っ赤だ。じわじわと涙がにじんでくる。

「ややげ、ごめんなさ」
「違うだろ」

薬研は視線を逸らさない。違う?なにが?じゃあ、なんて言ったらいいんだ。今、言う事は薬研の布団にだけ入らなくて、ごめん?違う。「ごめんなさい」は違うんだ。薬研の目を見つめ返す。何が違うのかわかんない。薬研が両手で私の頬を包んだ。ゆっくりと顔が近づいてくるので、思わず目を瞑る。唇が柔らかく触れて、二回ほど食まれた。目を開ければ、視界はゆらゆら揺れる灰紫でいっぱいになっていて、こつんとおでこに薬研のおでこが触れた。

……薬研すき」
「正解」

ぽろりと落ちた涙にふっと笑った薬研は、今度は私の瞼に口づけた。

こたつで横になったまま、がばっと勢いよく薬研に抱き着く。ただでさえ、こたつの中にいて暑いのに、薬研の体はもっともっと熱かった。優しく抱きしめ返してくれたので、首元にすりすりと頭を埋める。

「薬研、あの、ごめんね。私ずっと恥ずかしくて、薬研の布団に潜り込むのなんて無理って思ってたから、カード、当らないようにしてて」
「やっぱりなぁ。秋田なんか三回も大将が来たって言ってたのに、俺の所にだけ来ないからおかしいなとは思ってたんだ」
「ショックだった?」
「そりゃなぁ。夜も眠れなかったぜ」
「うっだよね自分の所にだけ主が来ないなんて、傷つくよね
「っふ、冗談だよ。俺は全然、これっぽっちも傷ついてなんかねぇさ」
「えっ」

驚いて、少し顔を離して薬研を見上げる。目が合うと、彼は意地の悪い笑みを浮かべた。

「大将が俺の事を意識してんのは分かってたからなぁ。メシの時にいつも俺の後ろに座るのも、出陣で手を合わせる時にちょっと力が抜けてんのも、偶然を装って俺に会いに書庫に来てたのも、健気で可愛らしかったぜ」
「ん、な!気づいてたの!?!?」
「あんだけ熱い視線を送られたら気づく」
「うあぁぁぁぁ穴があったら入りたい

もぞもぞとこたつに潜り込む。恥ずかしい。隠せていると思っていた恋心は、本人にすっかり筒抜けだった。何てことだ。なんともまぬけだ。ひょっこりとこたつから目まで出して、じとっと薬研を睨む。

「じゃあ、なんで昨日の朝、悲しそうに『俺の所には来てくれないんだな』なんて言ったの。私、薬研のこと傷つけちゃったと思ってすっごく悩んだのに」
「言っただろ、拗ねたんだよ」
「はっ?」
「寝てたら布団の中で急に気配を感じて、やっと俺のところに来たかと思ったらすぐに出て行きやがるし。いい加減腹に据えかねたんだ」
「だってあんなの不意打ちじゃんずるだよ」
「大将が俺のカード抜いてたのはずるじゃねぇのか」
「う」

ずるでしたと再びこたつに潜り込めば、薬研がくつくつと笑うのが聞こえる。こたつの中は夕焼けのようなオレンジ色だ。自分の足の隣に、薬研の足がある。つま先でつん、とつつけば、両足で挟まれた。思わずふふ、と笑ってしまう。すると、ぱちんと真っ暗になった。丸めていた背を伸ばして、こたつから顔を出す。

「そろそろ宴会が始まるんじゃねぇか?こたつの時間は終わりだ」
「もうそんな時間か~こたつあったかかったのに
「大将、一生懸命餅ついてたじゃねぇか。せっかくなんだからたくさん食えよ」
「薬研、私の餅つき見てたの?」
……まぁな」

ふいっと視線を逸らした薬研の耳は、ほんのり赤く見えた。