鳳仙花は燃え開く

MHRウ教×ハ♀。両片思い→相思相愛。
ハ♀視点。

鳳仙花の花言葉に纏わるお話。ハピエン。
自分はウ教に釣り合わないからと、彼が大好きなのに距離を置くハ♀。そんな彼に、縁談話が舞い込む。



日々、当たり前のように命を賭けて、狩猟を終えて。

無事に感謝し、懸命に里に帰って門をくぐれば、大好きなあなたはいつも、私を待っててくれている。


──おかえり! 愛弟子!!


夕暮れ時でも、明月の夜でも、霧雨の夜でも、何も変わらず溌剌はつらつと響くあなたの声は、陽だまりの笑顔は、私のせいに理由を与えてくれたもの。


──ただいま戻りました、ウツシ教官!


いつもそう答える私の笑顔には、影が宿る。

一瞬で気道が狭くなり、胸が苦しくなって、どくんどくんと高鳴って、あなたを愛する想いが溢れそうになる。

私は、強く優しい素晴らしい人であるあなたに、釣り合わない。

なのに、あなたが好きで好きで、止まらない。

あなたは私なんかよりもっと優秀で、素敵な素晴らしい人と結ばれて、誰よりも幸せになってほしい。

涙まで溢れそうになるほどそう願って、どんなに私が距離を置こうとしても、あなたは私を出迎えてくれることをやめなかった。

一緒に食事をしようという誘いを私が何度も断っても、あなたは私に微笑みかけてくれる。

狩猟の前には必ず『無事で帰っておいで』と告げてくれる 。

胸が苦しくて、炎のように頭が熱くなって、おかしくなってしまいそう。

けれど私のそんな日々は、ようやくと言うべきか、ぱったりと終わりを告げることが決まった。

水縹色みはなだいろが美しい、よく晴れた清々しい澄空。

風はぬるくも冷たくもなく、ただ優しく里の桜と煙の香りを運んでいる。

狩猟前、里の外に位置するヨモギちゃんの茶屋の片隅の席で、うさ団子を頬張っていた時のこと。

私は、声を聞いた。

八百屋のワカナさんと、米屋のスズカリさんの、他愛もなく響いてきた世間話の声。

愛して止まない大好きな人、ウツシ教官に鍛えられ、狩場の僅かな自然音の変化をも聞き分けられるようになっていた私の耳に、その声は筒抜けも同然。

「聞いた? ウツシくんに縁談話があるんですってね」
「ああ、ワカナさんも聞いた? 好きな人がいる、みたいな噂もあったしね」
「ずっとわんぱくな男の子みたいなイメージだったけど、身を固めるような時期になったのねえ」


──縁談

──ウツシ教官に、好きな人?


「ん、ぐ……ッ!」

狭まった気道のせいもあり、団子を詰まらせそうになった私は、乱暴に湯呑みを掴んで、温くなっていたお茶を流し込む。

「っ、ふ……! はぁっ……はあっ……!?」

狩猟中でも、こんなに不自然に呼吸が荒くなることは少ない。

けれど今は、どんなに息を吸っても脳に、体に染み込まない。

瞬く間に冷えた心臓に、大きく、長く、太い杭が打ち込まれたようだった。
全身からは不思議と血の気が引いて、にも関わらず、額からは汗が滲んだ。

血の気が引いているのに、どうしてこんなに体が熱いのか分からなくて、足が、妙にそわそわした。

……ふーっ……! はあ……。っ、はあ……!」

何度も、何度も、息を吐く。

肩を揺らしながら、ゆっくり呼吸を繰り返す。


──これは、私の願っていたこと……


どんなに願っていたことか。
あなたに誰よりも幸せになってほしいと。


──これで、大好きなあなたは、幸せになれる……


あなたはとても素晴らしい人。
私のような小娘では駄目。

あなたにふさわしい人と、あなたが幸せになってくれるなら、これ以上の幸せはない。


──私以外の人と笑い合って、幸せに……


……う、ッ……!」

嗚呼、駄目。
ここに、居たくない。

いつもはぺろりとたいらげられるうさ団子も食べかけのまま、私は不自然なほどの勢いで立ち上がり、鉄砲玉のように里を飛び出した。

@acadine