鳳仙花は燃え開く

MHRウ教×ハ♀。両片思い→相思相愛。
ハ♀視点。

鳳仙花の花言葉に纏わるお話。ハピエン。
自分はウ教に釣り合わないからと、彼が大好きなのに距離を置くハ♀。そんな彼に、縁談話が舞い込む。



里の人が早寝で本当に良かったと、今日ほど思ったことはない。

夜が訪れてから、私はまるでまた狩猟に出かけるように、そっと小屋から外に出た。

次に来るのは、また早朝。
そしてその時は、もっと小屋の、里の全景を見よう。

二度と、戻らないつもりだから。

大好きなあなただけではなく、里長も、子どもさえも、この里の皆は紛れもない強者ツワモノ

百竜夜行と、嵐龍らんりゅうの災厄もついえた。

だから、もう、私はいなくても大丈夫。

(急がなきゃ。……名残惜しくなる……!)

私は自分で自分を急き立てながら、けれど、気配を、足音を殺して歩行を速める。

さすがにもう門のところに、あなたはいないと思っていたけれど、一応、太鼓橋を渡る前に確認する。

門の付近に誰の気配もしないことを確信して、ずきんと胸が痛くなって、苦しくて、嬉しくて、悲しくて、ほっとして。

私は歩く速度を上げた。

もう、ほとんど駆け足だった。


──おかえり、ウツシにいに……


この場所にこそ、思い出が多すぎて、後ろ髪どころか体全体を引っ張られているよう。


──キミがいてくれるから、俺、何があっても頑張れるよ……


……ッ!」

必死に目を閉じて、温かい7色の思い出を、最愛のあなたへの想いを振り払う。

そして、呪いのようにあなたの幸せを願いながら、私は、門を走ってくぐり抜けた。

幸せの恋物語なら、私がこの里を出ようとした時、大好きなあなたが追いかけて来てくれるのでしょうか。

そんな物語の中の主役になりたかったと口角を上げながら、私は必死に、大社跡を目指した。

あんなに晴れていたのに、今は、銀鼠色ぎんねずいろをした分厚い雲が空を覆って、月が見えない。

針の中を走っているように外気は冷たく、優しさを感じられるほど、私の体を容赦なく突き刺してくれた。

「はあっ! ……はあっ、はぁ……はあっ……!」

気付けば、また私は泣いていた。細く溢れた涙が止まらなくて、口の中にまで入って、しょっぱくて、煩わしくてたまらなかった。

胸が苦しくて、それでも走るのを止めたくなくて、大袈裟に呼吸を繰り返しながら、私は翔蟲も交え、走り続けた。

真っ黒の、無限の道を走り続けているように感じた頃。

ようやく、昼間もお世話になった大社跡のテントの明かりが見えてきて、どんなにほっとしたことでしょう。

思わず足を止めて、片腕で、顔中の汗と涙を乱暴にぬぐった。

……良かった、やっと……!」

肩を上下させながら呼吸を繰り返しながら、私が走るのをやめて、テントに入るために歩き出そうと、片足を踏み込んだ刹那。

体が、大きく後ろに引き寄せられた。

@acadine