botanin5
2024-11-14 03:02:11
18681文字
Public 薬さに♀(小説)
 

終わりよければ全てよし

ハッピーエンド
「好き」に振り回されるお話です。






薬研が近侍になってから心臓が振り回される毎日。しかし、今まで何かをお願いするのも、隣に座って軽口をたたいて笑い合うのも三日月だったのに、すっかり薬研が私の日常に溶け込んでしまった。彼の適応能力と小器用さはなんなのか。しっかり立っていないと、なんでもできる頼りになる近侍にずぶずぶと甘えてしまいそうで怖かった。

彼は私の世話をするのが好きなようで、あれやこれやと小言も含めてなにかと自分がやろうとする。かといって甘やかしきるわけではなく、彼の中にも何か線引きがあるみたいで、できないことを教え込まれる日もあった。例えば私はいつも洋装なのだが、審神者として和装をしなくてはいけないときもある。今までは着替えを初期刀にお願いして手伝ってもらっていた。しかし「自分で出来た方がこの先も楽だろう」と薬研に着付けを教わった。薬研の前で襦袢姿になることに抵抗があったが、彼はなんとも思ってないようで、てきぱきと指示を出され五回ほど練習したら一人で着られるようになっていた。
できた!と思わず笑顔で薬研に振り向くと、とっても優しい顔で微笑んでいて、心臓に悪い。「よくできたなぁ」なんて頭を撫でられるのにはもうすっかり慣れてしまった。三日月に撫でられた時の安心感とは違ってどきどきと緊張するのだが、それもまた心地よく感じていた。

薬研はよく私の頭を撫でる。それから「大将は可愛らしいな」という言葉をよく使う。好きだ愛してると日々囁かれるのではないかと危惧していたが、その心配は全く必要なかった。愛おしむような視線はしっかりと感じられてくすぐったい。しかし、最初の一言以来、彼が私に「好き」という言葉をかけることが無かったのだ。それは私がまだ告白の返事をしていないからだろうと思った。
そう、当初の問題であった私の気持ちなのだがいや、問題では全くないのだが、この状況を作り出してしまった事には違いないとにかく、私の気持ちは、薬研に「好き」と返しても間違いではないというところまできていた。彼も成長した今、改めて近侍をしてくれたことで前よりずっと『出来る男』な部分を見せつけられ、「短刀のうちの一振」から「薬研藤四郎」に昇格してしまった。もちろん、本丸の刀剣たちを同一視しているわけではない。みんなの個性を尊重して、それぞれと向き合っているし、いろんな表情を持つ彼らのことが好きだ。しかし、薬研はやはり、気持ちを伝えられたこともあってか、特別な存在になってしまった。初期刀とも三日月とも違うそれ。もはや私は、薬研の行動にどきどきするのもそこそこに、いつ自分の気持ちについて打ち明けるかそんなことばかり考えるようになっていた。


「買う予定のもんはそれだけか?」
「うん。文房具と化粧品とあとはみんなにお菓子でも買って帰ろうかな」
「そうか。なら、遠征帰りにたまに寄ってた甘味処があるから、買い物が済んだら行くか。土産物も置いてたはずだぜ」
「わ!楽しみ!」

今日は薬研と一緒に買い物に来ていた。本丸は休日にしていたので、自分用の買い物をしに出かけようと準備をしていたのだが、部屋を出たところで薬研に捕まった。一人で大丈夫だと言っても心配だからと聞いてくれず、結局二人で出かけることになってしまった。こちらとしては、デートのようで落ち着かない。

「じゃあ行くか」
「えっええ、あの、ちょっと」
「なんだ?」

きょとんとするな!街に入ったところで、さも当たり前のように手をとられた。思わずどっと汗をかく。指は絡んでいないとはいえ、手袋越しの自分より硬い手に緊張が走る。撫でられるのと握られるのでは全く感覚が違う。なんだか恥ずかしい!

「手!」
「迷子になられたら困る」
「子どもじゃないんだから、大丈夫だって」
「心配なんだよ。繋がれといてくれ」
「う

愛おしいものを見る目で微笑まれてしまっては、勝てない。大人しく手を繋がれたまま街中を歩く。やはり照れくさくて、若干顔を伏せてしまう。なんで平然とこんなことをやってのけるんだ、この男は。恥ずかしい。緊張する。ドキドキする。自分の鼓動が、手を伝って彼に浸透していく気がする。好き。好きだ。薬研が好きだ。

そうだ。今日、自分も薬研のことが好きだと告げてしまおう。

頭が溶けてしまいそうなほど顔が熱くなった。私の手を引きながら少し前を歩く薬研には、きっとこの赤い顔は見えていない。いつ言おう買い物を終わらせて、甘味処に行った時にしよう。そう心の中で決めてしまえば、一気に現実味が増してきて尚更に心臓が暴れる。思わずギュッと薬研の手を握り返してしまい、彼は足を止めて振り返ると私を覗き込んだ。

どうした大将。なんか顔が赤くねぇか?熱か?」
「えっ!?いやいやいや、大丈夫!熱とかないから!」
「だが、手も熱いし
「や薬研が握ってるから」
「ん?」
「薬研に手を握られてるから、緊張してるんだって!」
っふ、なんだ。そうか大将は可愛らしいな」

またそういうこと言う!
私の答えに満足したのか、少し笑った薬研は再び前を向いて歩き始めた。こっちは彼の行動で百面相しているというのに、平然としているのが憎らしい。仮にも好きな子の手を握っているのだから、ほんのり頬でも染めてほしいものだ。まぁ、その態度ができるのなんて今だけなんだからね。「私も好き」と伝えれば、きっと、もっと違う薬研の顔が見れるはず。そう考えると、思いを伝えるのが少し楽しみになった。早く甘味処へ行きたいような、でもまだ心の準備ができていないようなふわふわと浮いた心で、薬研の後ろをついていった。

買い物を終えてやってきた甘味処は比較的空いていて、他の客たちは互いに気にならない程度の席に座っている。これなら、告白しても周りに聞こえることも無いだろう。大丈夫。少しほっとしながら席に着くと、向かいに座った薬研と目が合って一気に熱が這い上がる。とっさにメニューを開いて顔を隠した。だ、大丈夫自分は両想いだと知っている状態で告白するのだから、振られる心配はしていない。

「薬研は何食べる!?」
大将が品書きを独り占めしてるから、何があるのか分からん」
「うわぁ!ごめん!!」

落ち着け私!!顔を隠して立てていたメニュー表をテーブルに広げる。ふっと笑った薬研にますます恥ずかしくなった。

「じゃあ俺はわらび餅にするかな」
「私は抹茶のケーキにする!」

注文をとってもらい、メニュー表が回収されてしまうとそわそわと落ち着かない。どうやって切り出そう!視線が定まらずあちこち目をやって、お冷に口をつけていると、頬杖をついて窓の外を見ていた薬研がふいっとこちらを見て微笑んだ。

「なぁ大将。心は決まったか」
「っ!?げほっけほっ」
「おい大丈夫か?」
「ごめん、大丈夫

今日一日頭を巡っていた話題を突然、しかも薬研の方から振られて、驚いてむせてしまった。チャンス!絶好のチャンスだ!言ってしまおう!私も薬研が好きっ!声を出そうと口を開けるが、優しくこちらを見つめる薬研と目が合うとカッと顔に熱が集まって、あうあうと詰まって言葉が出てこない。一言!たったひとこと言うだけなのに!少し不思議そうな顔になった薬研に、ますます焦る。頬の熱さが耳まで続いて、ぽろっと焼け落ちてしまうんじゃないかと思った。

薬研はどうして私の事が好きになったの?」

ようやく絞り出した言葉は、用意していたものとは全く異なっていた。私のヘタレ!内心自分で罵倒していると、そうだなぁと薬研が考え込み始めた。

「もともと、大将のことは可愛らしいと思ってたぜ。よく笑うし、よく食べるし俺たちの主で、守らなねぇといけない存在ではあった。」

もともと可愛いと思ってただと!?そんなの聞いてないなんだか恥ずかしい。

「畑仕事をしてた時になぁあんたに思いを告げた日だ。骨喰と一緒に大根を収穫してたんだが、大将の話になってな」

骨喰と?彼が自分のことを話題にしているところは、あまり想像がつかない。

「大将は可愛いらしい。危なっかしいから、三日月がいるならまだしも、一人でいる時は目が離せない。そんな話をしていたら、骨喰に『主のことが好きなんじゃないか』と言われたんだ」

んん

「なるほどそうかと思ってな。あんたの事は大事だ。一緒に居ると楽しいし、心が温かくなる。笑っていれば嬉しいし、泣いていたら悲しい。好きなやつとは添い遂げるもんだろう?三日月がずっと大将と一緒にいるなら心強いがどうやら俺はあんたのことが好きみてぇだし、どうせなら俺の手で守っていけばいいと思ったんだ。」

待って。ちょっと待って。なんだか、なんだか私が想定していたものと違う。

「薬研さん」
「ん?」
「私の事、好き?」
「だから好きだって言ってんじゃねぇか」

きょとんと述べられるその言葉に、おいおい待てよと自分の頭にストップがかかる。

その『好き』、違うんじゃない

「ここまで来るとき、なんで手を繋いだの?」
?最初に言っただろ。迷子になられたら心配だからだ」
「それだけ?」
「ん?他に理由がいるのか?」

よく分からん。そう思いっきり主張する薬研の顔に、思わず頭を抱えた。たぶんそれ、たぶんそれ家族とか、親友とかそして手のかかる子どもとか!!そういった人たちに向けられる『好き』な気がする!!
きゅるきゅると、これまでの薬研の様子を巻き戻して思い返してみる。告白してきたとき。『一緒になってくれ』だなんて大層なことを言ってのけたわりに、態度は恐ろしいほどいつも通りだった。あの時の赤い顔は、やはり夕焼けに染められていただけだったのだ。朝起こしに来たときだって、私が起きたらさっさと部屋を去るし、着付けを教えてくれたときだって、襦袢という心もとない装備の私に全く動じていなかった。

うわ、待って、このひと、私のこと『女として』好きなわけじゃないぞ!!!???

浮かれていた心がバンジージャンプでもしたかのように、一気に落下した。薬研はどうした?と相変わらず不思議そうな顔をしている。どうしよう。どうしよう。私はもう「そういう意味」で薬研のことが好きになってしまった。まさか、先に告げてきた薬研の方が、気持ちを勘違いしているなんて!
思わず泣きそうになって、顔を伏せてテーブルを見つめる。何も言えないでいると、お待たせいたしました、と先ほど注文したケーキが置かれた。それでも顔を上げない私に困惑しながら、悪いなぁ、ありがとよと薬研が店員に声をかけるのが聞こえる。

どうした大将。気を悪くしたか?」
ちがう、違うの
「とりあえず顔上げてくれ。せっかく甘味もきたんだし、食おうぜ」
「ぁああ、あの!」
「ん?」
「返事もうちょっとだけ、待って」
「ああ。急かすようなこと言って悪かったな。ゆっくり考えてくれ」

ぽんぽん、と私の頭を撫でた薬研に、少し落ち着いた。フォークに手を伸ばして、そっと抹茶のケーキを口に運ぶ。すこし渋くて甘い。薬研も静かにわらび餅を食べていた。

『薬研の好きは、恋愛としての好きとは違うよ。』
そんなこと、口が裂けても言えないと思った。それを指摘して、違ったのか、悪いなぁなんて、無かったことにされるのだけは避けたかった。

だって、私はもう薬研のことが好きになってしまっているのだから。