鳳仙花は燃え開く

MHRウ教×ハ♀。両片思い→相思相愛。
ハ♀視点。

鳳仙花の花言葉に纏わるお話。ハピエン。
自分はウ教に釣り合わないからと、彼が大好きなのに距離を置くハ♀。そんな彼に、縁談話が舞い込む。



世界から、あなた以外の『音』が。
時の流れが、消えた。

あなたの息遣いと、あなたの声しか、聞こえない。

目を見開いた途端、ぐらりと、視界が揺れ動いた気がする。

まるで、これが現実ではないと告げるような。

…………う、そ」
「残念だけど、俺はこんな時にキミに嘘をつかない。キミの声が聞こえない世界、キミの笑顔が見られない世界での俺の生には……何の意味も、価値もない」
「そ、んな、こと」
「愛弟子」

今度こそ、私の言葉を遮る意味で呟いたあなたの声は、今までに聞いたことがないほど、あまりにも真っ直ぐで、真剣で。

ほんの一瞬、あなたの腕の力が弱まった。

驚いている間に、私の体はぐるりと回転して、またあなたに、今度は正面から抱きしめられた。

動揺が浮かび上がった顔を、泣き腫らした目を見られてしまう。

逃れるように視線を地面に落とすと、あなたはまた、小さく笑った。

「大丈夫。……心配しないで、俺を見て」

とても落ち着く、奏でているように優しい、偽りのない柔らかな声であり、絶対的に信じられる、芯を感じる凛々しい声。

私は導かれるように、恐る恐る顔を上げ、涙で潤んだ瞳であなたを見上げる。

視線が絡み合った途端、あなたは「ありがとう」と、とても優しく微笑んでくれた。

もっと悲しげで、苦しそうな表情をしていると思ったのに、そんなことは全くなくて。

……キミの目を見ながら……もう一度、言わせてくれるかい」

また、さっきと同じ声。
真っ直ぐで、真剣で、心の奥底にまで響き渡る声。

私の幼稚な恥じらいを、下手な背伸びの願いを掻き消すような、あなたの力強い金色こんじきの眼差し。

それは、幼い頃によく見た、幸せそのものだった夕陽の金色に似ていた。

驚いて、みっともない泣き顔をして、沈黙を肯定にするような甘ったれの私だけを映す、月光よりも澄んだ瞳。

「俺は……キミを、愛している」


──同じ声音、同じ言葉


愚かな私でも、嫌でも分かる、告白の言葉。

真っ直ぐ私を見つめて、躊躇いなく告げられたそれは、今度こそこれが現実だと、五感を伝って私の中、心の奥底にまで染み込んでいく。

あなたを見つめているからか、視界は揺れずに保たれて、不思議と全身から力が抜けていく。

お風呂に浸かりすぎて、のぼせた時のように、ぼんやりとして。
でも、私は必死に思考をくるくると回転させる。


──返事

──返事を、しなきゃ……


もう、どんな返事をするかなんて、決まっている。

悩む必要なんかない。
どうして、ちゃんと言葉が浮かばないんだろう。

私はあなたのことが、こんなに、こんなに、好きなのに。

…………! あ、ぅ……! ぁああ……!!」

言葉が、出ない。

体が震えて、舌が先ほど以上にもつれて、うまく喋れない。

いつの間にか、月明かりに照らされてはっきりと見えた大好きなあなたの表情が、ますます滲んで、ゆがんで、ぼやけていく。

頭が、目が、体が、心が熱くて、気付けば私はまた泣いていた。

「──ッ……! あ……ぅううっ……!!」

全身から、ますます力が抜けて、足に力が入らない。
立っているはずなのに水中を揺蕩たゆたうような、不可思議な浮遊感。

あなたは私を支えるように、抱き直してくれた。
とても優しい、大好きな人の腕、尊敬する教官の、強者の腕。

「あ……っ! わ……た、し……! う、ぁああぁああッ……!」

子どもに戻ったように、私は、あなたの硬い胸当てに無理矢理顔を押し付け、声を上げて泣いてしまった。

もう、心も心臓も痛くない。
でも、とても苦しい。

杭に貫かれ、ぽっかりと穴が空いていた私の心は、あなたのくれた温かいもので満たされて。

そこから泉のように、あなたへの想いが込み上げた。

「う、ぅううっ、っひ、う……! あ、あい、ひ……! ふぐっ、ぁうううっ……!」


──愛しています

──ずっと、ずっと、あなただけを……


それはやはり言葉にならなくて、何度も、何度も首を縦に振る。
鋼鉄で冷たいはずのあなたの胸当ては、とても熱くて、優しく私を受け止めてくれた。

あなたの腕は私を抱きしめながら、大きな片手でずっと頭を撫でてくれる。

大好きな手。
ずっと、ずっと、触れてほしかった手。

この点だけは、私は間違っていなかった。

今までよりももっともっと、あなたへの想いが強く燃え上がる。
もう、離れたくないと思ってしまう。

こんなにも、こんなにもあなたが好きなのに、しっかり言葉にして伝えられないのが情けない、恥ずかしい。私は、もう大人なのに。

けれど、どんな言葉も、今の私の中の、あなたへの溢れ出る想いを表すには力不足で、陳腐だ。

この想いは、どんなに賢い人でも表すことはできないだろうと確信できる。


──ウツシにいに、だぁいすき!


幼い頃の純粋な想いは、私と共に成長した。

あなたの存在は、私の全て。
あなたが私にそう言ってくれたように、あなたが居てくれるから私は頑張れる。

私の心は、命は、世界は輝く。

ゆらりと顔を上げ、私は、あなたを真っ直ぐ見つめた。

「あ……愛、して……! 愛……して、います……!」

@acadine