鳳仙花は燃え開く

MHRウ教×ハ♀。両片思い→相思相愛。
ハ♀視点。

鳳仙花の花言葉に纏わるお話。ハピエン。
自分はウ教に釣り合わないからと、彼が大好きなのに距離を置くハ♀。そんな彼に、縁談話が舞い込む。



──言えた

──やっと……


あなたに、この言葉を言えた。
ずっと伝えられないと思っていたのに、夢のような現実。

必死に、狩猟の時よりも必死に、私は言葉を紡いで。

ぼやけた視界の中でも、ゆっくりとあなたの口元を覆う鎖帷子くさりかたびらに片手を伸ばし、やはりゆっくりと、それを下ろしていく。

あなたの顔が、よく見たかった。

私が大好きなあなたの、私を愛していると伝えてくれた、あなたの顔が。

少しずつ視界が落ち着いてきて、景色が輪郭を取り戻すと、呆気にとられたように小さく目を見開くあなたの顔。

そんなあなたの背中に、恐る恐る、そっと両腕を回す。

あなたが、息を呑む音が聞こえた。

「愛……弟子……! ッ……もっと……もっと、早く伝えていれば……キミをこんなに苦しめずに済んだかもしれないんだね……! 俺が……臆病だったから…………ごめんね……!」

強く、強く私を抱きしめ直して、あなたは何度も私に「ごめんね」と「愛してる」を繰り返してくれた。

私はあなたの幸せを願い、背伸びして、自分の心を八つ裂きにした。
生まれ育った郷里からも離れようとした。

けれど、今なら分かる。

私自身の心を切り裂くことは、あなたの幸せを願うことには、決してならないのだと。

謝るのは、私。

あなたじゃない。

……愛弟子」

ゆらりと私の正面に顔を寄せ、あなたは、先ほどのように真っ直ぐ私を呼んだ。

「ウ、ツシ、教官……

視線を交わらせたまま、私も、応えるようにあなたを呼ぶ。

気付いた時には、お互いに顔を寄せ合って、唇を重ね合っていた。

少し厚くて、かさついている唇。
もしかしたら水も飲まずに、ずっと私を探し続けてくれていたのでしょうか。

水分不足でかさついていても、柔らかく、とても熱くて、何よりも優しい。

あなたの吐息が注がれる度に胸が高鳴って、あなたの緊張を帯びた情熱的な想いが、熱と共に私の体に、心に、じわりと熱く沁み渡る。


──好き

──好き、好き……

──誰に何と言われようと、あなたが好き、愛しています……


背伸びをやめた私の心は、ただただ、愛しいあなたを求めて止まない。

最初は、重ね合うだけで終えて、顔を離した。

「愛……弟子……!」
「ウツシ、教、官……
「そ、んな、可愛い顔しちゃ……ダメだ……! 俺……今、本当に、嬉しくて……! これ、以上は……!」
「わ、たし……私も……! 嬉、しくて……し、あわせで……! あなたと、居られるなら、あなたが、愛してくれるなら、わ、わた……わたしっ……! う、生まれて来て、よ、よかっ……!」

言葉なんて、もどかしい。

気持ちを乗せても乗せても、どんなに乗せても、伝えきれない。

私もあなたも、どちらからともなく、先ほどよりも求め合い、お互いの想いを注ぎ合うように、唇を重ね合う。

お互いの唇の端から、つう、と唾液が垂れて、月光はそれを鮮やかに煌めかせた。

いつの間にか、すっかり雲の散った夜空を飾る満月の光は無垢に、情熱的に、大切な人を愛する気持ちを燃え上がらせる。

「っ、は……はあっ……ウツシ、教官っ……!」
「愛弟子……! 愛弟子、大好きだッ……! 俺の、俺の愛弟子ッ……! っ、ふ……はぁ……

上気じょうきして揺れ滲む瞳で見つめ合い、愛しいあなたの視線が憂い、語ることを、私は一生懸命に受け止める。

そして、私の中にある、ありったけの想いで応える。

私たちはもつれ込むように、テント付近の崖壁がいへきの下、腰程度の長さまで伸びた深緑が生い茂る草むらの中へ。

私が崖壁に背を預け、あなたにしがみつき、あなたも私を抱きしめて、何度も何度も、深く唇を重ねる。

薄く目を開いた私の視界、テントの近くに、また、赤い小さな鳳仙花が揺れているのが見えた。

里を出る前も、昔も、いつか見た花。
傍にいてくれた花。

ふとそんなことを思ったけれど、そんな考えはすぐに、あなたのくれる極上の味の中に溶けていく。

視界を、大好きなあなたの優しくて、艶やかで、とろりと蕩けたような笑顔でいっぱいにする。

ますます胸が、体が、熱くなる。
あなたへの想いで、満たされていく。

何度目か分からなくなって、今度は私から唇を重ねると、あなたは「んんっ」と喉奥に声を響かせ、嬉しそうに応えてくれた。

誰もいない、狩場のテントの前。

慣れ親しんだ自然の中。

ようやく愛し合う私たちを見守るのは、分厚い雲の散った幻想の夜空を飾る満月と、微かな夜風に揺れる、小さな鳳仙花だけ。

健気に揺れる、鳳仙花。

その花言葉は『私に触れないで』。
そして『心を開く』、『燃えるような愛』。


@acadine