botanin5
2024-11-14 03:02:11
18681文字
Public 薬さに♀(小説)
 

終わりよければ全てよし

ハッピーエンド
「好き」に振り回されるお話です。




「朝だぜ大将」
「うまぶしい」

すたーん!と開かれた障子と共に瞼を刺激する光に、思わず布団にもぐりこむ。同時に入り込んできたひんやりとした風に、もう秋だなぁと笑う三日月の様子がぼんやりと浮かぶ。布団の中は自分の体温でとても温かい。さっきの声は、薬研か。朝かぁもうちょっとだけ寝た………ん?え?

「薬研!?」
「おう、おはよう大将」
「お、はようじゃなくて!なんでここにいるの!?」
「なんでって未来の伴侶を起こしにだな」
「だっ誰が未来の伴侶だー!!」

勢いよく身を起こしてつい叫んでしまった。少しむっとした表情になった薬研を横目に、急いで自分の髪を手ぐしでとかしつける。寝癖ついてるのに!今まで近侍が朝起こしに来たことなんて、ない。もちろん、来たばかりの薬研が近侍をやっていた時だってそうだ。私はいつも目覚まし時計のアラームで目を覚まし、自室についている簡易的な洗面所で身なりを整え、しっかり着替えてから刀剣たちに会うようにしていた。自分は主従関係や本丸運営を名刀たちの主然としてこなすことができないという自信があったため、せめて姿だけでも主らしく!つまりだらしない身なりを見せたくなかったのだ。だというのに!

「どっ、どうして寝床にまで来るの!?私、まだ顔すら洗ってないのに!」
「今起きたんだから当たり前だろ」
「起こしに来て欲しいなんて頼んでないし、それは近侍の仕事じゃないよ!」
「俺が起こしたかったんだ」
「なんで!?」
「なんでって好きな奴の面倒は見たいと思うもんだろ?」

当然だろ?とでも言いたげに小首をかしげる薬研が少し憎い!朝から『好きな奴』だなんて、うっかりときめいてしまったじゃないか!でも、それとこれとは話が別だ。こんな寝起きのだらしない姿をいつまでも見せるわけにはいかない

起こしに来てくれてアリガトウゴザイマス」
「あんまり気持ちがこもってねぇなぁ」
「ありがとう!ございます!もうばっちり目が覚めたから、とりあえず出てってくれないかな!?」
「っはは、悪かったよ」

じゃあ後でな、とひらひら手を振り去っていった薬研を見送ると、ばっと布団から出て素早く障子を閉めた。もう!もう!恥ずかしい!これからずっと起こしに来るつもりなのだろうか。寝起き姿をそう何度も見られるなんて、たまったものではない。明日は今より早い時間に目覚ましをセットしよう。そう心に決めて、顔を洗うために洗面所へと向かったのだった。



それから二日の時が過ぎて、今は仕事の合間のおやつ休憩。どうやって察知しているのか、なぜか目覚まし時計が鳴るよりも先に部屋へ訪れる薬研が私を起こす、という日常が出来上がりつつある。そこで、どうか朝起こしに来るのだけはやめてくれと薬研を説得しているところだった。やはり彼は少し不満げで、こちらが寝起きを見られることが恥ずかしいのだと主張しても「寝起きの大将も可愛らしいぜ」などとのたまった。勘弁してほしい。起こしに来るなら近侍を三日月に戻すと半ば脅したところで、ようやく薬研が折れてくれた。これで明日は安心して朝を迎えることができそうだ。

ほっとしたところで今日のおやつに手を伸ばす。皮つきの甘栗。栗は好きなのだが、皮を剥くのがどうも苦手だった。爪を立ててみるが、最初の切れ目が上手く入らない。地味に悪戦苦闘していると、薬研がひょいっと私の手から栗を奪った。驚いて目で追うと、彼は出し抜けに皮で包まれたままの栗を咥えて、軽く噛んだ。ぱきっと軽い音が、静かな執務室に響く。上手くひびが入ったようで、そのまま親指を引っかけて栗の皮を剥くと、ほらよ、と私に中の実を差し出してきた。えっ、まっ、それ、噛んだやつ!

「や、薬研が剥いたんだし、薬研が食べなよ」
「ん?何言ってんだ。大将が苦戦してたから剥いてやったんだろ。ほら食え」
「でもそれ噛んだ
?別に実を齧ったわけじゃねぇぞ。何を気にしてんだ?」

そうだけど、そうなんだけど!気恥ずかしい思いをしているのは私だけのようだ。落ち着け落ち着け。薬研は皮にひびを入れただけで、実を舐めたわけでも噛んだわけでもない。間接キスでもなんでもない!!
少し震える手で甘栗を受け取ると、恐る恐る口に入れた。おいしい。ちらっと薬研を見てお礼を述べれば、満足そうに微笑んで次の栗に手を伸ばした。まさか。いや、次は自分で食べる分だよね。きっとそうだ!願望に近い予想は空しくも外れた。彼は先ほどと同じように栗を噛み、ひびを入れて皮を剥くと、ティッシュを敷いて実をころん、とそこに置いた。私のために剥いていく気だ

「自分で剥く!自分で剥くから、薬研も栗食べなよ!」
「でも大将皮剥くの下手だろ」
「今見てたのでやり方分かったから!」

大丈夫!必死にまくし立てれば勢いに引いたのか、薬研はわかったわかったと剥いた栗を自分の口に運んだ。もう、薬研の起こす行動に、心臓がもたない!今まで、彼に対してそんな風に思った事は全く無かったのに!「好きだ」と言われた相手と、こうも長い時間顔を合わせていれば嫌でも意識してしまう。こちらだって「彼は私の事が好き」という色眼鏡で見てしまうのだ。いや、嫌ではない。意識してしまうことが、嫌ではなかった。しかし、告白されたから相手を好きになるのかと、誰に非難されるわけでもないのに胸がざわつく。薬研を真似て皮を剥くために栗を噛んだが、思いがけず力が入ってしまったようで、砕けた皮が口に飛び込み、とても苦かった。