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乙麻呂
2024-09-15 18:27:38
37637文字
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かいこさんの現代AUネタまとめ
かいこさんの現代AU風情の芸能ネタに夢を見過ぎで、色々と書き散らかしてしまった物をまとめました。《三次創作》です。
仙京坂35の活動やその他色んな部分は捏造と妄想です。
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《慕情誕生日ライブ2022》
『ねぇ、この日空いてない?』
風信のスマホにそんなメッセージが入ったのは、三月も終わろうと言うとある日の午後だった。
送り主は緑のリボンを付けた白いクマのぬいぐるみのアイコンで、両手で持った緑のハートには《仙京坂35》と書かれている。
一瞬ドキッとしたのは、滅多にやり取りはしないが最近やたらと気になっているアイコンとそっくりだったからだ。
そっちは淡いベージュのクマが青いリボンを付けて青いハートを抱えている。
今度やるライブのグッズなのだと、実に淡白な態度で言っていた。
『慕情も明兄も宣伝とかしないんだから、こーゆー所でアピールしないと!』とか何とか言って、師青玄に押し切られたらしい。
まぁ、風信も事務所の指示で自分のドラマのオフショをアイコンにしているので、そこら辺は分からなくも無い。
本人の写真じゃなくて良いのか?と疑問はあるが、女装慕情がSNSのアイコンに並んでいたら何と無く落ち着かないので、クマで良かった。
特に、最近は互いに仕事が忙しくあまり会えていないので、尚更だ。
そんな事を考えながら届いたメッセージを開くと、画像が添付されていた。
それはどう見てもチケットだった。印字されているのは、仙京坂35ドームツアーの文字。
つまり、師青玄は自分のライブのチケットの写真を送って来たのだ。
その日にちと時間を見て、風信はスマホのスケジュールアプリと照らし合わせる。
丁度その日は半日オフで、夕方から始まるライブの時間は丸々空いていた。
空いてはいる、が。
「
…………………
」
風信は慕情と“不仲”だし、ライブにも興味が無い。
意図が分かりきった問いかけに、正直に“空いている”と伝えるのを躊躇っていると、手の中でスマホが震えて更にメッセージが表示された。
『空いて無くても何とかスケジュール調整してね。いいもの見せてあ・げ・る』
その後に何故か片目を瞑ってキスを投げるウサギのスタンプ。
風信は暫く考えた末、『分かった』と返した。
◆◇◆◇
師青玄が用意したチケットは、意外にも二階の後方と言うかなりステージから遠い席だった。
関係者席かと思っていただけに拍子抜けする。
これでは、ステージからは風信の姿など到底見つけられないだろう。
開始時間間際に入ったので、既に客層は殆どが埋まっていた。
メンバーカラーの服や小物を身につけ、うちわやペンライトを両手に持っている何千もの人間がいるのは壮観で、同時に自分の場違いさが余計に身に沁みる。
慕情には、ライブに行く事は言っていない。
と言うより、慕情は連日のライブやその練習や打ち合わせで忙しくしており、TV局での仕事も無く、ここ暫くは顔も合わせていなかった。
アイツは、今日風信が来る事は知ってるのだろうか。
唐突に会場の照明が消えた。
何千ものざわめきが一瞬で静かになる。
中央のステージに眩い程のライトが当たる。
風信まで妙な緊張を覚える中、ステージ上で青と緑、灰色の三色のスモークが吹き出した。
曲のイントロが弾けるように流れ出し、ステージに三つの人影が現れる。
悲鳴じみた歓声が上がる中、伸びやかな歌声がドームを満たした。
「みんなー!今日は来てくれてありがとー!!」
歌の合間に、師青玄が満面の笑みで大きく手を振って客席を見渡した。
「同じパフォーマンスは二度はしない。目を離さないで」
「忘れられない時間にしてやるから、覚悟するんだな」
明儀と慕情もそれぞれ客席を見据えて声を張り上げる。
師青玄に比べると何とも冷淡に見える二人も、ステージの上では焼け付くような存在感を放っていた。
そして始まったライブは、アイドルに疎い風信からしても確かに目を離せない物だった。
女装アイドルと言ったらネタ物扱いされそうな物だが、圧倒的なパフォーマンスと芯のある歌声は女装だと言う事を忘れさせるだけの迫力があった。
動きづらそうなマント姿で舞ったかと思えば、曲が変わった瞬間にマントを脱ぎ捨て、チャイナ服を模した身軽な衣装に一瞬で変わると疾走感のある歌声を披露する。
今までロングブーツで立ち回っていた事に気付き、風信は思わず唸りそうになった。
自分がしたら、捻挫しているかも知れない。
そもそもあんな風に歌って踊るのは無理だ。
背後のモニターに時折大映しになる慕情の顔は普段よりハッキリと化粧がされており、凛々しくも妖艶な空気を醸し出していた。
客席を何度も見渡す師青玄とは違い、慕情の視線はぶれる事は無い。
探す素振りすら見せないと言う事は、やはり風信が来ている事は知らないんだろうか。
師青玄が独断でチケットを送って来た事は、何と無く察していた。
知っていたら、慕情は間違いなく止めていただろう。
知っていても、この距離では慕情には風信の姿など米粒のようにしか見えない筈だ。
瞬く間に数曲が終わり、師青玄の声が会場に響き渡った。
「皆ー!楽しんでるー?これからもっと熱くなるんだから、ちゃんと水分飲んで、最後まで盛り上げてね?」
客席から一斉に「はぁい」だか「キャー」だか「わかったー」だか声が上がる。
クスクスと笑いながら満足げに頷く師青玄に、明儀がペットボトルを渡した。
「そう言う自分が一番倒れそうだけどね」
「あはは、確かに。ありがとー、明兄。ね、お母さんみたいでしょ」
「誰が母親だ!?」
二人のやり取りに会場全体から笑いと歓声があがる。
慕情は、我関せずで自分のペットボトルを手にしながらタオルで汗を拭っていた。
巨大スクリーンの一つにその横顔が大写しになる。
「
……………
」
口紅が取れないようにストローを咥える口元。小さく上下する白い喉。
目を縁取る、長い睫毛の影が目元に落ちる。そして、化粧をしていてもはっきりと分かる紅潮した頬。
額を流れる汗。
このままではライブの最中にトイレに篭る羽目になりそうな気がして、風信はそっと目を背けた。
危ない。何がどうとは言わないが、危ない。
深呼吸をしている間に、ステージでは三人のMCが始まっていた。
話題は、昨日ライブの後に三人でラーメンを食べに行った事だった。
ライブの後食べるラーメンは最高だった、つい替え玉したから危うく今日の衣装が入らなくなる所だったと笑う師青玄。
明儀がしれっとチャーシュー倍増しの特大ラーメンを、餃子、炒飯付きで食べたと明かす。
慕情が呆れた顔で、まぁライブでラーメン分のカロリーは余裕で消費してるだろうがと零す。
明儀が、じゃあ今度から我慢しないで食べて良いなと呟くと、また会場から笑いが起きた。
どうやら仙京坂35のブログだかにラーメン屋に行った話と写真が載っていたらしく、会場からは「あれより食べるのー?」だとか「慕情も風師も結構食べてたよね」だとか声が上がる。
それから話は次のツアーの開催地の話になり、明儀が名物の味噌カツを特大サイズで食べると宣言し、師青玄がドラマのロケ地にもなった有名な“恋人の丘”に行きたいと言った。
慕情はどちらに対しても「私は付き合わない」とキッパリ言い放ち、そもそも観光してる暇なんて無いと身も蓋もない事を言う。
あの三人でMCなど成り立つのかと思っていたが、意外にも盛り上がっている事に驚いた。
そろそろMCも終わりと言う頃になって、唐突に師青玄が意味ありげに客席へ視線を向けた。
…………
風信の方を見て笑った気がしたのは、気のせいだと思いたい。
「所で、今日は何の日か、仙京坂35のファンの皆なら知ってるよね?」
呼びかけに、ファンからは「知ってるー!」と興奮した声が上がる。
仙京坂35のファンでは無い風信は、ただその異様な一体感に唖然とするしか無い。
全てのモニターが慕情を映し出した。
示し合わせたように、客席が一面青色に染まる。
会場のファンが一人残らずペンライトを青く灯したのだ。
師青玄の一際明るく大きな声が響き渡る。
「今日は、慕情の誕生日でーす!!おめでとう!!」
その声に合わせて、モニターの慕情の周囲に『HAPPY BIRTHDAY』の文字と紙吹雪が舞う。
客席中からおめでとうの声が飛び交った。
慕情が気恥ずかしそうに少し眉を寄せて口を曲げるのが見えた。
しかし、すぐに笑みを浮かべると「ありがとう、こうして皆に祝って貰えて嬉しいです」とそつ無く言う。
「それでは、次はお待ちかね。そんな慕情のソロ曲です!」
師青玄と明儀がスッとステージからはけ、慕情がステージの中央に進み出た。
ゆったりとしたメロディが流れ始める。
慕情は曲のタイトルを口にすると、しっとりとした声で歌い始めた。
青いペンライトが水面のように揺れる。
この瞬間だけは、ここは慕情一人の為の空間だった。
師青玄は風信にこの光景を見せる為に呼んだのだ。
不思議な一体感と慕情のハリのある歌声に包まれながら、風信はようやく理解した。
会いたい、とふと思う。
目の前に居るのに、ひどく遠く感じた。今この瞬間、慕情は風信とは違う世界にいた。
この時まで、今日が慕情の誕生日だと言う事も忘れていたと言うのに勝手なものだ。
ライブは、風信の目から見ても大成功だった。
ライブが終わり、仙京坂35の三人がステージから姿を消しても興奮は収まらず、拍手と歓声はなかなか止まなかった。
風信も暫く座ったまま放心状態でいたが、ふと我に返ってスマホの電源を入れた。
急ぎの連絡は来ていないようで安堵していると、緑のクマのアイコンからメッセージが連続して届いた。
『見てくれた?今度感想聞かせてね♪』
ライブ直後に随分と余裕があるなと思わず苦笑する。
『所で私たち、これから少し打ち合わせしたら今日は解散するんだよね。慕情も疲れたから真っ直ぐ帰るって!』
『それと、明日はライブ無くてオフだから』
何故か、意味ありげに笑うウサギのスタンプが添えられている。
仙京坂35のスケジュールなど、風信には関係無い。
関係は無い、が。
偶然にも、風信も明日までオフだった。
さっき抑え込んだよからぬ方面の興奮が、体にじわりと広がる。
とりあえず、どこか洒落た洋菓子店でも見つけないとなと浮かれそうな頭で思う。
流石に、今日が何の日か気付いてしまったからには手ぶらでは行けない。
ついでに、“アレ”がポケットに入っているかも確認してしまったのはご愛嬌である。
風信は、高揚した気分のままライブ会場を後にした。
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