Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
gib_fox
Public
hq松花
Clear cache
花巻のおでこ
pixiv再掲
モブ視点→花巻視点→モブ視点、です。
松川一静、シンデレラ?ストーリーというより、ちょっとマイフェアレディ的なお話。捏造過多です。
1
2
3
4
5
6
7
8
「水族館?」
「そう」とだけ言って、部活の帰りに松川は、いつもより弾んだ声で続けた。
「母さんがチケットもらったんだって。行かね?」
男二人でっていうのも、微妙だとは思いますが。丁寧に付け加えたこいつは、秋口近い風の吹く帰り道を、温かい飲み物を買って手を温める。
汗が幾分冷える時間、俺たちは部活のエナメルバッグを揺らしながら、新月の下を歩いていた。
「いつ? 今度の土曜とか?」
「そうしよ、部活午前で終わるし」
市にある水族館は、大きな水槽と展示が豊富なことで有名だった。かわいらしい魚の品種の多さもダウンライトのムードある館内も、青城生の格好のデートスポットになっているんだけど。
そんなところに、男二人でって、こいつ、何考えてんだ?
「
……
そういうのは、気になってる子と行けばいいんじゃねぇの?」
そうだ、こいつは自信もつけてきて、見違えるようになって、それは全部、あの子のためじゃないか。
また。ズキリと痛む胸をこっそり押さえる。名前も知らない、どこにいるかもわからないあの子の影に、怯える自分がどうしているんだろう?
「花巻とじゃ、だめ?」
……
俺は「へ?」って裏返った声を出した。松川に笑われる。
「変な声」
「
……
変な、奴」
「ふふ、お互い様だわ」
俺の怯えは、松川が退治してくれた。
「俺は声だけ。お前は全部、変だ」
俺の家の前に着いて、母親がちょうど外を掃き掃除しているところだった。開けっ放しの玄関に埃が舞う。
「あら松川くんこんばんは」
「こんばんは」
それぞれ笑顔の交わし合いの中で、俺一人だけが歪んだ顔をしている。
「また明日ね、花巻」
通り過ぎていく松川のジャージが、ほんの少しだけ俺の指先に触れた。
俺はファスナーの冷たい金属面が去る前に、それを掴む。
母さんは、もう家の中へ入っていった。
「
……
花巻?」
振り返れば怒ったみたいな顔した俺がいるなんて、松川には面倒くさいことこの上無かっただろう。だけど、一つ呼吸を置いて俺と向かい合う。
同期の服の裾掴んでおきながら、何を言いたいのかわからなくて、こんな言葉しか出ない。
「
……
朝練、遅れんなよ」
「うん」
「
……
サーブ、また教えて。お前の、正確だから」
「いいよ」
くしゃり。それは俺の頭から音がした。大きい手が、優しく頭頂を撫でる。
きもちいい。
松川は頭を撫で終えて、そっと俺の顔を窺った。へらりと笑ってしまう俺は、多分一番「変な奴」だ。これまでのモヤも、霧も、一つ撫でられただけで消えていったから。
1
2
3
4
5
6
7
8
広告非表示プランのご案内