Hizuki
2018-09-16 10:12:19
16818文字
Public
 

グラブルふせったーログ[ジクグラ・ジクジタ・ジクパー]

【グラブル】ジクグラ・ジクジタ・ジクパー。ふせったーに上げていた分のSSまとめ。




『戦う者、望む者』(ジクグラ)


血と火薬の臭いが入り混じった廃ビルの中。
月を覆っていた雲が晴れて光が差し込んでいる。
所々が崩れたフロアの壁、灰色のコンクリートは紅く染められていた。

後始末は任せる」
「御意」

目の前に転がっている骸の処理を部下に任せて、その場を後にした。
この世界ではよくある話。
傘下の下っ端による他所の組への情報の横流し。
そしてその件に対する制裁を与えるのが今日の俺の仕事だった。
蜥蜴の尻尾切りのようにあっさりと組から切り捨てられた下っ端の行き着く先はただ一つ。
結果が先程の骸だ。
屋敷に戻り、主に簡単に報告を済ませる。
短い労いの言葉を受けると、主の部屋から出た。
ここ数日同じような案件が立て続けに起き、俺が呼び出される機会が増えた。
扉を閉め、ふぅと小さく息を吐く。
同時に頭に過ったのは同じ屋敷に身を置いている少年で。
こんな時間ではとうに眠りに就いている頃だろう。
それでも思ってしまった。
少しだけ顔が見たい、と。
とは言えど、今の自分の身なりでそのまま彼の部屋に行くわけには行かない。
シャワーで散々浴びた土煙と臭いを落とし、女中が用意しておいてくれた着物に手を伸ばした。
背面の鏡に自分の背中の彫り物が映る。
紅い眼の黒き竜。


グラン、俺が怖いか?
ううん、ちょっとびっくりしただけ


2人で出かけて雨に降られながら戻ってきた日。
冷えた身体を温めるために連れ込んだこの風呂場で、言葉を詰まらせたグランに問いかければ、そう返ってきた。
俺の背中を見て、怖い、とは言わなかった。
何を仕事にしていると話したことはない。
彼と出会ったのは、本当に偶然だった。
白昼堂々、街中で俺の命を狙って仕掛けられた争いの場に運悪く居合わせてしまったのがグランで。
争いの火の粉は彼の家にまで降りかかり、帰る場所がなくなってしまった彼の身を屋敷で預かることになって。
聡い少年のこと。
その時のことも考えれば、もう俺がどういう人間なのか気付かれているのかもしれない。
着物に袖を通して帯を締め、グランの部屋へと足を向ける。
屋敷から渡り廊下で繋がった離れが彼の部屋だった。
静かに戸を開けると穏やかな寝息を立てて眠っているグランの姿があった。
よほど暑かったのか、被っていたであろう薄手の布団は足元へと蹴飛ばされていた。
敷布団の側に腰を下ろし、ふわふわとした茶色の髪に触れた。

「んじーくふりーとさん?」

頭を撫でていると、伏せられていた瞼がゆっくりと上がっていく。
されるがままになっていたグランが俺の名前をたどたどしく呼んだ。

「すまない、起こしてしまったか」

手を離して謝罪を口にするとグランはううん、と首を振った。
起こすつもりはなく、顔を見たら戻るつもりだったのだが。

何かあったの?」

開ききった目で俺を見るや否や、はっきりとした声で問いかける。
布団から身を起こし、真っ直ぐに俺を見た。
その目には心配の色が浮かんでいる。

「いや何、大したことじゃない。少し顔を見に来ただけだ」

何もないとは言わないが、何があったとも言えない。
詳しく聞かせてほしいと目が語っていた。
けれどそれ以上を口にしようとはしなかった。
聞いても話はしないと分かっているからだろうか。

「大丈夫、僕はここにいるよ」
「グラン?」

俺の方に近付いて膝立ちになると、グランの顔が見えなくなる。
布越しに伝わる温度、優しく髪に触れる手。

「だから何かあったらいつでも来てほしいし、話せることがあるなら話してほしいな」

体勢から耳元で告げられた言葉に一瞬戸惑った。
年離れた少年にそこまで言わせるほどの状態だったのかと。
それでも俺だけに向けられた純粋な厚意に、心が落ち着いていくのが分かる。

ありがとう」

背中に手を回して軽く叩けば、グランの身体が離れていく。
にこりと向けられた笑顔が眩しい。

「まだ朝までしばらくある。もう一眠りするといい」
「うん、そうする」

蹴飛ばされた布団を手繰り寄せて整える。
最近の気温ではこの布団は厚そうな気がした。
もっと薄手の腹掛けくらいでも問題なさそうだ。

「ジークフリートさんは?」
「俺も部屋に戻るさ」
そっか。ジークフリートさんもゆっくり寝てね」
「ああ。おやすみ、グラン」

身を横たえたグランに布団をかけてやり、扇風機のタイマーを入れる。
グランが目を閉じたのを見届けてから部屋を出た。
屋敷に戻ってきた時よりかなり心は軽い。
まだもうしばらく自分の仕事が続きそうなのは主の下に報告に行った時に思い知らされている。
その数だけ内部を脅かす可能性が蔓延っているということ。

やるしかないのならやるだけだ。

それはグランの安全な生活を守ることにも繋がるのだから。
私室に戻り大きく息を吸い込んで、吐き出す。
今の仕事が落ち着いたら、グランにはちゃんと礼をしなくては。
グランの笑顔を思い返しながらそう心に決めて、連日よりも穏やかな気持ちで床に就いた。