お芋さん太郎
2022-06-03 22:18:29
14148文字
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春色の屈辱を君に

※ツイステ
※デイヴィス・クルーウェル
※アシュトン・バルガス
※設定捏造

以前pixivに投稿していた作品です。




デイヴィスがマジカルペンを振ると南京錠が外れ、魔法薬学室の扉が開いた。
足音も立てずに静かに中に入り、戸を閉め、内側から魔法で施錠をする。

赤い手袋を脱ぎ作業台の上に置くと、いつの間にか赤いダリアに姿が戻った。

魔法薬学室の奥にはやわらかい光の射しこむ窓。
その光を求めるように魔法植物の鉢植えが所狭しと並んでおり、その一片に教師用の机が一台配置されている。
左右の壁には背の高さを超えるほどの棚があり、魔法薬を調合するための器具や材料がみっちりと詰められていた。

デイヴィスはこの空間が好きだ。
まだ授業で習わない未知のものに溢れ、好奇心を刺激される。
青々とした魔法の植物たちからは底知れないパワーを感じ、深呼吸すると新鮮な空気と一緒にその生命力も体に取り込まれるような感覚になる。

そして自分の手足となる不思議な器具たち。
重い陶器の器。頑丈な金属の鍋。繊細なガラスの管。
静かな室内にたたずむそれらに、デイヴィスはひどく心を惹かれるのだ。

「さあ、始めようか」

黒のワイシャツの袖をまくり、不敵な笑みで作業を開始した。





まず初めに向かうのは冷凍庫。

戸を開け、ガチガチの霜の中から小さなポリ瓶を取り出す。
中身を覗くとどす黒い個体が瓶の3割程度の高さまであった。残り僅か、慎重に使わねばならない。

「まずはボーンカウの血液を解凍する」

ポリ瓶をポリ袋に入れ、流水に浸ける。
そのあとすぐに振とう機と遠心分離機に電源を入れる。
液晶が明るく光ったことを確認して、右の棚に向かった。

棚から取り出したメスフラスコとトールビーカーを作業台の上に置き、次は鉢植えだ。
鉢のいくつかの配置をテキパキと変えていくと、目当ての植物オーロラホーンプラントを見つける。
葉っぱが細長くテカテカしており、葉脈には虹色の鋭い棘がいくつもある植物だ。
その植物になっているオレンジ色の丸い実をひとつだけいただく。
手に握り込めるほどの大きさの実はひんやりと冷たく、デイヴィスの手のひらの熱を少しだけ冷ました。

「そろそろか」

解凍した血液を新しいポリ瓶に計り取り、茶色のガロン瓶からそれと同量の蛍光ピンクの液体を計り入れた。
蓋をして軽く混ぜ、中でゆっくりと反応するのを確認。
手早く振とう機にセットして、温度をかけて10分間振とうさせる。

「よし、次だ」

真空パックに入っていた乾草を計って細かく手で砕き、トールビーカーに入れておく。

メスフラスコにろうとをセットし、その上でオレンジの実に穴をあける。
細い針でツンとひとつ突くと、水風船のようにパチンと割れて黄色の果汁がガラス器具の管をツルんと落ちて行った。
それを水で希釈し、乾草を入れたトールビーカーにすべて入れた。

それを火にかけて5分間煮沸。黄色の気泡がビーカーの中でグラグラと踊った。

「ン〜、ンン〜」

口から紡ぐはお気に入りのショップでいつも流れるBGM。
ひと昔前のポップスで曲名は分からない。
だがサビの部分が特に良い。

指で調子をとると、窓際の魔法植物の実が弾けた。
一日数回、決められた時間に種を飛ばす変異種の魔法植物グレネード・グリーングラスだ。
中にギュウギュウに詰められていた種は弾丸のような軌道で部屋のいたる所にぶつかり、器具に当たって澄んだ音を響かせた。

振とう機のブザーが鳴った。
ポリ瓶を取り出すと蛍光ピンクが濃い緑に変わっており、デイヴィスは満足げに頷いた。

沼のフチに生えている藻のような緑を、プラスチックの蓋つき試験管に移し替える。
なんとなく同じ量になるくらいに4本に分けた。
これを遠心分離する。機械にセットし、再び10分だ。

「ルル〜ル〜」

足で軽くステップを踏み、くるりと一回転。
もちろん何にもぶつからないように、慎重に。

生まれた気流で近くの魔法植物の葉っぱ同士が擦れ、カシャカシャと小気味よく合いの手を響かせた。

5分間の煮沸が済んだ。
ろうとに特殊素材のろ紙を貼ってろ過し、火の元を確認。
火気の無いことを確認して、ろ過したものをろ紙ごとアセトンで洗う。
次に熱湯で洗い、それを2回繰り返した。

「この匂いだけは慣れないな」

鼻をツンとつくにおいに顔をしかめ、小さな音を立てていた換気扇のスイッチを強に入れた。

その後、ろ紙ごと耐熱皿に入れて乾燥機に突っ込んだところで、計ったように遠心分離機が止まる。
分離した上澄みをビーカーに慎重にあけ、さらに特殊フィルターで濾すと液体は何も混じりけの無い透明の液体になった。
はじめの蛍光ピンクが嘘のようである。

「ララ〜ん?」

なにやら外が騒がしい。
窓から外を見ると、アシュトンが走っているのが見えた。
あいつは妙に察しが良いようだ。

見つからないようにサッと姿を隠し、作業に戻る。

鼻歌をやめ、ここから少しペースアップ。
小さな片手鍋に水を入れ、火にかける。

温度が上がるのをジッと待ち、温度計が56℃を示したところで透明の上澄み液を入れる。
時計回りに5回混ぜるとライムグリーンに変わった。

73℃。乾燥機から取り出したろ紙を、それごと鍋に入れた。
反時計回りに3回混ぜると、黄色と青のマーブルになる。

部屋の扉をノックする音が聞こえた。

78℃。1ツ目羊の涙を一番小さいスポイトで一滴だけ入れる。
色がどんどん薄くなってきた。これからずっと時計回りに混ぜながら少しずつ魔力を込めていく。

鍵をガチャガチャと乱暴にゆする音が聞こえた。

もう時間の問題か。
デイヴィスが額の汗をぬぐった。

懐からジップロックを取り出した。
歯形の付いたリンゴの芯から種を一粒だけ鍋に入れて、色は透明に戻る。
それから一度、沸騰させる。

魔法で粗熱をとり、これで完成。


「追い詰めたぜ! 先輩!」

魔法で施錠していた扉が強引に開け放たれる。
せっかくパズルのように美しい理論の魔法をかけたのに、そんなことをまるで無視した所業にひどく腹が立つ。

だが、準備は整った。

「こちらも大詰めだな」

そう言ってデイヴィスが武器を持ち直し、アシュトンに向かい合った。
『泡を食らう』のはお前の方だ。