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botanin5
2024-11-14 03:03:53
17941文字
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薬さに♀(小説)
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早起きは三文よりお徳。
ハッピーエンド
イタズラで信濃の布団に潜りこんだけど、そこに居たのは信濃じゃなくて――
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日課となっていた布団への潜り込みが、信濃の部屋で眠る薬研の登場で未遂に終わったので、時間を持て余した私は早めに台所へ行き、ひたすらお米を研いだ。冬場はつめたい水を使うため、みんなお米を研ぐのを嫌がってジャンケンになるのだ。落ち着きなくぐるぐる回る頭に合わせるように、お米に突っ込んだ手を回す。本当はそんなにしつこく洗わなくていいのに、ついつい熱が入って水が濁らなくなるまで洗いきってしまった。燭台切に怒られるかもしれない。
「ちょっと大将~~!!」
「おわぁ!!」
水を入れて炊飯器にお米をセットしたところで、後ろからのしかかられた。勢いで揺れて倒れた蓋に手を挟んだ。ちょっと痛い。時間を決め、ぽちっとスイッチを押して振り返ると、ぷくっと頬を膨らませた信濃がいた。かわいいな。
「おはよう信濃!」
「おはよ!
…
じゃなくて、大将なんでここにいるの!?いつもなら、まだ誰かの布団に潜り込んでる頃じゃん」
「
…
えーっと、たまたま?」
「ええ~!今日も来ると思って、俺たちも仕掛けてたのに!」
「
…
何を?」
「今日はさ、大将をびっくりさせようと思って、短刀たちであみだくじをして寝る部屋を変えてたんだよね。俺は博多の部屋で寝てたんだ~!」
で、厠に起きたら大将を見つけたの。と楽しそうに述べた信濃に、心の中で頭を抱える。そ、そういうことかーー!薬研が信濃の部屋で寝ていたのはこのせいか!確かに、大いに驚かせていただいた。普通に引っかかっていたのならば、なんで君がここで寝てるんだー!と笑って楽しく済んでいた事だろう。しかし、引きが良いのか悪いのか、薬研が眠る部屋を引いてしまったことで、いつもと違った行動をとるはめになってしまった。怪しまれては大変だ。
「
…
まだみんな寝てるかな?信濃、今から一緒に行く?」
「いいね、楽しそう!でも、二人も布団に入ったら、流石にばれちゃうんじゃない?」
「大丈夫大丈夫、このお札があれ
…
ば
………
あれ?」
「どうしたの?大将」
ポケットに手を入れて、有るはずのものがその手に触れなくて、背中を嫌な汗が伝っていく。
うそ。お札。無い。
ぐるぐると頭が回る。落とした。落とした?まずい。どこに落としたんだろう。気配を消すだけで、姿を消してはくれないお札は、なんとド派手な黄色である。無くさないように自分で色を選んだ。落としていたら、絶対に目につくのだ。信濃の部屋に落としていたら?薬研に見つかる。お札の存在はみんなが知っているし、部屋に入ったことは当然ばれる。おそらく、布団に潜り込むのを止めたことも。
「
…
大将?ねぇ、どうしたの?」
「おふだ
……
お札、落としちゃった
…
」
「えっ、あの黄色いやつ?」
「うん
…
あれないと、もうお布団に潜り込めない
…
」
「大変じゃん!探そう!心当たりある?」
「
…
えっ
…
と
…
」
信濃の部屋に落としたかも!なんて事は、言えない。
分からない
…
と呟いたところ、じゃあ台所から部屋へ戻りながら探そうということになった。厠に起きただけの信濃は、薄着で少し寒そうだった。ジャージの上を脱いで差し出すと「へへ、大将だいすき」と嬉しそうに笑って袖を通してくれる。二人でぺたぺたとスリッパの音を鳴らしながら廊下を進むと、今日の朝食当番とすれ違ったので、おはようと挨拶を交わした。そろそろみんなが起きだしてくる時間になっていたようだ。
目を凝らさずとも見つかるはずのド派手なお札は、一向に見つからない。本当に、信濃の部屋に落としてきてしまったのかもしれない
…
信濃が部屋に戻る前に回収するにはどうしたらいいだろう。そして、薬研が起きる前に。というか、もう起きてたらどうしよう
…
。考えても考えてもいい案は浮かばない。ついに自分の部屋に着いてしまって、信濃が先だって障子を開けた。
「なんだぁ~!大将、机の上に置いてあるよお札!」
「
…
えっ!?」
「ほら、これでしょ?」
さっと部屋に入ってすぐにまた顔を出した信濃の手元を見る。それは、間違いなく探していたお札であった。どうして、どうして部屋にあるんだ?
「大将ってばうっかりさんだね。これが無かったら、流石に大将が部屋に入ってきたの分かっちゃうよ」
「あは、うん、だよね~
…
」
「どうしたの?」
どうしたもこうしたもない。
私は、部屋を出る時に絶対このお札を持っていた。これには自信がある。しかし、お札は部屋にある。つまり、ここから導き出される答えは、一つ。
「よう、部屋の前で何してるんだ?」
あ、おはよう!と笑顔になる信濃。しかし私は声がした方を向くことが出来ない。いつもなら、声が聞こえるだけでドキドキして、身体がぽかぽかしてくるのに。いや、ドキドキはしているのだが、ひやりと体は冷えていく。薬研がいる。固まる私をよそに、信濃は薬研の前に出ると、楽しそうに話し始めた。
「大将が、いつものお札忘れちゃって。今日は布団に潜り込まずに台所でお米研いでたんだよ~!せっかく俺たちもドッキリ仕掛けてたのにね」
「へぇ、そいつは残念だったな」
「薬研は俺の部屋で寝てたんだよね?俺の布団、寝心地よかったでしょ」
「甘ったるくて寝つけなかった。あぁそうだ、布団。畳んで押し入れに突っ込んでおいたぜ。お前もそろそろ戻った方がいいと思うぞ。博多はもう起きてたからな」
「えっ!本当!?大将、俺もう行くね!明日の朝はちゃんと潜り込みにきてよー!?」
信濃は貸していたジャージをぱっと脱ぐと、コレありがと!と言いながらお札と一緒に私へ押し付けて颯爽と駆けて行った。待って!お、置いていかないで!!心の声も空しく、曲がり角へ消える信濃の背中を見送る。
「たーいしょ。おはよう」
「
…
おはよう」
挨拶されては無視できない。ぎぎぎとオイルが足りないロボットのように薬研の方を向けば、優しく微笑んだいつもの薬研がいた。それを見て、少し肩の力が抜けたのに、一歩こちらに踏み出されたことで再び肩に力が入る。薬研は、信濃に渡されたまま抱えていたジャージに挟まったお札をぴっと取った。
「これな、俺が拾ったから届けておいたんだ。」
「そ、そうだったんだ~!いや、ほんとうっかりだよね私!次からは気を付けるよ!ありがとう!!」
言いながら、お札を取り返そうと薬研の方へ手を伸ばすがすっと避けられてしまう。
お札、拾ったのか
…
。部屋だろうか。それとも、廊下に落としていたのだろうか。薬研が寝ていた部屋から台所へ向かったわけだし、彼が途中で拾っていてもおかしくはない。
考えながら再びお札を取り返そうと手を伸ばすが、薬研は一向に返す気配を見せない。苦戦していると、ふっと薬研が笑ったので、だんだん悔しくなってきた。ジャージを放り出してえいっと薬研の方へ飛び込むと、お札を持つ右腕に両手でしがみついた。ふふふ、これでもう動かせまいとドヤ顔を決めてお札を掴むと、不意に背中へ腕が回った。
「っひぇ!?ちょ、薬研」
「なぁ、大将」
「
…
っ」
そのまま横から抱き込まれて、耳に直接声が吹きこまれる。少し燻った植物の香り。朝を思い出して、さらに、抱きしめられている現状に体が動かなくなる。背はそんなに変わらないはずなのに。自分が、ふるふると小刻みに震えているのが分かる。恥ずかしい。放してほしい。抜け出したいのに、だんだん縮こまる私はまるで掴んだお札に縋っているようだ。薬研が楽しそうに笑っているのが分かる。
「このお札、どこで拾ったと思う
…
?」
「
…
ぇ
…
えっと、廊下
…
?」
「はずれ」
「う、ちょ、息かけないで
…
」
「
……
答えは
―――――――――
布団の中」
「えっ」
驚いて、思わず薬研の顔を見れば私を囲んでいた腕が解かれた。よろよろと数歩下がる。さっきまで真っ赤だったであろう私の顔は、一瞬で真っ青になったことだろう。まさか、そんな、一番まずい場所に落としていたなんて。布団の中に落としていたならば、部屋から出ていくところなんて、気配がばればれだったに違いない。タヌキ寝入りをしていたのだ。この短刀は。
「起きてたの
…
?」
「大将は」
少し視線を下げた薬研は、寂しそうな顔をしていた。
「大将は、俺の所には来てくれないんだな」
寂しそうな顔のまま、寂しそうに笑った薬研に、何も言うことが出来なかった。違うの。そうじゃなくて。言い訳じみた言葉が浮かんでは消える。薬研と視線を合わせたまま、震える口からは掠れた息しか出てこない。
「
…
悪いな、困らせるつもりは無かったんだ。ちょっと拗ねてみただけだ。気にすんな」
今度は困ったように笑って、じゃあ後でなと振り返って食堂の方へ行ってしまった。へたりとそのまま座り込む。どうしよう、どうしたら良かったんだろう。『短刀』という枠を決めていたはずなのに、自分の元にだけ私が来ないことに、薬研は傷ついていたんだ。考えてみれば、当たり前だ。薬研が好きで、緊張するから無理だなんて私の勝手な言い分で、薬研からしたら、主が自分だけを避けているという事にしかならない。失敗した。やってしまった。
…
嫌われてしまっただろうか。
じわじわと涙が集まってくる。
ぽたりとひとつ落ちて、拾ったジャージに染み込んだ。
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