botanin5
2024-11-14 03:02:11
18681文字
Public 薬さに♀(小説)
 

終わりよければ全てよし

ハッピーエンド
「好き」に振り回されるお話です。


「どうやら俺は、大将のことが好きみてぇだ。大切にする。ずっと守ってやるから、俺と一緒になってくれないか」


そう薬研に告げられたのは、もうじき晩御飯という少しの空き時間。近侍である三日月宗近と並んで縁側に腰掛け、のんびり夕焼けを眺めている時であった。彼は畑仕事の帰りだったのか、所々に土のついた白衣を翻し、その手には収穫したばかりであろうどっしりと太い大根を二本持っていた。ふらりと突然やってきたかと思えば、何の前触れも断りもなくさらりと告げられたその言葉に、開いた口が塞がらなかったのは私だけではなかったようだ。隣で同じく気の抜けた顔をした天下五剣はゆっくりとひとつ瞬きをした。

「大根は必要か?」

そこじゃない。
三日月の場違いな発言――――といっても、今ここに何一つ場に合っているものは無いのだが、とにかく、三日月が口火を切ってくれたおかげでこの何とも微妙な空気をどうにか動かすことができた。

「ちょちょっと待って薬研。急すぎない?そんな突然その一緒になってくれとか言われても、困るっていうか」

しどろもどろになりながら言葉を繋ぐ。薬研に恋愛的な意味で好かれる事態になるなんて、全く身に覚えがない。そもそも彼は近侍でもなければ、本丸に来たのだって刀剣の数が二ケタを迎える頃であり、何か特別な二人だけの思い出だって無いに等しい。どうして今、突然、告白するに至ったんだ

「突然か?俺は大将のことをずっと大事に思ってきてたし、あんたの支えになりたくてこの身を鍛えているんだ。何もおかしい事なんてねぇだろ」

きょとんとそう述べる薬研の様子を観察する。愛の告白をしてきたわりには、なんだか動じていないというか薬研だからだろうか?普段は青白いとさえ思えるその顔は、思いを告げたことによる照れから赤いのか、はたまた夕日に照らされたことで赤いのかちょっとよく分からないけれど、とにかくいつもよりは、赤い。そしてこちらも、真顔で大事だなんて言われてしまえばすっかり照れてしまって、なんだか顔がちょっと暑い。

「そっか。うん。そうなんですね」
「なんで急に敬語になるんだ」
「あ、いや、そのなんだか緊張してきて」
「ふぅん。で、大将。返事は」
「えっ!?」

ずい、と顔を近づけてきた薬研にどぎまぎしてしまう。夕焼けが滲んで赤みがかった淡い灰紫色の瞳がじっとこちらを見つめてくる。薬研の事はもちろんイヤでも嫌いでもないが、今すぐハイ一緒になりますと即答できる類の情は持ち合わせていない。こ、困ったぞ。なんとも言いあぐねていると、怪訝そうに少し眉を寄せた薬研は私から視線を外して、隣で未だこちらをぽかんと眺めている三日月に向き直った。

「なぁ、三日月の旦那。近侍を代わっちゃくれないか」
なぜだ?」
「大将が返事をしねぇから」
「えっ」

どうして私が返事をしないことが、薬研が近侍になることに繋がるんだ!?
他の本丸はどうだか知らないが、うちの本丸では来たばかりの刀剣が特をつけるまで近侍をすることになっている。今の近侍である三日月を迎えてからはまだ新しい刀剣を迎えておらず、本人もいたって不満を述べるでもなく仕事をこなしてくれていたため、練度が五十を超えても近侍を三日月のままにしていた。新しい刀剣を迎えていないから。理由はそれだけだったので、本人たっての希望ならば近侍が薬研に変わることは何の問題もない。問題は無いのだが。

「大将が返事をしないってことは、俺は片思いだということだろう。なら振り向かせるしかねぇじゃねぇか。だとすれば近侍になって毎日一緒に過ごす方が、都合がいい。な、あんたもそろそろ同じ仕事ばかりで飽きてきたんじゃねぇか?頼む」
「相わかった」

即答された!薬研が述べた内容もなかなかに衝撃的だったが、三日月に即答されたことに少なからずショックを受けた。この本丸の中で、一番長く近侍を務めてくれていたのは彼だったのだ。まぁそれは、新しい刀剣を迎えていないからではあるのだが、長く一緒に居たことで初期刀とはまた別の、兄のような信頼感を抱いていたというのにこの思いは一方通行だったというのか!寂しい!

「三日月!私を見捨てるの!?」
「そうだなぁ俺もそろそろ遠征に行きたいと思っていた」
「そんなぁ
「話が分かるな。助かる。じゃ、明日から俺が近侍だ。よろしく頼むぜ、大将」
はい

薬研はにっこりと笑って大根を持ち直すと、来た時と同じく颯爽と去っていった。うっそぉ。告白の余韻とか微塵もなかった。さすが、雅は分からんと自ら言うだけはある。遠い目をしてその背中を見送った後、隣でほけほけと花でも散らすように微笑んでいる三日月を睨む。

「そんなに簡単に近侍を譲らなくてもいいじゃん
「いつかは代わるものだろう?それが今だっただけだぞ」
「そうだけど三日月と一緒に居る時間けっこう長かったから、ちょっと寂しい」
「はっはっは、嬉しいことだな」

そう笑いながら私の頭を撫ではじめた三日月の肩に身を預ける。こうして撫でてもらえることも無くなるのかいや別に、撫でてもらいに行けばいっか。でもやっぱりちょっと寂しい。

「ねぇ、薬研さぁ本気だったと思う?」
「ふむそうだな。からかっているようには見えなかったぞ」
「だよねぇでも、好きになられたタイミングが全然分からない
「知らぬ間に育つ想いもある」

そう言った三日月はとても優しい瞳をしていた。いつもは青く深い夜空に浮かぶ月にも、今は夕焼けが映り込んでいる。じっと眺めていれば、そろそろ夕餉だろうと促されたため、立ち上がって廊下を進む。明日から一体どうなるのだろう。仕事中にずっと口説かれ続けるような事態は避けたいものだ。先ほども思ったが、薬研にじっと見つめられるのはなんだか緊張してしまう。はぁ、とこっそり息を吐いて三日月に続いて広間に入る。真っ先に目に入り込んだのは、いつも私が座っているお気に入りの黄色い座布団をぼすぼすと叩きながら、隣に座るよう無言で訴える薬研であった。はぁ。先が思いやられるなぁこれ。