Hizuki
2024-07-29 08:18:04
11715文字
Public あんスタ[薫あん]
 

薫あんと桔梗の花言葉の話

【あんスタ】薫あん+α。SWINGNIGHTのミニトークに出てきた薫からのおみやげの話を元に桔梗の花言葉を絡めた話。全部で8話、それぞれ独立した話になっています。全て+αキャラからの視点で、二人共いたりいなかったりする。〇×は花言葉を知っているかどうか。



『溜め息の理由』

「久しぶりだな、あんず」
「蓮巳先輩、お久しぶりです」

ESの廊下で会ったのは本当に偶然だった。ぱっと向けた視線の先に彼女がいて、俺に気付いたらしい彼女が小さくお辞儀をしてくれたとあれば、声をかけない理由はない。互いに歩み寄っていき、そう声をかけたのは自然な流れだった。近頃姿を見かけないと思っていたが、彼女のことだから何だかんだとアイドル達のために駆け回っていたであろうことは容易に想像できる。「無理はするなよ」と一応念は押しておくが、多少の無茶はするのだろう。

「ん?この香りは

空調の風向きの関係か、ふっと初めて感じる香りが漂ってきた。

「あ、きっと私です。最近お香をいただいたので、それを焚いてるんですよ」

どこからと出所を探すよりも早く、目の前のあんずがそう答える。同じような場にもう何度か出くわしているのだろう。

「桔梗のお香立てもセットだったんです。とっても素敵で」
「ほう。いい香りだな」
「ありがとうございます」

嬉しそうなあんずにつられて、こちらも自然と口元が緩む。香水ではなく香というところに、実家で目にするものと形は違えど近しいものを感じた。主張が強すぎない穏やかなこの香りは、俺自身も好ましく思う。香立てとのセットに普段使いもできる香りとは、贈った者の彼女への心遣いが見える。

「お、いたいた。お~い、あんずちゃ~ん」

そんなことを考えていると、別の声があんずを呼んだ。揃って声の方を振り向けば、こちらに向かってくる羽風の姿があった。

って、もしかして取り込み中だった?」

俺の姿に気付いたらしい羽風が申し訳なさそうに尋ねる。

「いや、偶然会っただけだ。気にしなくていい。ではあんず、またな」

この様子からすると、あんずを探していたのは羽風の方なのだろう。ならば俺が長居をする理由はない。

「あ、はい。また」

彼女に別れを告げ、羽風が来た方向へと抜ける。人気の少ない静かな廊下となれば、普通の話し声でも十分に聞こえる。聞き耳を立てるつもりはないが、自然と二人の声を拾っていた。

「羽風先輩、この間はありがとうございました。お香、早速使ってます」
「みたいだね。俺の方こそありがと。使ってくれて嬉しいよ」
「ところで私に何か用事でした?」
「そうそう。今度の仕事なんだけどさ

向こうも動いているのだろう、声は次第に小さくなっていった。廊下の角を曲がったところでふと足を止める。

なるほど、あの香は羽風からだったのか」

思いもしない形であんずの香の贈り主を知ることになった。羽風からだというのなら、あの選択には納得がいく。

「そういうことじゃの」
「朔間!?一体どこから

自分の独り言に返ってきた声に、思わず一歩後ずさる。こんな話し方をする人物は朔間しかいない。はぁ、と深い溜め息を吐いて、朔間は言葉を続ける。

「おまけに薫くんは桔梗の花言葉に気付いておらん。まぁそれは嬢ちゃんもなんじゃが

朔間から桔梗の名がすんなりと出てきた辺り、あんずが羽風から贈られたものを知っているらしい。花言葉を知っているかどうかは何か雑談のついでにでも聞き出したのだろう。

「桔梗か確か『永遠の愛』、『変わらぬ愛』、『誠実』だったか?」
「おお、蓮巳くんは知っておったか」
「以前少しな」

自分の記憶を辿り、その意味を引っ張り出した。薔薇のように一般に広く知れ渡っているものならともかく、そういった知識は興味や趣味の話になってくる。俺自身の記憶も、以前調べ物のついでにたまたま得たものだった。

「しかし、どうしてあの二人はこうも関係が進まないんだ度し難い
「全くもってその通りじゃよ蓮巳くん

今度は揃って溜め息を吐く。花言葉を拾うのならば、ほぼ告白と同じと言ってもいい。知らないからこそ、あんな普段通りに二人は話している。互いに想い合っていることはどう見ても明らかなのに、明確に名の付く関係には至っていない。かといって外から口を出すわけにはいかず、俺達は二人を見守ることしかできずにいる。

「二人のピュアさで我輩が灰になってしまう前にくっついてくれんかの

本当に朔間が灰になってしまうかはさておき、思っていることは俺も同じ。二人が歩いて行ったであろう方向を振り返って、今日二度目の溜め息を吐いた。