鳳仙花は燃え開く

MHRウ教×ハ♀。両片思い→相思相愛。
ハ♀視点。

鳳仙花の花言葉に纏わるお話。ハピエン。
自分はウ教に釣り合わないからと、彼が大好きなのに距離を置くハ♀。そんな彼に、縁談話が舞い込む。



今日は難易度が低い依頼を選んだので、オトモなしの狩猟。

というのも、距離を置くようになってからなおさら、ウツシ教官のことばかり考えてしまう自分の頭を、気持ちを、整理したかったから。

その選択は間違っていなかったようで、おかしなところでほっとしてしまう。

生まれた時から見慣れている景色が、快晴の空が、墨色に見えた。
里の桜も、炎も、門の手前の太鼓橋も、色鮮やかに綺麗に見えていたはずなのに。

「っ、ふ……! ふ、ふふふふっ……!」

不思議と零れ落ちる笑声しょうせい

私は走りながら、黒く見える橋を渡って、白い世界に飛び出して行く。

まるで水墨画の世界に居るようだった。

白く、黒く、とても美しく、そして、広がるように滲んでいて。


──良かった……


走りながら、私は、いつしかそう思えるようになった。
そのはずなのに、水墨の景色はなかなか輪郭を取り戻してくれない。

狩場に到着して、人の気配がないことに安堵しながら、私はしばらくテントで泣く羽目になった。

テントに入った瞬間、全身から力が抜けて、へたりとその場に座り込む。

…………! あ……ああぁあああッ……!!」

泣くという行為は、時にとても合理的な行為だと思う。

少しだけ埃っぽくて、真っ黒に焦げた墨のようなニオイがするテントの中でも、何も気にならない。

両膝を両手で抱えて、みっともなく声を上げれば、心の中の、体の中の、炎のような熱を涙に込めて、全身の迷いや後悔を洗い流せるような気がするから。

時の流れから切り離された感覚で、ぽっかりと貫かれた心の鈍痛に晒されながら、私は泣いて、泣いて、ずっと泣いた。

やがて、心は涙の力で整い、悲痛と迷いの晴れた空虚の心は、私に決断を促す。

それは狩場に来る直前の、茶屋での感覚に似ている。


──居たくない

──出よう


断じるように、言い聞かせるように、私は自分の中で、繰り返しそう呟いて。

膝を抱えてそこに埋めていた顔をようやく上げた時、とても驚いた。

景色に、色が戻っていたから。

……良かった……

何に、誰に対して告げたのかは曖昧に、喉から漏れ落ちた私の声は、掠れた涙声なみだごえ

テントを出た途端、鮮やかな深緑が、青空の陽射しが眩しく、哀しいほどに鮮やかだった。

ぼわんと腫れぼったい目には心地良い薫風くんぷうの中、両目を懸命に開けて、私は得物を握りしめる。

心が、きりりと締め付けられるように痛む。

これは自嘲の痛みだ。
自分は本当に、愚かな小娘だと。

全てを振り払うようにテントを出て、あなたに教わった翔蟲を駆り、私は空を舞った。

@acadine