乙麻呂
2024-09-15 18:27:38
37637文字
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かいこさんの現代AUネタまとめ

かいこさんの現代AU風情の芸能ネタに夢を見過ぎで、色々と書き散らかしてしまった物をまとめました。《三次創作》です。
仙京坂35の活動やその他色んな部分は捏造と妄想です。



《風信と慕情がカラオケに行く話》



どうしてこうなったのか。
風信は慕情とカラオケボックスにいた。


健全な真っ昼間である。
いや、風信としては不健全な昼間でも良いんだが、互いに仕事が控えた身だ。自重する程度の理性はある。
理性はあるが、薄暗い部屋に慕情と二人きり。
ライトの仄かな光に浮かんだ慕情を見て、変な気分になるなと言うのも無理な話だろう。

ホームタウンから少し離れた観光地で、数時間の待機時間が出来てしまった慕情と、撮影機材の不調によりドラマの撮影が一時中断してしまった風信が出会ったのはほんの偶然だった。
顔が売れたタレント二人が安易にそこらをうろつくわけにもいかず、かつ時間を潰せそうな場所も無い。


その時、風信には誓って他意は無かった。しかし、向けられる慕情の視線から目を逸らした瞬間、見てしまったのだ。
2時間いくらの密室がある建物を。
「どうかしたか?」
風信の顔色が変わった事に気付いた慕情が無防備に尋ね、風信の目線を追おうとした。
「あ、あそこに…………
風信は慌ててその手前を指差した。
「カラオケがあるぞ!」
派手な看板が見えるその手前のビルには、青い看板に赤い文字でカラオケのチェーン店の名前が掲げられていた。
「まぁ、無難だな」
ひと目につかず互いに時間が潰せる場所として、慕情が納得してしまった。



慕情は壁にかかった液晶画面を見て眉を跳ねた。
画面には、カラオケチェーン店内での人気曲ランキングが表示されていた。
仙京坂35の曲が2曲ランクインしていて、8位と4位だ。
ベスト3には、風信でも知っているアイドルグループの新曲が並んでいる。
「やっぱり悔しいのか?」
何気なく聞くと、慕情は腕を組んでフンと鼻を鳴らした。
「新ドラマの主題歌と、大人気グループの新曲だ。予想の範囲内だな」
と言うわりには、その目付きは鋭い。
成る程悔しいんだなと結論付け、話題を変えようと風信はテーブルに置かれたメニューを手に取った。
「何か食べるか?」
慕情はメニューをチラリと見ると、ますます渋い顔をした。
「お前の好きそうなジャンクフードばっかりだな」
ポテトやたこ焼き、焼きそば、ポテトリングタワー。ラーメンに焼きおにぎり。確かに、健康的とは言えないメニューばかりだ。
「俺の好きな?」
風信は首を傾げる。
そりゃ嫌いではないし、時間が無い時はつい頼ってしまうが。
「最近はあんまり食べて無い」
自宅よりも慕情のマンションに帰る事の方が多い今日この頃である。
慕情の手料理の美味さを知ってしまってからは、別に食べたいとも思わなくなった。
食レポのような食べるような仕事が無い日は、朝仕事に行く前に『昨日の残りだ』とか言って軽食まで持たせてくれる。
撮影の合間に出るロケ弁は別として、わざわざ外に食べに行く必要も無い。
それに、慕情は何故か風信が出演した番組で食べた物の内容まで知っていたりする。
「俺の食生活なんて、お前が一番知ってるだろう?」
最早、風信自身よりも詳しいかも知れない。
……………言っておくが、間食もしていない」
慕情の目がジトリとしたままなのを見て、食事の合間にファーストフードやコンビニにも寄っていない事を訴える。
油分や糖分を無駄に摂取したら、せっかくピンナップにも載った肉体が駄目になるとか、計算した栄養バランスが無意味になるとか、そんな事でも考えてるんだろうなと思ったのだ。
「別に、お前が不摂生しようが俺には関係無い」
案の定、そっけなく言いながらも、慕情の表情が少し和らいだ。
「そんな物で腹が膨れて、俺の料理が食べれなくなったとか言ったら、もう作ってやらないがな」
「それは困る」
慕情の食事は下手な飲食店より美味いのだ。
風信の返事は慕情のお気に召すものだったらしい。
微かに頬を赤らめ、慕情は風信にデンモクを押し付けてきた。
「ほら、せっかくカラオケに来たんだ。何か歌えばいいだろう?」
「歌なんて歌えるか」
突っぱねると、現役アイドル様は面白そうに目を細めた。
「へぇ、音痴なのか?」
「違う。少なくとも、歌下手芸人の番組には呼ばれたことは無い」
歌うま芸人の番組にも呼ばれた事は無いが。
「お前が歌えば良いだろう」
デンモクを突き返すと、慕情は軽笑した。
「安心しろ。お前がどんなに下手でも、人前ではネタにしない」
「謝憐や師青玄にも言うなよ?いや、音痴じゃ無いんだが」
多分。自分の歌声の良し悪しはよく分からない。
風信の嫌そうな表情を見て、慕情はようやく笑った。デンモクを受け取り、操作しながら言う。
「ま、お前にカラオケの一番手は無理だろ。仕方ない、リクエストはあるか?」
「リクエスト?」
問い返すと、風信の問いが不可解だとでも言うように慕情は眉を上げた。
「アイドルに曲のリクエストをする機会なんてそうそう無いぞ?」
慕情も、風信が歌に疎いのは分かっていた。
近しい人間が時代の顔と持て囃されるアイドルをしていても、まるで興味を示さないような奴だ。
仙京坂の歌を知っている事など期待していない。
風信がどんな曲をリクエストしてくるのか、単純に興味が湧いただけだ。
自分が主演を務めたドラマの主題歌か、一昔前に流行った曲か。はたまた、誰でも知っているような定番曲か、まさかアニソンか。
案の定、風信は心底困った顔をする。
「と言われても、お前の歌なんか知らないしな………
「別に仙楽坂の曲じゃなくても良い」
無いなら歌わない、と慕情は腕を組む。

別に無理に歌ってくれなくても良いが、それも勿体無い気がして風信は考え込んだ。
……………前の」
「ん?」
「去年のライブで、お前が一人で歌ってた曲。あれもカラオケに入ってるのか?」
思い出すのは一面の青の光。
その中で一人で歌う慕情は綺麗だった。曲もバラードで、聞きやすかった。生憎タイトルは分からないが、慕情なら分かるだろう。


まさか自分のソロ曲を指名されるとは思っていなかった慕情は面食らい、顔が一気に赤らんだが、生憎風信は気付かなかった。


………入ってるだろうな」
慕情は呟くと、手慣れた様子でデンモクから仙楽坂35の曲を出し、自分のソロ曲を選んだ。
そしてマイク……………では無く、自分の鞄を引き寄せる。
「言っておくが、衣装は無いからな」
ハァ、と嘆息しながら慕情が鞄を漁る。
「ハァ……?」
カラオケにマイク以外の用意が必要なんだろうか。そして何故呆れた顔をされたのだろうか。風信は首を傾げながらそれを見ていたが…………
鞄から出てきたものを見て思わず目を見張った。
慕情は手慣れた仕草で髪をまとめ始める。
ぱちん、と音がすると、慕情は長い後ろ髪を青いリボンで纏めたアイドル仕様になっていた。
仕上げにピンクのリップグロスを塗り、慕情は呟いた。
……………こんな物か」
そして今度こそマイクを持つと、ソファから立ち上がり、自分のソロ曲を歌い始めた。
成る程、次の現場に向けて持ち歩いていたのかと頭の片隅では納得したが、風信の思考の大半は別の疑問で満たされていた。


自分は女装までリクエストしただろうか?
それとも、リクエスト内容に女装も含まれていたのだろうか??


しかし、歌う慕情を見ているとどちらでも良いかと言う気分になってくる。
ライブ程の熱は無いし音響も正直荒いが、それに重なる慕情の歌声はやはり綺麗だった。
天井から降る淡いライトの光に、グロスを塗った慕情の唇が光る。
時折震え、掠れる歌声は歌に疎い風信からしてもとても情緒たっぷりで……………



いやいやいや。


込み上げる何か別の衝動を、風信は冷たい烏龍茶で流し込んだ。
ジュースは太ると、慕情に勝手に頼まれたのだ。
歌が乗ってきたのか、無意識なのか、歌に合わせて振り付けをなぞるように慕情の体が小さく揺れている。
勿論スカートでは無く、スラックスにトップスと言うシンプルな私服だが…………
風信は今更、重大な事実に気付いてしまった。

もしかして、スカートよりもスラックの方がやばいんじゃないだろうか?

慕情が動く度、トップスの裾からスラックに包まれた慕情の腰から太腿にかけてのラインが見える。
もう少し言うと、ボディラインに沿った細いスラックに、女のように柔らかくは無いが硬くも無いと知っている曲線が浮いていた。
それが至近距離で踊っている。
…………………
風信は一気に烏龍茶を飲み干した。


最後に一際美しいビブラートを響かせ、慕情は風信を見た。
「どうだ?」
「美味かった」
風信は真顔で答えた。
「下手なわけ無いだろ。つまらない感想だな」
上手いと言われても嬉しく無いとボヤく慕情から視線を逸らし、風信はデンモクを取り上げた。
とにかくこの何かの衝動を発散しなければ。

「へぇ、楽しみだな」
なのに、慕情がやけに楽しげかつ無防備にデンモクを覗き込んでくるから、風信は何の曲を選んでいるか半分以上分からなかった。
風信が適当に選んだ曲を見て、慕情が目を丸くする。
「お前、仙京坂の新曲なんて歌えるのか?」
「は?」
何か見た事のあるタイトルだと思ったら、カラオケのランキング4位に載っていた曲だった。




風信の音痴疑惑は吹聴されなかったようだが、仙京坂35の曲をカラオケで披露したのは本当か?とその後謝憐からこっそり聞かれ、師青玄からは「今度一緒にカラオケ行こう!私にも聴かせてくれるよね?」と笑顔で絡まれた。
風信には、力無く『せめて明儀は連れて来るな』と言うしか出来なかった。