お芋さん太郎
2022-06-03 22:18:29
14148文字
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春色の屈辱を君に

※ツイステ
※デイヴィス・クルーウェル
※アシュトン・バルガス
※設定捏造

以前pixivに投稿していた作品です。




食堂に寄り真っ赤なリンゴをひとつくすねたデイヴィスは、階段の脇を通り玄関ホールに出た。

あれから追手は見てはいないが、見つけられれば少々厄介。
だが日没までやり過ごしさえすれば俺の勝ちだ。

そして逃げ切るには。

「武器がいるな」

そう呟いてリンゴを一口齧った。

甘酸っぱく爽やかな果汁が口いっぱいに広がり、甘ったるい蜜の香りが鼻をくすぐる。
逃げるのに夢中ですっかりと忘れていた喉の渇きが、少し潤ったことに安堵した。

二つ、三つと歯型を残しながらホールをゆっくりと歩いて正面扉に向かう。
すると教室の並ぶ西の廊下からバタバタと走ってくる追手が見えた。

「見つけたぞ! くらえ!」
ッと、おい! 魔法での攻撃はルール違反だろう!」

怒号とともに飛んできた魔法を咄嗟に弾くとその軌道は明後日の方向に逸れ、廊下に飾ってあったド派手な花瓶を粉々にした。
デイヴィスが抗議の声を上げるも、相手はフンと鼻を鳴らした。

「あなたがルールを語るのか? 入学から今までありとあらゆる校則を破ったあなたが?」
「アーそれはちょっとした解釈の違いだ。実は俺は校則破りよりも人助けが好きなんだ。例えば、そう、空き缶拾いのボランティアとかな」
「なあ。お嬢際が悪いぜ、先輩よォ」

瞬間、デイヴィスの近くにあった石像が弾けとび、絵画が壁から落ちた。

「これは俺のせいじゃあ無いぞ。やったのはお前だ、アシュトン」
「もちろん。お叱りは受けますよ、あんたを捕まえた後でな!」

デイヴィスが階段を駆け上がるが、アシュトンの筋肉も伊達ではない。
みるみる間合いが詰まっていく。

「チッ、筋肉バカが」
「褒め言葉だぜ! ッなに!?」

アシュトンの手がデイヴィスのほんの数センチまで迫ったが、フワフワのコートに掠ってそのまま空を切った。
危うく逃れたデイヴィスはそのまま上の階へと到達し、階下を愉快に眺める。

階段の途中には足を止めたアシュトン。
彼の足には、植物のツルがミチミチと音を立てて絡みついていた。

ツルはシュルシュルと成長を続け、体の上部にまでそれが及ぶ。
焦ったアシュトンが目だけでツルの先を辿ると、そこには弾け飛んだ花瓶の破片。

アシュトンが「やられた」と、そう言って顔をしかめた。

「残念だったな二年坊主。このクルーウェル様を捕まえたきゃ『ここ』を使え、『ここ』を」

デイヴィスがマジカルペンの先で自らの頭をコツンと小突いた。

「クソっ! やっぱりルールを破ってるじゃないか!」
「おいおい、俺がいつ破ったってんだ。禁じられているのは『魔法を使っての攻撃』だろう。植物に魔力を与えてはいけないなんて決まりは無かったはずだぜ。ハハ、俺は心根が優しい人間だからな。お前が壊した花瓶の花が、ただただ死にゆくのを憐れんだだけだ。じゃあな」

アシュトンが悔しげに叫ぶが、デイヴィスにとっては仔犬がキャンキャン喚いている程度にすぎない。
ひらひらと手を振って愉悦の表情でその場を去った。

とはいえ、アシュトンはフィジカル的な面においてはなかなかの実力者である。
あれしきの足止め、もって数分。油断は禁物だ。

困ったことにアシュトンは行動力・機動力の優れた男であり、すぐに自分の居場所を見つけるだろう。
魔法の腕はこちらに分があるが、体力や筋力は向こうが上手。

しかも玄関に向かうところを見られたとなれば、きっとその道を塞いでくるはずだ。
ならばこちらはさらにその裏をかかねばならない。

空気に触れ、茶色くなってしまったリンゴを齧る。
芯に近い部分は酸味が強く、ピリリと脳を刺激した。

実のところ、デイヴィスが目指していたのは校舎の外。
メインストリートを抜けて購買部の前を通り、鏡舎を素通り、さらにその先の魔法薬学室だった。

ちょっとした薬剤を調合したかったのだ。
しかし偶然にも追われてきたのは西の廊下、しかも3階。
目的地とは全くの逆方向だった。

さてどうするか、と懐から取り出したジップロックにリンゴの芯を入れながら試案する。

猛々しい雄たけびが聞こえた。

もうすぐあいつが来るだろう。
走って逃げるか、それとも隠れるか。
マァその二択が普通なのだとは思うが。

しかしあいにくデイヴィスという人間は『普通』というものが大の嫌いなわけで。

足音が聞こえる。テンポが速い。

その二択から選ぶのはとてもつまらないと、感じてしまった。
遂に立ち止まって、顎に手を当て考え込む。

「観念したのか? 先輩」

背後から、あいつの声が聞こえた。
振り返って目を合わす。

「観念? なんだそれ?」

小首を傾げてニタリと笑い、弾かれたようにデイヴィスが動いた。

マジカルペンをピッと掲げると遠くにあった掃除用具入れからモップが一本呼び寄せられる。
それが手に納まったことを確認して渡り廊下の窓に足をかけ、躊躇いなど微塵も無く。

飛び降りた。

憎たらしいほどの快晴だった。
顔をしかめたくなるほどの深い深い青がずうっと上に広がるものだから、そのまま下に落ちていきたくなった。
俺に青は似合わないから。

「は? おいちょっと、先輩! デイヴィス!?」

アシュトンが飛び降りたデイヴィスを見下ろし、窓に駆け寄って叫んだ。
しかし下にデイヴィスの姿はなく、白と黒のハングライダーがスウっと遠ざかるだけだった。

「『先輩』か『様』を付けろ! このクソガキ!」

モップをフレームに、フワフワのコートを翼に変えて、ベスト姿で宙を滑る。
大声でアシュトンに文句を言いながらも心は少年のようにピョンピョンと弾んでいた。
白黒の髪の毛を梳かす風が心地よい。

目指すは魔法薬学室。
反撃は、ここからだ。