botanin5
2024-11-14 03:02:11
18681文字
Public 薬さに♀(小説)
 

終わりよければ全てよし

ハッピーエンド
「好き」に振り回されるお話です。





晩御飯の時間がとっくに過ぎても、薬研は顔を出さなかった。どうしよう。もしかして、謝った方が良かったのだろうか。でも、何を?粗末なものを見せてごめんなさいとか?なんだか違う気がする。薬研の分の食事は、骨喰が持って行ってしまった。会いに行く口実はすっかり無くなった。悩んでいても仕方ない。とりあえず、今の状況を吐き出してしまいたい。廊下を進む足は、自然と三日月の部屋へ向かっていた。

ということがありまして」
「ふむまぁ、あやつも男だったということだ」
「うん?」

薬研は性別で言えば男だろう。風呂場での出来事を説明してから一人で納得している三日月に、こちらは納得がいかない。とにかく、私はこれからどうしたらいいのか。それが問題だった。うんうんと悩んでいても、三日月は具体的なアドバイスをくれない。

「薬研ってお菓子で釣れないし物を買い与えるのもなんだか違うしどうしたらいいんだろう。あ、その前に、今避けられてるんだから、やっぱり謝った方がいいのかな?ね、三日月、聞いてる?」
「そうだなぁ

聞いてはくれてるみたいだけど、考えてはくれないようだ。再びう~ん、と考え込んでいると、突然三日月に腕を掴まれた。はっ?声も上げられずにいると、ぐいっと引き込まれて腰に手が回る。そのまま身体を倒されて、畳に頭をぶつけた。いった!思わず目を瞑ると、畳をする音がして、三日月の気配が近づいたのを感じた。目を開けば、私に馬乗りになって見下ろしている。え?なに?どうしたの?

「みかづき?」

しーっと口元に指をやる彼に、思わず黙る。三日月に見下ろされるのは初めてだが、なかなかに威圧感がある。顔がよく見えて、目が綺麗だ。でも、なんで急に?頭にハテナを浮かべていると、三日月は突然、いつもより声を張って脈絡のない事を言い出した。

「なぁ、主よ。俺にすればいいだろう。いつまでも自分の気持ちに気づかないのろまはやめてしまえ。俺の方が、お前のことを分かっている。やつよりずっと。そうだろう?」
「えっ、三日月、突然なに」

「大将を離してくれ」

ひゅぅと部屋の温度が下がった気がした。
いつもよりずっと低いが、この声、薬研?視界は未だ三日月で占められていて、周りの様子は分からない。誰かが入ってきた音なんて、全く聞こえなかった。少し、背筋が凍る。

「さすがは短刀と言ったところか」
「大将を、離せ」
「落ち着け。俺にその気はない」

三日月がやれやれと起き上がったことで、ようやく視界が広がる。部屋にいたのはやはり薬研で、三日月に向けて自身のハサミを向けていた。

「薬研、いつ来たの?」

呆然と見つめていると、二人の肩の力が抜けたのが分かった。三日月は再び座椅子に腰をかけて、薬研はハサミをそっと仕舞った。

「ずいぶん時間がかかったな」
世話をかけたな。」
「はっはっは、気にするな。さっさと連れていけ。二度目はない」
「分かってる。行くぞ、大将」
「へっ?ええっ!?」

がしっと手を掴まれて立たされると、引きずられるように部屋を出た。やっぱり怒っているように見える。どうしようどうしよう。ずんずんと廊下を進み、渡り廊下も通り過ぎた。どうやら執務室に向かっているようで、この時間だとひと気がない母屋にますます緊張が高まる。やばい、こ、ころされる。怖くなって足を留め、薬研の手をぎゅっと引いた。

「ごめんなさい!!!」
「はっ!?」

思っていたよりずっと大きな声が出てしまい動揺するが、薬研も同じだけの音量で驚いた声を返してきた。周りに誰もいなくてよかった。

「あの!えっと、何を怒ってるのか分からないけど、その、お風呂場のことだったら、私、入浴中の札を提げてなかったなって、だからその、ごめん!」
「待て大将、違う。そうじゃねぇんだ」

ばっと頭を下げて謝った私の肩に手を置いて、薬研は身体を起こそうとしてくる。違う?じゃあ何だろう。考えて、そういえばそもそも今日は近侍も交替していたのだと思い出した。ならば、朝か。私は朝ごはんの時になにかやらかしたのか!?

「じゃ、じゃあ、ご飯の食べ方が汚かったとか!?それともオクラをこっそり残したから!?」
「だぁから違うって言ってんだろうが!!」

勢いよく肩を掴まれて、下げていた顔を上げさせられる。そのまま押されて壁に背中がついた。ようやく薬研と目が合う。

「じゃあなんで怒ってるの?」
「怒ってない」
「嘘だ」
違うんだ、大将。俺は

言いよどむ薬研をじっと見つめる。薬研の肩越しに、月が見えた。今夜は三日月だ。きらきら輝く三日月に、なんだか勇気をもらった気がした。肩を掴んでいる薬研の手をそっと取って握りしめる。少し驚いた顔をした薬研の顔は、ほんのりと赤い気がする。大丈夫。不思議と落ち着いていた。

「ねぇ薬研」
なんだ」
「私ね、薬研のこと、好き」

ひゅっと彼が息を吸うのが分かった。薬研は、まだ私のことを好きだと勘違いしているのだろうか。それでもいい。勘違いでもいい。薬研の手を取れるなら、なんでも利用してやる。薬研が動かないのをいいことに、握る手にぎゅっと力をこめて、顔を寄せた。目を閉じて、彼の唇に自分のそれで触れる。いち、に。そっと数えてゆっくりと離れた。握る手の力を緩めて、瞼を開く。目が、合った。

っんむ!?」
はっっ」

息を吸うのもままならないまま、勢いよく食いつかれた。驚いて閉じた口をなぞるように舐められる。目を白黒させていると、わき腹をがっと掴まれて驚いて口が開いた。すかさず熱い舌が入り込んでくる。も、息ができない、できない!涙目になって、薬研の背中をばしばし叩いた。じゅっと舌を吸われる。

「っは、はぁっ、げほっやげなに
「はっ、わるい、大将」

涙でゆらゆらと瞳が揺れた。ぼんやりと夜空の三日月が視界の端に映る。まるで笑っているように見えた。それを隠すように、薬研に抱きしめられる。彼の心臓がどくどくと音を立てているのがわかった。体、あつい。

「大将、好きだ。好きなんだ!」
知ってるよ?」
「そうなんだが、くそっ」

少し離れて、もどかしいような顔をする薬研に困惑した。そっとその頬に手を添えれば、つつ、と甲を指で辿った薬研の手によってその手が包みこまれる。どうしたというのだろう。ゆらゆらと揺れる瞳にじっと見つめられて動けない。

「好きだったはずだった。ずっと。でも、今はもっと苦しい」
「薬研?」
「あぁそうか

私の手を包んでいた薬研の手が離れて、今度は私の頬に添えられた。薬研の目が、とろとろに溶けている。

「大将愛してる。」

自分の心臓がどきどきと音を立てているのが分かった。薬研は、とっくに私と同じ気持ちになっていたのだ。うれしい。うれしい!思わず薬研に飛び込んで、強く抱きしめる。

「良かった!薬研!私も、愛してるだいすき!」
大将。今度こそ、聞かせてくれ」
「ん?」
「大切にする。ずっと守ってやるから、俺と一緒になってくれないか」

耳元でそう告げられて、少しくすぐったい。同じ言葉をとっくの昔に言われていたのに、随分遠回りしてしまった。とんとん、と背中を叩けばそっと薬研が離れる。その頬はやっぱり赤い。夕焼けなんて、比ではない。なんだか嬉しくて、でれでれと自分の顔が崩れているのが分かる。油断していれば、むぎゅっと頬をつままれた。

「いひゃい」
「大将。返事は」

ちょっと拗ねたような顔になった薬研がなんだか可愛い。

「へへ、不束者ですが、よろしくお願いします!」

思わず笑ってしまったが、薬研も楽しそうに笑ってくれた。うれしい。薬研が、あのとき、勘違いしてくれて良かった。あんな始まり方だったとしても、上手くまとまってしまえばそれで良し。だって今、私たちは互いのことが大好きなんだから!

「大事にしてね?」
「当然だろ。誰よりも何よりも、一等幸せにしてやる。」
期待してる」

満足そうに笑う夜空の三日月に見守られながら、もう一度、にやける唇にそっと口づけた。